第15回  散形花序のアマリリス科

ヒガンバナ

 学名 Lycoris radiata Herb.  中核単子葉植物 アスパラガス目 アマリリス科 ヒガンバナ属
 きれいといえばきれいですし、毒々しいといえば毒々しい花です。血の色のようで気持ち悪いという人も少なくありません。
 ちょうどお彼岸(ひがん)のころ咲くのでヒガンバナとは、よくつけた名前です。 
 この花には、今ままでの花とは異なったところがあります。
 いくつかの花が集合して1つの花を形取っているのです。
 花のつきかたを花序といいますからヒガンバナは花序といえます。
 同じアマリリス科のハマオモトについても同じことがいえます。 
 
 ヒガンバナは、いくつかの花が放射状(輪状に近い)について、1つのかたまりになっています。
 1カ所から放射状に花がつく花序を散形花序といいます。
 このくらい調和のとれたならびかたをすると、まるで、1つの花のように見えます。
 ヒガンバナは曼珠沙華(まんじゅしゃげ)とも呼ばれ、仏教でいう天上の花だそうです。
 日本のほかの花とはどことなくおもむきが異なりますが、お彼岸には欠かせない花となっています。
 
 少しアップしてみます。
 散形花序のようすがわかりやすくなりました。
 小花が1カ所から放射状に出ているのがよくわかります。
 花被も放射状に開いています。
 おしべが、規則正しく上に向かってそっています。
 2枚の小さな包葉が確認できます。
 開花しながら大きくなっていくので、包葉は小さいのでしょう。
 
 ヒガンバナの小花を1つだけとりだしてみます。
 おしべとめしべが横1列にならんでいます。
 昆虫がとまりやすい形として、虫媒花では進化した形といえます。
 しかし、日本のヒガンバナはほとんど種子をつくりませんから、この考えはおかしいと思われるでしょう。 
 
 植物豆知識
 日本で見られるヒガンバナは、3倍体であるといわれています。
 ヒガンバナはもともと日本にはなかった植物で、中国から入った帰化植物であるとされています。
 中国には、3倍体のヒガンバナ以外にも2倍体のヒガンバナがあるようで、これは種子をつくります。
 したがって、やはり虫媒花としてのつくりになっているのです。
 日本のヒガンバナも、まれに種子をつくることがあります。
 日本にも、わずかながら2倍体のヒガンバナがあることは考えられます。
 2倍体のヒガンバナは、8月上旬から咲き始めるという報告も聞いています。
 
 おしべの先端には、(やく)があります。葯は、花粉をつくるところです。
 葯のさけ方はどうでしょう。
 花粉がたくさんついているので、観察しにくいですね。
 でも、よく見ると、たてにさけているのが何とかわかると思います。
 中から花粉がのぞいています。
 葯の下の棒を花糸といいますが、ヒガンバナの花糸は太いから、糸のようには見えません。
 
 花糸に対して葯がどのようについているかを観察してみます。
 葯は花糸の先に丁字(ていじ)形についています。このようなつき方を丁字着葯(ていじちゃくやく)といいます。
 その花糸の先端を葯隔(葯かく)と呼んでいます。
 丁字着葯は、花糸の先端が2つに分かれて、丁字形になったものです。
 といっても、実際に観察してみると、葯隔と花糸の接合部分は非常に細く、葯隔が花糸の先端であるとはとても思えません。
 しかし、本当のことなのです。
 
 ヒガンバナの柱頭をアップしてみました。
 カニの目玉みたいな突起がたくさん出ています。
 ここから粘液を出して、花粉をつかまえるのです。
 ユリ科などにくらべると進化していますが、まだまだ花粉をとらえることに対して消極的です。
 
 花被の下を見ると子房を確認することができます。
 写真のみどりいろの部分です。
 アマリリス科は子房下位であり、ユリ科と大きく異なるところです。
 
 ヒガンバナの子房をたてに切断してみました。
 単子葉植物の特徴である中軸胎座が観察されます。
 まばらな胚珠(はいしゅ)が見えます。
 しかし、この胚珠はほとんど種子にななることはありません。
 植物豆知識で述べたように、アマリリス科の植物は3倍体が多いのです。
 
 種子をつくらないヒガンバナは、いったいどのようにして繁殖するのでしょうか。
 そのひみつのヒントは球根にあります。
 ヒガンバナの球根はりん茎です。
 りん茎といっても、茎は中心にある芯(しん)だけで、そのまわりに地下の葉がとりまいたものです。タマネギで考えるとわかると思います。
 このりん茎が、小球を出してやたらとふえるのです。
 アマリリス科のりん茎は、アルカロイドの毒をもつものがほとんどです。
 動物に食べられないように進化したのでしょう。
 食用になるユリのりん茎とは対照的です。
 
 花が咲き終わったヒガンバナは、晩秋になってから葉を出します。
 ほかの植物が枯れて、競争相手がなくなった冬場に葉を出し、光合成をするかしこい植物です。 
 夏になって、ようやく葉を枯らします。 
 
 アスパラガス目は、ユリ目よりも進化しています。
 葉の形は線形で、ユリ科にはあまり見られないものです。
 このような葉のすぐれている点は何でしょう。
  ・茎で葉を支えなくてよい。
  ・日光に当たる表面積の合計を大きくすることができる。 
  ・高いところまで水をもちあげる必要がない。
  ・ふまれてもダメージが少ない。
 やはり、進化していますね。 
 
 ヒガンバナの開花のようすです。左から、
 @ 初めは小さな花序が2枚の包葉につつまれています。
 A 花序が大きくなると包葉から出てきます。
 B それぞれの小花が同時に成長します。
 C 包葉はしおれてぶら下がります。 
 

ハマオモト

 学名 Crinum asiaticum L. var. japonicum Baker  中核単子葉植物 アスパラガス目 アマリリス科 ハマオモト属 
 ハマユウとも呼ばれている大型の多年草です。
 ヒガンバナは、花が咲いているときには葉がありませんが、ハマオモトは、暖地では一年中葉をつけています。  
 しかし、冬の寒いところでは、一部の葉が葉がくさってしまいます。ハマオモトは暖かいところの植物なのです。
 ヒガンバナの線形の葉に対して、ハマオモトは幅の広く、厚みのある葉です。
 このように大型の葉で、中央脈にすべて平行な葉脈は効率的ではありません。
 進化が進むと、カンナの葉のように羽状の平行脈になっていきます。
 
 ハマオモトも散形花序ですが、こちらはヒガンバナほど規則正しくならんでいません。
 外側の小花(しょうか)が早く咲き、内側の小花はまだつぼみです。
 ヒガンバナのようにそろって咲かないので調和がとれないのでしょう。
 花序を包んでいた2枚の大きな包葉が下にたれています。
 ハマオモトが開花するところを見ることはあまりありません。
 夜中に開花するからです。
 聞くところによると、そのとき非常に強い香りを出すそうです。
 
 ハマオモトも基本的にはヒガンバナと同じ散形花序ですから、1カ所から放射状に小花がでています。
 花被片は、3数性に適合した6枚です。(3の倍数)
 ヒガンバナと異なるところは、おしべの出方です。
 ハマオモトのおしべは放射状に出ています。
 それに対してヒガンバナのおしべは、めしべもふくめて同じ高さで横にならんでいます。
(上から4枚目の写真)
 
 ハマオモトのおしべです。
 白い花糸が葯(葯)に近づくにつれてむらさき色になってきます。
 長い花糸は、とちゅうまで花被片につつまれるようにしてのびています。
 花糸の先にはきいろい葯が丁字形についているから丁字着葯です。
 
 ハマオモトのめしべの花柱は、なかなか見あたりません。
 ハマオモトの花被片は、基部が合生して筒状になっていて、下向きの花被片の中にかくれるようについているからです。
 花柱(かちゅう)の先端が上向きにそりかえり、顔をもちあげています。
 その部分の花柱は、むらさきいろを帯びています。
 柱頭(ちゅうとう)は目だちません。
 

スイセン

 学名 Narcissus tazetta L. var. chinensis Roem.  中核単子葉植物 アスパラガス目 アマリリス科 スイセン属
 スイセンは、園芸でも人気のある植物です。改良を重ねて、現在ではたくさんの品種を数えることになります。
 原種は、地中海沿岸のようで、ギリシャ神話にスイセンのいわれがのっています。
 日本でも左の写真のような野生種が見られますが、帰化植物なので日本古来のものではありません。
 栽培種に比べると花冠が小さく、1本の花茎に数個の花がつきます。
 スイセンは中核単子葉植物ですから、とうぜん3数性を示します。
 外花被3枚、内花被3枚、合計6枚で、花被は高盆形です。
 

スイセンの副花冠と子房の位

 
 花冠ののどもとで外花被と内花被は合成して、その下は花筒といって筒状の花冠になっています。
 スイセンの変わっているところは、白い花冠ののどもとから黄色いさかずき状の花冠が出ていることです。
 これは、大きな特徴ですから、付属体とはいわず、とくに副花冠と呼ばれています。
 花筒はみどり色をしていて花被のようには見えません。
 花筒のすぐ下に子房が見えるから、子房下位になります。
 
  副花冠の内側から中をのぞいてみると、3個の葯が見えます。
 アヤメ科のおしべは3本でしたが、アマリリス科のおしべは6本です。
 残りの3本はどうしたのでしょう。
 それは、花筒の中を切りさいてみないと、よく見えません。
 
 スイセンの花をたてに切ってみると、右の図のようになります。
 下のほうのおしべ3本が、花筒の下の方についており、上のほうのおしべ3本は、花筒の上部(花被ののどもと)についています。
 どちらのおしべも、花被につく位置がちがい、花糸が非常にみじかので、葯の位置もまったくちがうことになるのです。
 だから、のどもとの3個の葯しか見えないというわけなのです。
 

植物豆知識

 スイセンは子房の中に胚珠をつくり、柱頭が受粉しても種子にならないものがほとんどです。
 アマリリス科のなかまには、このようなものが多いのです。
 細胞の染色体は、両親からもらうから2組のセットになります。花粉の精細胞や卵細胞は生殖細胞といい、染色体が半分に分裂したものをもっています。(減数分裂)
 受精は、染色体の半分どうしがいっしょになって一人前になることです。
 スイセンの細胞は、進化の歴史の中で、染色体が3組のセットになってしまいました。
 このようなものを3倍体といって繁殖能力を持たず、種子をつくりません。
 タネなしスイカのしくみと同じです。ちなみに、タネなしブドウの場合は、これとは異なり、ジベレリンという薬品によって種子の成長を止めてしまうはたらきによります。
 

 

 

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