イネ科の特徴                 
 
 植物に限らず最大の目的は子孫を残すことです。すなわちいかに効率よく種子を発芽させるかということなのです。
 発芽の確率を高めるためには、なるべく種子を多くつくらなければなりません。1個の花がたくさんの種子をつくると、1個あたりの種子の大きさは小さくなります。極端にいうと、粉のような種子になります。これでは胚乳に蓄える養分の量は非常に少なくなってしまいます。
 そこでイネ科の登場です。花の数を大幅に増やしたのです。イネ科ではたくさんの花を集合させたものを小穂と呼んでいます。この小穂がさらにたくさん集まって穂をつくります。花の数は増えますが、1個の花には1個しか種子ができないので、胚乳に充分な養分を蓄えることができます。
 

イネ科共通の派生形質

・ 茎の断面は円形。よく似たカヤツリグサ科の断面は三角形。
・ 葉は線形で長く平行脈。つくりは葉鞘(ようしょう)葉身(ようしん)からなっています。
・ 葉鞘の開口部には葉舌(ようぜつ)葉耳(ようじ)をもつものがあります。
・ 花は目立たない。花のまとまりを小穂(しょうすい)といい、小穂の基部には苞穎(ほうえい)があります。
・ 小穂が集まって穂状(すいじょう)花序(かじょ)または総状花序をつくります。
・ 小花(しょうか)は、めしべ、おしべ、りん()内穎(ないえい)護穎(ごえい)から成り立ちます。
・ 風媒花(ふうばいか)であり、めしべの柱頭(ちゅうとう)はひげまたはブラシ状になっています。
・ おしべはほとんどが3本で、まれに1〜2本のものやイネ亜科のように6本のものもあります。
・ 1年生、多年生、木本(樹木)などがある。冬、()れるもの、根が残るもの、まったく枯れないものがあります。

 

 茎の切り口は円形 
  これは、さわってみるとわかります。
  イネ科と見かけが似ているカヤツリグサ科のものには、切り口が三角形のものがあります。
  カヤツリグサ科にも円形の切り口のものがありますから、円形だから、必ずイネ科だというわけでもありません。
  茎の中がストローのように空洞(くうどう)のものや(しん)のあるものがあります。

 

 葉が細長く、葉脈(ようみゃく)は平行脈である。 
 図のように細長い葉ですからすぐわかります。
 コブナグサのように比較的みじかいものから、ヨシやススキのようにかなり長いものまで、いろいろあります。
 葉脈(葉のすじ)は、たてに何本もとおっており、あみ目もようにはなっていません。
 このような葉をもつ種類を単子葉植物あるいは単子葉類といいます。

 

 葉のつくりは葉鞘(ようしょう)葉身(ようしん)からなっている。 
 細長い葉の部分が葉身(ようしん)です。
 葉鞘(ようしょう)というのは、(かたな)(さや)のように茎をつつんでいるものです。
 葉鞘には、完全な筒形(つつがた)(ストローのようにたてに切れ目がないものを完筒形(かんとうけい)という)と、1枚の紙を巻きつけたような形の2種類あります。
 イネ科は、ほとんどが巻きつけた形であるが、イヌムギのように完筒形もあります。

 

 葉鞘の開口部には葉舌(ようぜつ)葉耳(ようじ)をもつものがある。 
 葉鞘の入り口のところを鞘口(しょうこう)といいます。
 鞘口には、葉舌(ようぜつ)がつきだしています。葉舌の舌はしたとも読み、口の中にあるベロのことです。葉のベロみたいだから葉舌というのですね。
 こちらはイヌムギで、もっとも葉舌らしい形をしています。  こちらはオギで、葉舌が毛に変化しています。
 葉耳は、葉身が葉鞘につながるところで、耳たぶのようになったものをいいます。
 葉耳をもつものは、そう多くはありません。イグサ科にもありますから、イネ科だけの特徴というわけではありませんが、見わけるときにはよい目印になります。

 

 花は目だたず、穂状花序または総状花序 
 
 イネ科の花序(かじょ)の基本は、穂状(すいじょう)花序または総状花序です。()が組み合わさって、さらに、つぎのような形の花序になります。
 主軸に小穂(しょうすい)が列になってつく  分かれた枝に、小穂が列になってつく  円すい花序
 分かれた先に小穂をつける
 小穂に()がほとんどなく、すき間なくつく  小穂は、円柱(えんちゅう)状につく
カモジグサ
カモノハシ
ネズミムギ
ホソネズミムギ
メリケンカルカヤ

 小穂に柄があるものは総状花序、ないものは穂状花序になります。
アゼガヤ
オギ
オヒシバ
ギョウギシバ
コブナグサ
ササガヤ
ススキ
スズメノヒエ
トダシバ
ナルコビエ
メヒシバ
イヌムギ
オオクサキビ
カゼクサ
カニツリグサ
カラスムギ
コバンソウ
ススメノカタビラ
スズメノチャヒキ
セイバンモロコシ
チゴザサ
ニワホコリ
ヌカキビ
マコモ
ミゾイチゴツナギ
ヨシ
イヌビエ
カズノコグサ
クサヨシ
ケチヂミザサ
ヒエガエリ
アワ
エノコログサ
オオアワガエリ
スズメノテッポウ
セトガヤ
チカラシバ
チガヤ
ミノボロ

 

 小穂 
 それぞれの花序(かじょ)は、左図のような小穂(しょうすい)が集まってできています。
 小穂の基部には、苞穎(ほうえい)があります。
 小穂の中の1つ1つが小花(しょうか)とよばれるものです。1個の小花(しょうか)で小穂をつくっているものもあれば、いくつもの小花が集まって小穂をつくっているものもあります。
 見分け方は、下図を参考にしてください。
 苞穎(ほうえい)があることから、1個の小花(しょうか)からなる小穂(しょうすい)であることがわかります。  苞穎がないことから、小穂ではなく、小花であることがわかります。
 エノコログサのように、もともとは2個の小花からなる小穂であったが、そのうちの1個の小花が退化して護穎(ごえい)だけが残り、退化してない小花の護穎とさらに2枚の苞穎(ほうえい)内穎(ないえい)、あわせて5枚の穎が観察できるものがあります。  これらの苞穎、護穎を外側から第1穎、第2穎
 のようによびます。

 

 小花は、めしべ、おしべ、りん皮、内穎、護穎から成り立つ 
 カモジグサのようにいくつかの小花(しょうか)が集まって小穂(しょうすい)をつくっているものがあります。
 写真は、小穂から1番下の小花を残して、あとの小花をとりのぞいたものです。小穂をたばねる長い苞穎(ほうえい)が2個あります。   
 苞穎をとりのぞいたものです。これが小花です。
 小花の1番外側が護穎(ごえい)です。護穎には、(のぎ)という針のようなものがついています。芒がないものもあります。  
 うらがえすと、護穎の反対側に内穎(ないえい)が見えます。おしべやめしべは、この内穎に半分つつまれるようについています。  
 チカラシバは、カモジグサとは(こと)なっています。
 2つの小花のうち1つが退化して、護穎(第3穎)だけが残ったので、退化しない小花の護穎(第4穎)と2つの護穎があります。
 第1穎は苞穎がかすかに残っており、第2穎は小さいですが苞穎です。
 チカラシバのすべての穎をとりのぞいたものです。
 子房(しぼう)の基部に2枚のりん皮というものがあります。これは、2枚の花被片(かひへん)が退化したものです。
 子房からは2本の花柱(かちゅう)が出て、柱頭(ちゅうとう)は多数の毛に枝分かれしています。
 おしべは、3本あります。

 

 めしべ 
 イネ科のめしべは子房から太い2本の花柱が出て、その先が羽毛状またはブラシ状の柱頭になっています。  オオアワガエリの柱頭を拡大してみると、細かくブラシ状になっており、花粉をとらえる表面積を大きくしています。

 

 おしべ 
 おしべは2個の葯室(やくしつ)と1本の花糸からなり立っています。
 ミノボロの写真は開花前の小花をむりやり広げて撮影したものです。
ホソネズミムギ ミノボロ
  イネ科のほとんどは、3本のおしべですが、イネやマコモのように6本のおしべをもつものも少しはあります。
 むずかしい図鑑に雄蕊(ゆうずい)と書いてあるのは、おしべのことです。
ヤクナガイヌムギ マコモ

 

 根は、ひげ根 
単子葉植物 双子葉植物  イネ科は単子葉植物ですから、根はひげ根です。
 同じくらいの太さの根がもじゃもじゃと生えています。
 これに対して、あみ目もような葉をもつ双子葉植物の根は、木の枝のように太い根から細い根が枝分かれしています。
 このような根を主根(しゅこん)側根(そっこん)といいます。
 ひげ根は、主根・側根のように深く根を下ろすことはありません。比較的浅いのです。
ひげ根 主根・側根

 

 1年生、多年生、木本などがある。冬、かれるもの、根が残るもの、まったく枯れないものがある 
 冬は気温が下がり、植物にとって過ごしやすいものではありません。
 どうやって冬を過ごすか?
 これは大きな問題です。
 けなげにも、そのままのすがたで冬をこす植物もいますが、少ないでしょう。
 ロゼットいう形になって冬をこすものもいます。
 ロゼットというのは、タンポポのように放射状に広がって土にへばりついているものです。
 地上部が枯れて、根だけが生き残るものもあります。
 イネ科は、どうやって冬をこすのでしょうか?
 3つのタイプがあります。 
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 地上部も根もすべて枯れてしまい、種子だけが残って次の世代に命をたくすもの。小型のものに多い。
A  地上部は枯れ、地下茎と根(根茎)が残るもの。ススキなど。
B  地上部も地下部もすべて残るもの。タケのなかまなど。
 タケってイネ科のなかまなんです。
 土の中に地下茎がとおっています。その地下茎からタケノコがのびてタケになるんですが、地下茎は茎ですから、そこからのびてくるタケは茎ではなく、葉柄(ようへい)なのです。
 だから、1本のタケは1枚の巨大な葉に相当するのです。びっくりですね。


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