ヤツデ

 中核真双子葉植物 キク上群 真キク類 キキョウ類 セロリ目(セリ目) ウコギ科 ヤツデ属 (APG分類体系)

 学名  Fatsia japonica (Thunb.) Decne. & Planch.
 天狗のうちわで有名なヤツデです。
 手の形をしているのでヤツデとよばれています。
 ただし、8本指の手ではありません。奇数掌状葉ですから、8裂になることは滅多にありません。
 果実を食べた鳥が種子をフンといっしょにまくので、知らないうちに生えてるってことが、よくある植物です。
 
 晩秋から初冬にかけて花が咲きます。
 ヤツデの花は、変わっているほうです。
 1つの花に(おす)の時期と(めす)の時期があります。
 雄の時期を雄性期(ゆうせいき)といい、気がつきにくいので見逃(みのが)してしまいがちです。私も見逃しました。
 雌の時期を雌性期(しせいき)といい、気がついたときには、すでに実(果実)になっていた。そんな花です。
 
 
 とても大きな葉で、深く切れ込んでいます。1枚1枚の小葉にはなっていないので、このような葉を複葉(ふくよう)とはいわず、分裂葉(ぶんれつよう)といいます。
 葉の(ふち)には鋸歯(きょし)とよばれるギザギザがあります。(のこぎり)の歯のように見えるから鋸歯というのです。
 下の葉には長い葉柄(ようへい)があります。葉柄は、葉の(うで)にあたります。長いのは、光が当たりやすくなる工夫です。
 
 ヤツデは陰性(いんせい)植物(日陰に適した植物)ですが、陽葉(ようよう)陰葉(いんよう)をもっています。
 上の写真の陽葉は、大きく、光合成を活発に行う柵状組織(さくじょうそしき)が厚いので、葉も厚いのが特徴です。
 左の写真の陰葉は、小さく、薄い葉になっています。
 ふつう、陽性植物の場合、上の葉は小さく、下の葉が大きいのですが、陰性植物のヤツデの場合は(ぎゃく)ですね。
 
 大きな葉を剪定(せんてい)すると(切り取ると)、下のほうに小さい葉が出てきます。
 これは若い葉で、つやがあり、これから大きくなる葉です。幼葉といいます。
 
 葉脈(ようみゃく)を観察します。
 ヤツデは、双子葉(そうしよう)植物ですから、網状脈(もうじょうみゃく)をもちます。
 葉柄(ようへい)から放射状に太い葉脈がのび、まるで単子葉(たんしよう)植物の平行脈のように見えます。
 
 しかし、太い葉脈から細い葉脈が枝分かれしていて、やはり、網状脈ですね。
 ヤツデはウコギ科ですから、セリ科と同じセリ目になります。あまり()ていないですね。
 
 これがヤツデの花です。
 全体的に円すい形をしているから、円すい花序といいます。
 丸くまとまっているところは、散形(さんけい)花序(かじょ)といえますから、2つの花序が組み合わさったということで、円すい花序は複合花序ということができます。
 
 散形花序は、同じところから花柄(かへい)を出します。
 
 ヤツデの花は、雄花の時期から雌花の時期に変化する、少し変わっている花です。
 おしべとめしべがある両性花が雄の時期と雌の時期にずれているということでしょう。
 
 雄花の時期を(ゆう)性期といいます。
 白い5枚の花弁があります。
 おしべも5本です。5数性の花ですね。
 中央にめしべの花柱が見えることから、両性花であることがわかります。
 しかし、この時期には、雄花としてのはたらきはしますが、雌花としてのはたらきはしません。
 だから、雄性期というのです。
 黄色い部分は、花盤といい、あとで説明します。
 
 花弁を拡大します。
 鋸歯はありません。
 鋸歯というのは、葉のへりのギザギザのことです。
 
 花を裏側から観察します。
 まるい部分は、がくです。
 あまりがくらしくありませんね。
 
 手前の花弁やおしべを取りのぞくと、こんなふうに見えます。
 白いのは、おしべの(やく)です。
 黄色いのは、花盤(かばん)といって、蜜を出すところです。
 花盤の中央に突き出ているのは、めしべの花柱(かちゅう)です。
 
 おしべの葯を観察します。
 葯は、2個の葯室から成り立ちます。
 2個の葯室をつなげているのは、葯隔(やくかく)といって花糸(かし)の先端が変化したものです。
 花糸は、葯を支える棒のように見えるところです。
 顕微鏡で拡大しているから大きく見えるけれど、実際は糸のように細いから花糸というのです。
 葯は、()けていますね。
 
 別の角度から見てみます。
 葯の裂け目を観察できます。
 葯の中には、花粉がたくさん入っています。
 葯は、花粉をつくってためておくところなのです。
 
 葯を裏側から観察します。
 葯室と葯室が接しているところが葯隔です。
 花糸は、その葯隔につながっています。
 
 雄性期の花の花盤です。
 ここで蜜をつくります。
 昆虫に花粉を運ばせるために、あまい蜜で昆虫をおびきよせます。
 昆虫は、花に利用されているのも知らず、蜜を吸いにいきます。そのとき、昆虫の体に花粉がついてしまうのです。
 
 花盤の中央につき出ためしべの花柱を拡大してみました。
 5本あります。
 花弁も5枚、おしべも5本、花柱も5本。
 植物にとって、数というのは、適当じゃないのです。
 
 花柱の先に色がついていますね。小さい丸い粒は花粉ですが、めしべは、まだ活動していないので受粉しません。
 これは、自家受粉を()けるためなのです。めしべに同じ花の花粉がつくと、遺伝子に変化がなく、クローンができてしまい、環境の変化に対応できなることがあります。これを防ぐために、同種の他の花の花粉をもらい、遺伝子に変化をつけるのです。
 そうすると、いろいろなタイプの株ができ、環境が変化しても、どれかが生き残るという、賢い選択なのですよ。
 
 写真は、雌性(しせい)期の花です。
 ヤツデは、はじめに雄性(ゆうせい)期になり、おしべを出します。その後、5枚の花被(かひ)と5本のおしべがとれて、めしべが大きくなります。
 この写真の花は、すでに受粉を終えて、花盤の蜜も枯れています。
 
 めしべの先に出ている部分は花柱(かちゅう)です。
 花柱の(さき)っぽにあるところは柱頭(ちゅうとう)です。
 ここで花粉をとらえます。
 花柱のつけ根は花盤(かばん)とよばれ、ここから蜜を分泌(ぶんぴ)し、昆虫を引きよせます。
 
 受粉が行われると、花柱は()れ、花盤も消えていき、丸い果実になっていきます。
 子どものころ、おもちゃの鉄砲の(たま)にして遊びました。(昭和20年代)
 
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