オランダミミナグサ

 中核真双子葉植物 ナデシコ目 ナデシコ科 ミミナグサ属 (APG分類体系) 

 学名  Cerastium glomeratum Thuill.
 オランダという名前がつく植物はいくつかあります。このオランダミミナグサは、どこにでも見かけるもっとも身近な雑草です。
 春咲きの野草ですが、静岡市では、冬でも日だまりに見つけることができます。
 
 オランダミミナグサは、大正時代に西洋の文明とともに日本に入ってきた帰化植物です。
 むかし文明は船で伝えられたので、帰化植物は港付近から全国へ広がっていきました。
 もともと日本には、ミミナグサという野草がありましたが、現在、平地ではめったに見ることができません。
 
 オランダミミナグサは、ナデシコ科の植物です。
 同じナデシコ科のハコベと似ていますが、オランダミミナグサはミミナグサ属ですから、比べてみればそのちがいに気がつくと思います。
 オランダミミナグサは、写真のように花弁が開いてないときが多く、いつ咲いたのだろうと疑問に思ってしまいます。
 
 左の写真は、開花しかけているところです。
 花弁が深く2つに裂けているところは、同じナデシコ科のハコベやノミノフスマと似ています。
 黄色いおしべの葯がたくさん見えます。
 
 花弁は大きく裂けているから全部で10枚のように見えますが、ほんとうは5枚です。
 ナデシコ科の中でも、ハコベ属とミミナグサ属にこのような花被が多いようです。
 ノミノツヅリ属のノミノツヅリのようにまったく裂けていないものもあります。
 
 開花しているものが見つかりました。
 在来のミミナグサとのちがいを見つけることにします。
 オランダミミナグサは、在来種のミミナグサより多くの花をつけます。
 がくの色は、花が咲き終わったあとも緑色です。
 一番のちがいは、花柄が短いことでしょうか。
 
 こちらは在来種のミミナグサです。
 花が咲いたあと、花柄(か へい)が長くなります。
 がく片は、緑色から紫色に変わります。
 花は、まばらにつきます。
 

 花被を取りのぞいて、おしべとめしべを観察します。
 まるい大きな子房を見ることができます。
 そのまわりに10本のおしべが、とりまくようについています。
 ナデシコ科のおしべは10本が基本です。
 ハコベなど、おしべの数が減少する傾向が見られるものもあります。

 
 おしべを拡大してみます。
 (やく)は、2個の葯室と葯隔(やくかく)から成り立ちます。
 葯は、花糸(かし)に対して横についています。
 花糸というのは、おしべの棒の部分です。
 写真の葯室は、完全に(180度)開いています。向こう側にも、もう1つの葯室があるはずです。
 葯室は、花粉をつくるところです。
 2個の葯室が葯隔をはさんで背中合わせについています。
 
 だ円形の子房の上に5つの花柱(かちゅう)があります。
 ちょっと見ると、おしべのやくによく似ていますね。
 花柱は、かならず子房の上から出ています。
 花柱も子房もめしべの一部ですから。
 ナデシコ科の花を見分けるのに、花柱を数えてみるのはいいことです。
 ハコベは3本、ウシハコベは5本、ミミナグサも5本です。
 
 子房は、こども部屋です。
 胚珠というたくさんのこどもが入っています。
 動物と同じで、こどもの数が少ないほど進化が進んでいます。
 ナデシコ科は、胚珠が多いから、あまり進化している方とはいえません。
 子房の中をのぞいてみましょう。
 胚珠のつくところを胎座といいます。
 ナデシコ科は、特立中央胎座といって、子房は1室だけで、底が盛り上がって柱のような胎座をつくります。
 これは、ナデシコ科とサクラソウ科だけに見られる特徴です。
 
 花が終わると、花弁がしおれてとれてしまいます。
 子房がふくらんできて、がくより長くなります。
 がくにも茎にも毛がびっしり生えています。
 子房が成長すると(熟すと)果実になります。
 中に入っている胚珠が種子に成長しています。
 
 子房の先端が裂け、10歯が確認できます。
 ここから種子が出てきます。
 照明のせいか果皮の色が出なかったので、色を塗ってあります。
 
 中が見えるほどには裂けないので、無理やりに果皮を裂いて中を見てみます。
 特立中央胎座に多数の胚珠がついています。
 白色から見て、まだ種子にはなっていなかったみたいです。
 
 成熟した種子を取りだしてみます。
 オランダミミナグサはおなじナデシコ科のハコベに似ていますが、種子もやっぱり似ていますね。ハコベほどでこぼこしていませんが。

  コハコベの種子
 

 葉のつき方は、同じ位置から向かいあってついているので対生です。 
 中央に1つ花がついて、そのわきから花茎が2本出ています。このような花のつき方を2出集散花序といいます。
 

 
 オランダミミナグサは、葉を見ただけでも何となくわかります。
 ふつうの葉よりあつぼったく、こまかい毛がたくさん生えているからです。
 葉の色も、ミミナグサよりうすく、きみどり色といった感じです。
 こまかい毛は、葉だけでなく、茎にもがくにも生えています。とてもやわらかい感じがしますよ。
 たいていの学校の花だんのすみや校庭のまわりに生えていますから、観察してみてください。
 
 植物に生えている毛は、顕微鏡で観察すると、なかなかおもしろいものです。
 植物の種類によっていろいろな形を見ることができます。
 オランダミミナグサの茎の毛は、綿棒のような形をしています。
 中にはとがったものもありますね。
 まるい頭からは、粘液が出ます。この粘液は、たいていが害虫よけのようです。
 

 

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