第29回  単子葉植物の終着駅の一つ イネ科

タケ亜科もイネ亜科もイネ科の1つ

 ショウブ目から始まった単子葉植物。進化の行き着いたところはイネ科でした。
 進化にはいろいろな路線があり、それぞれの路線に終着駅があります。
 生物学では、その路線のことを系統と呼んでいます。
 APGのP、すなわち、Phylogeny は系統発生を表したことばです。
 現在見られる植物は、それぞれの系統で進化を重ねて現在に至っているのですから、みな終着駅といえないこともありません。
 しかし、たとえば、ユリ科とツユクサ科で考えてみると、ユリ科植物の胚乳(はいにゅう)にはタンパク質や脂質がたくわえられますが、さらに進化したツユクサ科植物の胚乳にはデンプンがたくわえられるようになります。
 ところが、ユリ科の路線にいる植物は、その後どんなに
進化しても胚乳にデンプンがたくわえられることはありません。
 ですから、ツユクサ科は、ユリ科には見られないすぐれた形質があるから、より進化した科といってもよいのです。
 進化というのは、いかに子孫を残せるかという最大の目的に向けて、いろいろな環境や条件にマッチした形態に変異していくことだと思います。
 そういう意味でも、イネ科は非常にすぐれた形質をもっています。
 単子葉植物の中では、イネ科が進化の最も長い路線の終着駅といえるでしょう。
 最近の説では、カヤツリグサ科がイネ目イグサ科から進化したのに対して、イネ科はイネ目トウツルモドキ科から進化したと考えられています。
 
 カヤツリグサ科は、1枚のりん皮状の穎が花を花茎におしつけるようについていましたが、イネ科の場合は、2枚の穎が花を包みます。
 花被は退化し、子房の基部にりん皮状になってつきます。
 柱頭は、ブラシ状や房状になって風に飛ばされてきた花粉をとらえやすくなっています。 
 心皮は1〜3ですが、子房の部屋の数は1室ですから、1つの花に1つの種子が大切に育てられます。
 初期の花は、1つの花にたくさんの種子ができました。そうすると、それぞれの種子に発芽に必要な養分がゆきわたらなくなります。
 進化が進むと、1つの花にできる種子の数は減少し、じゅうぶんな養分を種子にもたせることができます。
 また、花の数を増やすことによって種子の数を増やすことができます。
 イネ科植物は、そういう意味でも、単子葉植物の中で一番進化したものになります。双子葉植物の中では、キク科がその地位につきます。
 細長い葉身の基部が、細い花茎を巻くように包みます。
この部分を葉鞘といいます。鞘は、刀のさやという意味です。
 葉鞘の入り口のところを鞘口といい、鞘口には、葉舌がつきだしています。これを葉舌といいイネ科だけの特徴になります。         
 
 イネ科は非常に大きい集団となる科 (family) なので、Grass Phylogeny Working Groupでは12の亜科(Subfamily) に分けています。
 その中で日本になじみのある亜科は7亜科です。
 APG以前のものでは、英国王立植物園のクレイトン博士による分類体系で6亜科になっており、日本イネ科植物図譜の著者である長田武正博士は、このクレイトンの分類体系をもとにされています。
 
 
 f.14 イネ科 poaceae
 
 植物は光合成によって養分を生産しています。
 光合成とは、葉緑体の中で光の作用により二酸化炭素と水を材料にしてブドウ糖を合成することです。
 外から取り入れた物質をからだの一部に合成することを固定といいます。
 二酸化炭素の固定では、C型のほうがC型より効率のよい葉の構造をしていることから、C3→C4の進化の方向が考えられます。
 イネ科ではヒゲシバ亜科とキビ亜科がC型になります。
 

タケ亜科

 現在見られる日本のイネ科の中で最も古いものは、タケ亜科ではないかと思われていましたが、イチゴツナギ亜科とともに進化が進んだものということがわかってきました。
 タケは茎が木のように堅いので草本のなかまに入れられ
ることはほとんどありませんが、樹木ともいいにくい特異な存在です。
 それは、樹木のように茎が太っていかないことによります。だから、非常に堅い草であるといえるかもしれません。
 
 キンシチク (金糸竹) 
 学名  Bambusa vulgaris Schrader ex Wendland f. striate   イネ目 イネ科 タケ亜科 ホウライチク属
 写真は、熱帯性のキンシチク(金糸竹)です。日本では、沖縄などに見られます。熱帯性のタケは、本土のものと異なり、地下茎が横にはうことはありません。
 タケがイネ科であるというのはなかなか信じられません。
 しかし、茎を観察すると、その共通性を理解することができます。
 イネ科の茎は、稈といって右図のような構造になっています。
 中が空洞であり、ところどころ節で区切られています。
 
 イネ科の中には、私たちが主食にしているイネが含まれています。イネ科の名前にもなっているイネは、植物学的に考えると、じつは、イネ科の中では特殊な存在なのです。
 イネ亜科の学名は Oryzoideae で、Oryza (イネ属)からきています。ところが、イネ科の学名は Poaceae(アエ)で、Poa() (イチゴツナギ属)からきているのです。
 イネ目 Poales も同様のことがいえます。
 イネを主食にしている日本だからイネ科と呼んでいますが、国際的にはイチゴツナギ科になるのかもしれません。
 ちなみに、欧米ではコムギを主食にしているけれど、コムギ科とはしていません。
 おとなりの中国では、Poales は禾草目、Poaceae は禾本科になるようです。 禾は「か」と読み、イネの意味です。
 

エールハルタ亜科 (イネ亜科)

 マコモ 
 学名  Zizania latifolia Turcz.  中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 イネ科 エールハルタ亜科(イネ亜科) マコモ属
 水中に生え、高さが大きいもので2m近くになります。
 葉の長さは1mほどになります。
 マコモは、長さ1cmほどの果実ができ、食用になります。
 おおむかし、まだイネが利用されなかったころ、このマコモが大切な食糧になっていたことが想像できます。
 
雌雄異花
 マコモは、同じ株に雄花(おばな)雌花(めばな)が咲きます。枝の先のほうには雌花が、基部には雄花がつきます。
 写真のものは、雄花が咲いており、雌花は咲き終わって果実になっています。
 イネ科の花は、おしべよりめしべが先に熟すので、めしべ先熟型といわれています。
 雄の小穂はむらさきいろをしており、雌の小穂はうすいみどりいろをしています。
 雌花は雄花より細長く見えます。この中には、1cmほどの細長い果実ができるためです。
 
 小穂(しょうすい)は、1個の小花(しょうか)だけで成り立っています。
 しかし、マコモのなかまには、なぜか包穎(ほうえい)がありません。
 イネ科の花のほとんどは3本のおしべをもちますが、イネ亜科の花のおしべは6本もあります。
 単子葉植物は3数性が特徴ですから、6本のおしべというのは不思議ではないのですが、他の種類はおしべが3本に退化しているのです。
 マコモは包穎がないので、小花は護穎(ごえい)内穎(ないえい)だけに包まれます。
 
 1本のおしべには2つの葯室(やくしつ)があります。
 護穎と内穎が開くと、きいろい葯が花糸(かし)にぶら下がるように出てきます。
 花粉を放出すると、葯は茶色に変わっていきます。
 
 葯を顕微鏡で観察してみます。
 葯室がねじれています。
 ねじれることで葯室を裂き、花粉を放出するのではないかと思われます。
 
 雌花(めばな)雄花(おばな)より早く、花序(かじょ)が開きかけるころに咲き始めます。
 したがって、雄花が咲いているときには、雌花を見ることはできません。
 左の写真で白く見えるのは、めしべの柱頭です。
 
 雌花の護穎と内穎が開きかけると、そのすきまから白いヒゲのようなものが現れます。
 これは、めしべの柱頭(ちゅうとう)です。このたくさんのヒゲで風にはこばれてきた花粉をとらえるのです。
 イネ科は風媒花(ふうばいか)なのです。
 
 子房(しぼう)から2本の花柱(かちゅう)が出て、花柱の先が無数のヒゲ状の柱頭になっています。
 風媒花として、もっとも花粉をつかまえるのに適した形に進化しました。
 

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