第20回  単子葉植物最大の進化  ツユクサ類

 中核単子葉植物 (core monocots) は、ユリ科からアスパラガス科を経て、大きな進化を迎えます。
 今からおよそ12,200万年前、中核単子葉植物のアスパラガス目とたもとを分けて、新しい単子葉植物が誕生しました。
 このなかまを commmelinoids (ツユクサ類)と呼ぶことにします。
 今までの中核単子葉植物と比べて、いったい、どんなところが変わったのでしょうか。
 それは、目に見える変化ばかりではありません。ツユクサ類の場合、重要な変化は目に見えないところで起こっていたのです。
 それは、種子の中に現れます。
 種子の中には、養分をたくわえる胚乳(はいにゅう)内乳(ないにゅう))というところがあります。ツユクサ類以前の植物は、そこにタンパク質や脂肪をたくわえていました。
 タンパク質は、アミノ酸というさらに小さな物質が集まってできています。このアミノ酸は、生物の遺伝にかかわるDNAをつくる物質でもあります。
 動物では、皮ふや筋肉をつくる物質にもなります。
 脂肪は、エネルギー源として使われます。
 しかし、植物のからだは、主に炭水化物でできています。
 炭水化物で有名なのは、糖とデンプンですが、植物には、繊維をつくっているセルロースという炭水化物もあります。
 したがって、植物の種子には、デンプンがたくわえられたほうがつごうがよいのです。
 ツユクサ類の植物の種子には、まさに、このデンプンがたくわえられたのです。
 ツユクサ類といっても、ツユクサのような植物ばかりではありません。下の系統図にある4つの目からなりたっています。

 

 f.10 ツユクサ類 commelinoids

 アスパラガス目から大きく進化したツユクサ類のトップバッターはヤシ目です。
ヤシ目の植物は、独特の進化をなしとげています。

 ヤシ目が誕生したのは、今からおよそ12,000万年前 のことです。この数字は確実ではありません。今後の研究によっては、変更になる場合も大いに考えられます。
 ヤシ目にはダシポゴン科とヤシ科の2科があります。
 ダシポゴン科はオーストラリア南部の固有種で4つの属があります。
 ヤシ科は150〜235属(研究者による)にもなる大所帯なので、APGではこれらを5つの亜科に分けています。
 さらに亜科はいくつかの連に分かれます。 
1 アレカヤシ亜科
2 ケロクシロン亜科
3 コリファ亜科
4
トウ亜科
5
ニッパヤシ亜科

 

 f.11 ヤシ目   arecales
  
 ダイオウヤシ
 学名 Roystonea regia (Kunth) Cook  アレカヤシ亜科 ダイオウヤシ属
 2000以上の種類があるヤシの中で、セイタカのっぽはダイオウヤシです。
 大王というくらいですから、貫禄(かんろく)があります。
 写真は、東京都夢の島熱帯植物館の大きなドームいっぱいにのびたダイオウヤシです。20mくらいあるそうです。
 
 ダイオウヤシを下かが見上げてみます。
 巨大な葉が、まるで屋根のように広がっています。
 ユスラヤシに比べると、ダイオウヤシの幹はすべすべしています。
 
 ユスラヤシ
 学名 Archontophoenix alexandrae (F. Muell.) H. Wendl. et Drude  アレカヤシ亜科 ユスラヤシ属
 左の写真で手前にあるのがダイオウヤシですが、うしろのほうにある、これもセイタカのっぽのヤシはユスラヤシといいます。
 ユスラヤシの方が(みき)が細いようです。
 どちらも幹にしまもようがあります。
 
 ココヤシ
 学名 Cocos nucifera L.  アレカヤシ亜科 ココヤシ属
 ヤシ科の中でもっとも広く知れわたっているのは、何といってもココヤシでしょう。
 ココヤシは、非常に利用価値がありますから、さかんに植樹され、栽培されています。
 椰子(やし)()といえば、だれでもココヤシの果実(かじつ)を思いうかべるでしょう。
 ココヤシの果実の中には、水がふくまれており、水の少ない島などでは飲料水として利用されています。
 果実の中には子房(しぼう)が多くふくまれており、19世紀頃からマーガリンや石けんの材料にされるようになりましたが、最近ではアブラヤシにその地位をとられてしまったようです。
 また、果実にはゼリー状の層もあり、ほとんど繊維(せんい)でできています。
 これを加工したフィリピンのおいしいナタデココは、大流行したことがあります。
 
 写真を見ると、果実の中に大きな種子があるように見えますが、これは目のさっかくで、ほんとうは空洞になっており、そこにはほのかにあまい水(ココナッツジュース)が入っています。
 
 成長するにしたがって下の葉を切り取ります。
 写真は、葉(葉柄(ようへい))を切ったあとです。
 葉柄のところに繊維状のの(まく)があります。
 水をろ過するときなどに利用できます。
 
 ヤシの葉は、基本的にはショウガなどと同じ複葉(ふくよう)です。
 ウコンやカンナなどの大きな葉から進化した形です。
 これにより、日光が当たりやすくなり、水の流通もよくなります。
 ヤシの葉は、繊維がじょうぶなので、かごをつくる材料にもなるし、屋根の材料にもなります。
 
 アブラヤシ
 学名 Elaeis guineensis Jacq.  アレカヤシ亜科 アブラヤシ属
 アブラヤシの葉のつけねに毛の生えた果房(かぼう)が数個つきます。
 果房の表面には小さな赤い果実がたくさんつきます。
 この果実の中にバーム油の原料になる脂肪がふくまれているのです。
 バーム油は、主に日本の石けんの材料にされています。
 植物からつくられた石けんということで人気があります。
 しかし、このために産地であるマレーシアの森林が大量に(約2万平方km:四国より広い面積)焼き払われ、そこがアブラヤシ畑にかえられていることを忘れてはいけません。
 ようするに環境を破壊(はかい)しているわけです。そういうことを考えないで、すぐに自然食品や自然をうたい文句にしている製品に飛びつく日本人には困ったものです。
 
 
 長い葉柄(ようへい)を見ると、ムカデの足のようになっています。
 たぶん未熟な小葉なのでしょう。
 たがいちがいにならんでいるから、小葉のつきかたは互生(ごせい)です。
 
 トックリヤシ
 学名 Mascarena lagenicaulis L. H. Bailey  アレカヤシ亜科 ヒオフォルベ属
 熱帯植物園では人気者のトックリヤシ。
 幹の基部がふくらむ形状から、トックリヤシと呼ばれるようになりました。
 欧米ではボトル・バームと呼ばれています。
 原産は、インド洋に()かぶマスカリン諸島です。
 生育が遅いので、現地では絶滅(ぜつめつ)危機(きき)にさらされています。
 動物園のトラのように、世界中の動物園で()われているのに現地では絶滅寸前。そういう動植物はたくさんあります。
 
 ヤシ科の中では、背の低いヤシです。2mから高いものでも6mくらいでしょう。
 小さいので(はち)植えにして、屋内にかざっておく施設もあるようです。
 (みき)にはしまもようがついています。
 葉が落ちたあとにこのようなもようができるのです。1年に4回落ちるそうですから、4本で1年の樹齢(じゅれい)になります。
 他の樹木の年輪のような感じですね。
 
 アレカヤシ
 学名 Chrysalidocarpus lutescens H.Wendl.  アレカヤシ亜科 クリサリドカルプス属
 アレカヤシという名前がついていますが、アレカ属とは関係ありません。
 むかし、名前をつけるとき、何かのまちがいでこうなってしまったのでしょう。
 観葉植物としては手頃で人気があり名前が通っているので、いまだにこの名前が使われています。
 人気の理由の1つには、アレカヤシはすぐれた蒸散作用をもっていることです。
 快適な空間をつくりだすことになります。
 
 ブラジルヤシ
 学名 Butia capitata (Mart.) Becc.  アレカヤシ亜科 ブティア属
 比較的寒さに耐えられるので、屋外に植えられることが多いようです。
 他のヤシと比べて、白っぽく見えます。
 高さは5mくらいでヤシの中では高い方ではありませんが、写真で見てわかるように、とにかく太いので大きく見えます。
 
 ヒメショウジョウヤシ
 学名 Cyrtostachys lakka Becc.  アレカヤシ亜科 ショウジョウヤシ属
 東南アジアの熱帯雨林に自生しています。高温多湿を好み耐寒性に弱いので、日本では沖縄以南にしか地植えできないそうです。
 樹高5mほどで同属のショウジョウヤシの半分以下です。
 羽状要は大きくアーチを描いています。
 幹(茎)は下のほうを見ると緑色をしています。赤いのは葉の一部である葉鞘の部分なのです。葉鞘というのは刀の鞘のように茎を巻いているところです。
 葉が落ちたあとに見えるのですね。
 
 葉鞘も葉柄も光沢のある朱色をしています。
 たれ下がった花穂がたくさんつきますが、果実は熟すと真っ赤になります。
 
 オキナヤシモドキ
 学名 Washingtonia robusta Wendl.  コリファ亜科 ワシントニア属
 これも耐寒性が高いヤシなので、暖地の海岸では街路樹にしているところもあるようです。
 またの名をワシントニアモドキとかワシントンヤシモドキとかいいます。
 モドキということばは、そっくりという意味です。
 そっくりさんなら本物があるはずです。
 本物はワシントンヤシといいます。
 苗を見ても区別がつきません。
 成長すると、ワシントンヤシもどきの方が細くて高くなるということです。
 
 ビロウ
 学名 Livistona subglobosa (Hassk.) Mart.  コリファ亜科 ビロウ属
 鹿児島県に枇榔(びろう)島という名の島があります。
 ここには、天然記念物に指定されている亜熱帯性植物の群落(ぐんらく)があります。
 ビロウは、帰化植物ではなく、枇榔島に固有(こゆう)なもののようです。
 写真は、静岡県にある熱川バナナワニ園の本園・植物園・観葉植物温室へ向かう道脇にあるビロウです。
 10mくらいになります。
 葉柄(ようへい)のつけねの繊維(せんい)状の(まく)は、引っぱればとれてしまうから、観葉植物としての鉢植えなどには最適だそうです。
 そこが、ココヤシやシュロのと異なるところです。
 シュロは、学校などにもよく植えられますが、引っぱってもなかなかとれませんね。
 ちなみに、学校のほうきは、シュロの繊維のものが多いようです。
 
 幹には、しまもようがあり、ざらざらしています。

 
 クロツグ
 学名 Arenga tremula (Blanco) Becc. var. engleri (Becc.) Hatus.  コリファ亜科 アレンガ属
 クロツグの名前は、葉柄が黒いツグ(シュロ)のようなものでおおわれていることから来ているようです。
 属名のアレンガは砂糖のことらしい。
 同じ属の砂糖ヤシは樹液からヤシ糖をつくることができます。
  
 チャボトウジュロ
 学名 Chamaerops humilis L.  コリファ亜科 チャボトウジュロ属
 チャボトウジュロのチャボは、小さいものを表しています。
 トウジュロより小さいトウジュロということです。
 といっても、小石川植物園のチャボトウジュロは、けっこう大きかったです。
 他のシュロのなかまと大きく異なっているところは、幹の基部から枝分かれしていることです。
 小さいから鉢植えにすることがあります。
 
 葉の柄を葉柄といいます。
 チャボトウジュロの葉柄には、葉の両辺にノコギリのような鋭いトゲがあります。
 黄色い花が咲いています。
 雌雄異株で雌株には雌花と両性花が咲くそうです。
 これは雄花でしょうか?

 

 ヤシの花を手に入れることができないので、花の解剖はできませんでした。
 ヤシの花は、雄花(おばな)雌花(めばな)に分かれている雌雄異花(しゆういか)です。
 ヤシ科は単子葉植物ですから、やはり3数性を示します。
 花被(かひ)は、外花被3,内花被3の6枚で、6本のおしべがつきます。
 めしべは、心皮3ですが、子房(しぼう)3室のうち1つだけが成長しますから種子は1個できます。
 果実の外果皮(かひ)はうすく柔らかで、その内側に繊維状の中果皮があります。
 中果皮のさらに内側にはかたい内果皮があり、その内側に(はい)胚乳(はいにゅう)がありあります。
 胚乳が炭水化物でできていることは、ツユクサ類の特徴であり、もっとも進化したところです。

  


 

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