第49回  ナガバミズアオイ科 ミズアオイ属

絶滅危惧種のミズアオイが生き残りにくいわけは?

 ナガバミズアオイ科の祖先は、今からおよそ5,300万年前にツユクサ科から分離しました。
 ユリ科からアスパラガス目に進化していったように
まばらな花をつけたツユクサ科からも、密に花をつけたナガバミズアオイ科に進化していきます。
 
 学名 Monochoria korsakowii Regel et Maack   ツユクサ類 ツユクサ目 ナガバミズアオイ科 ミズアオイ属
 ミズアオイは、絶滅(ぜつめつ)危惧(きぐ)U類としてレッドデータブックにのっている抽水(ちゅうすい)植物です。
 絶滅危惧U類とは、絶滅の危険が増大しているものをいいます。
 抽水植物というのは、水底の土に根をおろし、茎や葉、花が水面上につき出る植物のことです。
 ミズアオイは1年草ですから、冬になると()れてしまいます。根も残りません。種子で冬をこすのです。 花期は9〜10月です。
 
 左の写真では、カンガレイのまわりにミズアオイがとりまいています。
 抽水植物であることがわかりますが、あまり背が高い方ではありませんから、まわりに背の高い植物が来ると、日光が当たりにくくなります。
 4年後の同じ場所では、2mを越す高さのヒメガマにすっかり生育場所をうばわれてしまい、ミズアオイを見ることはできませんでした。
 だれもガマを刈り取らないので、自然のままにしておくと競争に負けてしまうのです。
 
 ミズアオイは、人の手が入る田んぼや沼、川などで生きてきました。
 川に生えている背の高いヨシなどは、葦簀(よしず)などをつくるため刈り取られました。
 だから、ミズアオイにも日光が当たり、生きることができたのです。
 今では、ヨシやガマなどを利用する人はいなくなりました。
 ミズアオイのような植物は、まったくの自然の中では生きていくのが困難なのです。
 しかも田んぼや農業用水路では雑草として駆除されるので絶滅に追い込まれてしまいがちです。
 
 総状(そうじょう)花序というのは、1本の花茎(かけい)花柄(かへい)をもった花が1つ1つついているものです。
 それに対して円すい花序というのは、1本の花茎に総状花序になった枝がついているものです。
 このような2つの花序が組み合わさったものを複合花序と呼んでいます。
   総状花序

 円すい花序

 
 ミズアオイの場合、あまり大きく枝をはりださないため、ちょっと見ただけでは総状花序とまちがいやすいようです。
 左の写真を見てみますと、太い茎から出た花茎がいくつかのつぼみに分かれています。
 だから、円すい花序になるのです。
 
 花冠(かかん)は、径 2.5〜3cm くらいです。
 花被片は、内側に3枚、外側に3枚、合計6枚です。
このことは、単子葉植物の基本的な特徴になります。
 内側の花被片のほうが、少し幅が広いようです。
 
 子房は、花冠の内側に何とか見ることができますが、花被のつけねより下にはないので、子房上位ということになります。
 ミズアオイは、おしべ・めしべの位置関係に大きな特徴があります。
 
 観察しやすいように花被を取りのぞいてみます。下の丸い黄みどり色の部分が子房(しぼう)です。花糸は(やく)の下についています。このようなつき方の葯を底着葯(ていちゃくやく)と呼んでいます。
 ユリ目とのちがいは、種子が、ユリ目はタンパク質、ツユクサ目はデンプン質であることでした。
 なにやら、黄色い葯にまじって大きな黒むらさき色の葯が見えます。
 6本のおしべのうち、黄色い葯をもつものが5本、黒むらさき色の大きな葯をもつものが1本あります。
 大きな葯は、昆虫がとまるのに便利です。
 
 白っぽいめしべの柱頭(ちゅうとう)と黒むらさき色の葯が、7時25分の時計の針のようにならんでいます。
 同じ花茎(かけい)についている花でも、柱頭が右に来るものと左に来るものと、位置関係はまちまちです。
 
 (やく)を拡大してみました。こんな形をしたお菓子をどこかで見たような....。
 葯室が平行に2つならんでいます。よくあるタイプです。
 
 花粉が出てくるところは先端(せんたん)です。イヌホオズキなどに見られる孔開葯(こうかいやく)といいますが、先端に(あな)が開いているというより、葉をまいたような形ですね。
 おしべも葉(花葉(かよう))から進化したものだからでしょうか。
 黒っぽい葯からも花粉が出ています。
 同じ花なのに一つだけこんなにもちがった葯があるなんて不思議です。
 
 めしべは、柱頭(ちゅうとう)花柱(かちゅう)子房(しぼう)の3部からなりたっています。
 ミズアオイのめしべの花柱は、キスゲ科のワスレグサ属に近く、柱頭は、ユリ属に近いといえそうです。
 しかし、ユリ属の柱頭よりもじゃもじゃ頭になっています。
 これは何なのでしょうか。顕微鏡で観察してみます。
 
 黄色のものは、花粉です。むらさき色のところが柱頭の突起です。
 このねばねばした突起で花粉をつかまえるのです。
 花粉と接触(せっしょく)する表面積が大きくなり、大きな進化の流れとはべつに小さな進化をしていることになります。
 
 ミズアオイの子房の中です。小さい粒の一つ一つが胚珠(はいしゅ)です。胚珠がついている中央の(じく)胎座(たいざ)といいます。
 胚珠の中には(らん)細胞があります。花粉の中の精細胞が花粉管をとおってここまで来て2つの細胞の核が合体(がったい)することを受精といいます。
 多少でも高等な生物は、例外もありますが、受精して初めて生命が誕生するのです。
 
 受精した卵細胞は、受精卵といわれ、細胞分裂をくり返し、だんだんとからだの形をつくっていきます。
 からだになるまでを(はい)といい、発芽するとりっぱな植物に成長していきます。
 中に胚をもっている胚珠(はいしゅ)は、種子に変わっていきます。
 だから、胚珠というのは、胚をもっている粒と考えてもいいですね。
 この胚珠、昆虫のたまごに見えませんか?
 動物も植物も、大昔(おおむかし)の大昔、もとは同じ生物から進化したからでしょう。
 
 めったに見ることはできませんが、静岡市遊水地に白花種が出現したことがあります。
 黒むらさき色の(やく)は、うすい青色になっています。青花の葯でもうすい青色があるようです。
 
 ミズアオイは、一年草なので冬にはすべて()れてしまいます。根も残りません。
 翌年に白花ミズアオイを見ることはできませんでした。
 というより、どのミズアオイも見ることができません。
 絶滅の危機にあるのです。
 
 根から出ている葉は、水の上に出るため葉柄(ようへい)が長くなりますが、茎から出ている葉は葉柄がみじかいようです。
 葉の形は、心臓形(ハート形)です。
 葉脈は、網目状(あみめじょう)のように複雑にまじわっていませんから、単子葉植物の特徴である平行脈です。
 花序の基部には、葉とは形の異なる苞葉(ほうよう)が茎を()くようについています。
 
 学名 M.vaginalis (Burm.fil.) K.Presl var. plantaginea (Roxb.) Solms   ナガバミズアオイ科 ミズアオイ属
 ミズアオイのなかまにコナギがあります。ナギとはミズアオイのことさしますから、小さいミズアオイという意味です。
 ミズアオイは、花序(かじょ)が葉より高くなりますが、コナギは葉より低くなります。花の大きさも、ミズアオイよりは小さい。
 コナギもミズアオイと同じように1本だけ大きなおしべをもち、この葯はつぼみの中で開き、同じ高さにあるめしべの柱頭に自家受粉します。
 葉は写真のものよりいちじるしく細いものもあります。

 


inserted by FC2 system