第25回  分類が困難なスゲ属

カヤツリグサ科最大の属、ほとんどが雌雄異花

 スゲ属は、カヤツリグサ科の中で最大の属です。他のカヤツリグサ科と特徴のちがいが明確なのでスゲ科として独立させている学者もいます。
 APGでは、スゲ属のゲノムが他のカヤツリグサ科のものと共通性が強いことから、スゲ属をカヤツリグサ科の中の1属としてあつかっています。
 APGでは、およそ1,100種のスゲ属を調べています。
 これだけあるのだから、section(節:属のつぎに細かい分類)に細分化したほうがよいのかもしれませんが、まだどうなるのかはわかりません。
 スゲの分類は、専門家でもきわめてむずかしいので、研究する学者がたいへん少ないように思われます。
 ここでは、あまり深入りせずに、身近なヒメカンスゲやカサスゲを例に、スゲ属の基本的なつくりを観察していくことにします。
 
 ヒメカンスゲ
 学名 Carex conica Boott  中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 スゲ属
 カヤツリグサ科の中でも、スゲ属は種類がとても多いので、見分けもなかなか大変です。
 カンスゲというのは、寒い冬でも葉をつけているので、こうよばれています。
 「ヒメ」がつくのは、全体に小ぶりなためです。特に、葉の幅が細いのが特徴です。3mmくらいしかありません。冬のスゲは、ほとんどが、もっと幅が広いのです。

 

 
 スゲ属の花は、雄花(おばな)雌花(めばな)に分かれています。
一番上のモップみたいのが雄花が集まった小穂(しょうすい)です。その下に2つ3つ、雌花の小穂があります。
 現在、2月下旬から3月上旬のころは、雄花と雌花が咲き、雌花からできる果実は、まだ大きくなっていません。
 雄花と雌花のちがいがよくわかりますね。
 先っぽの大きなブラシみたいなのが雄花が集まった小穂で、ブラシの毛にあたるところがおしべの(やく)です。
 雄花に比べると雌花の小穂は、ほっそりとしています。
 
雄花の小穂
 イネ科の花はふつう2枚の(えい)に包まれていますが、スゲ科の花には1枚の穎しかありません。
 そこで、花どうしが重ね合うようにつくため、初めはほっそりとしているのですが、熟してくると、穎をはじき、ブラシのように広がるのです。
 開いた雄花の小穂は、葯でいっぱいです。
 地味(じみ)なスゲ属の一生で、ただ一度のはなやかなときです。
 中心の(じく)がむらさき色がかった茶色に見えます。
 これは雄花の穎が集まったもので、そこから葯が出ているのです。
 

 左の葯は、花粉をだしています。まん中の葯は、まだ開いていません。右の葯は、もうしおれています。
 雄花の小穂から小花を1つとりだしてみました。
 茶色いりん片(穎)があり、そこからおしべが3本出ています。
 りん片のつけねはかたく、おしべはすぐパラパラっととれてしまうので、おしべをりん片につけたまま撮影することはできませんでした。
 黄色く細長いところが葯です。つけねの半透明なところは花糸(かし)といいます。
 
 りん片だけを見てみましょう。
 くるくるっとまいていて、形がよくわかりませんが、この中に葯がしまいこまれていたのですね。
 このりん片は、イネ科の護穎ごえいにあたり、雄花穎(ゆうかえい)ともいいます。
 
 左の写真は、葯を顕微鏡撮影したものです。非常に細長い葯です。
 葯ではたくさんの花粉がつくられます。花粉工場ですね。
 葯が()けて、花粉がとびちっています。
 もっと拡大してみましょう。
 
 葯の中には非常に多くの花粉がつまっています。
 花粉は黄色い色をしているのに、顕微鏡で見ると透明になってしまいます。ふしぎですね。
 倍率を上げてみると、花粉の形がわかります。
 植物の種類によって、花粉の形はちがいます。
 いろいろな花の花粉を顕微鏡で観察するのも楽しいでしょう。
 
 小穂の()のつけねには、1枚の短い葉があります。
 これは、包葉(ほうよう)といって、ふつうの葉とは区別します。
 雌花の小穂が出るあたりの茎の色は、かなり赤みがかっています。
 小穂に見られる毛のようなものは、めしべの柱頭がのびだしてきたものです。
 
 小穂を拡大してみました。
 カヤツリグサ科は、イネ科と異なり(えい)が1枚しかありませんから、軸にめしべを押しつけるように穎がかぶさっています。
 めしべからは、毛糸のような柱頭が出てきています。
 
 雌花を1つとりだしてみます。穎に()かれているのは、めしべをつつむ果胞(かほう)というものです。
 スゲ属の最大の特徴は、この果胞にあります。
 スゲ属には穎が1枚しかないことは、すでに書いたことですが、イネ科には2枚の穎があります。
 
 果胞はイネ科の内側の穎(内穎)にあたるものが変化して、壷のような形になったと考えられます。
 壷の口のところ、すなわち、花柱が出てくるところを(くちばし)と呼んでいます。
 果胞の中にめしべが守られているのです。
 進化は多種多様に展開していきます。スゲ属のこの形態は、進化の一つの窮極(きゅうきょく)になると思います。
 
 柱頭が出たあとの果胞の中には、子房があり、その子房に胚珠は守られているのですから、二重の保護になるのです。
 
 ヒメカンスゲの葉は、他のスゲに比べてたいへん細いのが特徴です。幅は、3mm くらいです。
 しかし、スゲ以外にも似たものがありますから、葉だけ見てもわかりにくいかもしれません。
 たとえば、ジャノヒゲやシュンランなど。見る人が見れば、すぐにわかるのでしょうが、小中学生には、むずかしいですよね。
 やっぱり、花を見るのが一番です。
 
 ヒメカンスゲは、1カ所から葉を出します。葉のつけねは(さや)のようになっていますが、茎がきょくたんに短く、こういうのを根茎(こんけい)といいます。
 写真のものは、地下茎がのびて、そこから新しい株をつくったものです。
 オリヅルランみたいに()いています。だから、細いひげ根はまだできていません。
 
 葉の表とへりはざらざらしています。
 顕微鏡で見ると、左の写真のようになっています。
 このトゲが、ざらざらの正体です。
 顕微鏡で拡大するとトゲに見えますが、ほんとうは小さいから、ささったりしません。
 ふだんは、あまり目につかないスゲですが、よく調べてみると、おもしろいことがいろいろあります。
 

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