第1回 植物の誕生

 今からおよそ46億年前に地球が誕生しました。そして、隕石の衝突の熱により地表はどろどろにとけていました。
 隕石や岩石にふくまれていた水が蒸発し、厚い雲ができ、大量の雨が地球を冷やし海をつくっていきました。
 43億年前には地殻ができ、40億年前ごろには初めての生命(原核生物)が誕生したようです。ウィルスやバクテリアみたいな生物だったのでしょうか。そのころは、まだ酸素がありませんでした。
 31億年前ごろには、光合成をするラン細菌類(シアノバクテリア)が出現します。
 それまでの生物にとって、酸素は猛毒でした。光合成をするシアノバクテリアから出される酸素によって、古い生物は、ほとんど全滅してしまいます。
 20億年前ごろには、オゾン層ができ、地表にとどく紫外線の量は減少していきます。
 しだいに生物の陸上進出の舞台が作られつつあります。
 10億年前ごろには、有性生殖が始まります。
 5億年前に蘚苔類(せんたいるい)が誕生します。コケをふくむなかまです。しかし、まだ水辺からはなれることはできません。
 4億年前になって、やっと、植物は陸上生活ができるようになりました。シダ植物の誕生です。
 3億年前には、花を咲かせる裸子植物が出現しました。それ以前の植物は、花を咲かせることはありません。花を咲かせるのは、種子をつくる植物だけです。
 そして、1億8000万年前に被子植物が裸子植物から分かれるときが来たのです。

   

 f.01 被子植物 全体 angiosperms
  

最古の被子植物は何でしょう?    
 

 最初の被子植物が何なのかは、世界中の関心を集めています。
 現在、2通りの調査が行われています。
 1つは、化石を調べること。
 しかし、動物の化石と異なり、植物の化石は残りにくく、残っている化石を発見するのもむずかしいことなのです。
 最近、岩石を薬品で溶かし、その中にある植物の化石をとりだす技術が開発され、貴重な資料が増えつつあります。
 もう1つの方法は、DNAのゲノムを調べ、共通性から姉妹関係(発生の系統)を割り出すことです。
 前述は物的証拠、後述は状況証拠のようなものです。
 ゲノムによると、ニューカレドニアの高山で発見されたアムボレラという植物が最古のようです。
 化石によれば、中国で Archaefructus という植物の化石が発見されました。1億4500万年前のものだそうです。
 年代を特定するのは、非常にむずかしいようです。測定方法や精度(厳格にするか少しゆるめるかなど)によっても異なります。解釈のしかたも人それぞれです。
 このホームページの系統図の年代も正確とは限りません。したがって、予告なしに頻繁に改訂する可能性があります。

   

 f.02 基部被子植物 basal angiosperms

ハスによく似たスイレン

 学名  Nymphaea tetragona Georgi  基部被子植物 スイレン科 スイレン属
 スイレン(ヒツジグサ)の花は、ハスの花とそっくりなので、長い間、同じなかまだと信じられてきました。
 しかし、DNAの研究が進むにつれて、この二つは、早い時期に分かれ、それぞれちがう進化をたどってきたことがわかってきました。
 どちらも双子葉植物ですが、スイレンの方が、ハスが分かれていく前の種族であり、被子植物の中では最も古いことから、このなかまを基部被子植物または原始的被子植物と呼ぶことにします。
 被子植物というのは、めしべに子房をもっている植物のことです。子房は、将来種子になる胚珠をつつみ、保護するものです。

ハスとの比較 

  学名  Nelumbo nucifera Gaertn.    早期真双子葉植物 ヤマモガシ目 ハス科 ハス属
 似ているようでも、よく見るとちがいがわかりますね。
 花の中央にろうと形の花床があります。この中に果実がうまっているのです。
 おしべは、花床のねもとにあります。
 花被をさわってみると、その手ざわりは、最高の感触(かんしょく)です。
 機会があったら、ぜひさわってみてください。
 
 
オニバス

  学名  Euryale ferox Salisb.  基部被子植物 スイレン科 オニバス属  
 ちなみに、現在生き残っているものの中で、最も古い被子植物はアムボレラという植物で、ニューカレドニアの高山だけに見ることができます。この祖先は、およそ1億8000万年前に誕生しています。
 スイレンは、このなかまから分かれたとされています。私たちのまわりに見られる植物の中では、今のところ最古の被子植物といえそうです。
 同じスイレン科のオニバスについても同じことがいえます。
 
 葉が水面に浮かんでいる植物を浮葉植物と呼んでいます。
 オニバスの葉は、直径50cm〜2mにもなります。若い葉は、しわの彫りが深く、成長するにしたがって広がるのでしわは緩やかになります。
 
 葉の表面を拡大してみます。
 中心から放射状にしわが広がっていきます。
 
 さらに拡大してみます。
 しわの窪んでいるところには、鋭いトゲが生えています。
 中心の裏側(水面下)は、葉柄につながっています。
 
 水中の枝から何本かの花茎が出て花を咲かせます。(9月)
 全身トゲでおおわれています。
 
 花被の下にある長い針におおわれた黄色っぽいものは、子房です。
 中には、たくさんの胚珠が入っています。
 一般に進化の進んでいない種族は、子房の中の胚珠の数が多いのです。
 ちなみに、最も進化の進んだキク科(タンポポなど)は、子房の数こそ多いけれど、1個の子房の中の胚珠の数は、たったの1個です。
 
 一番外側の花被は、表は針つきの緑色、裏は赤色をしています。
 その内側の花被は、紫色で、最も内側の花被は白色をしています。
 中心の黄色く見えるのは、雄しべの葯でしょう。
 雌しべは、輪状に並んだ雄しべの内側にあります。
 ハスもスイレンも、 まったくちがう進化をたどったのに、結果的にそっくりな花になったということは、何とも不思議なことです。
 
 大きい葉におおわれているので、花は葉を突き破って出てくることが珍しくありません。
 そのためか、葉はもろくできています。
 大きいからといって葉にのってはいけません。
 葉にのれるのはオオオニバスです。
 

シキミ 

 学名  Illicium anisatum Lour.   基部被子植物 アウストロバイレヤ目 シキミ科 シキミ属
 
 シキミは、線香の材料になります。葉をちぎってみると独特なにおいがします。
 悪しき実からきた名前だという説もあります。
 あまりなじみのないアウストロバイレヤ目にふくまれる変わった存在です。
 お墓に供える風習があるので、仏事用として栽培されています。
 ちなみに、同じなかまのトウシキミの果実は中国料理の八角として有名です。
 インフルエンザの治療薬”タミフル”の原料であることはあまり知られていません。
 
 シキミの花は、コブシに似ています。
 コブシなどモクレンのなかまは、原始的被子植物が真双子葉植物に進化していくときに()いていかれたグループです。
 シキミは、モクレン類よりも少し古い種族で、モクレン類と似通(にかよ)ったつくりになっています。
 スイレン科と同じ4細胞4核の胚のうを持っています。
 
 1カ所から数個の花をつけます。
 細長い花弁をつけています。
 中央に見える緑色のものは、めしべです。
 そのまわりに黄色いおしべを見ることができます。
 
 花弁を取りのぞいて観察しやすくします。
 ほとんどの花は1本のめしべをもちますが、古い種族の花は複数のめしべをもちます。
 めしべはらせんを描いてならんでいます。
 おしべは、葯だけで花糸(かし)がありません。
 これらの特徴はモクレン目以前の共通した特徴になります。
 写真のように、めしべが閉じたようになっているときは、おしべの葯は開いています。
 
 おしべを取りだしてみます。
 古い種族のおしべは、葯と花糸の分化は見られません。
 
 花は葉が進化したものです。
 シダ植物の包子葉から進化したと考えられています。
 おしべもめしべも葉が進化したもので、これらの葉は花葉(かよう)と呼ばれています。
 葉は茎にらせん状につきます。
 古い種族の花には、この性質が受けつがれ、おしべやめしべがらせん状につく傾向があります。
 シキミのめしべは8個あります。
 もっと古い種族は、めしべの数が決まっていません。
 アウストロバイレア目あたりから数が整理されつつあったようです。
 
 シキミは、非常にユニークな形をした果実ができます。
 めしべは8個ありますが、それぞれのめしべは1心皮でできており、合計8個の果実をつくります。
 これら8個の果実が集合したような形(完全には合生していない)からも、原始的なようすをうかがうことができます。
 この果実は袋果(たいか)と呼ばれ、たてにさけてそれぞれ1個の種子をはき出します。マメ科のさやが集まったような感じです。
 
 シキミには強い毒があります。劇物に指定されているほどです。
 特に果実は毒性が強く、食べたらたいへんです。
 毒の成分は、アニサチン、イリシンなどです。
 
 葉は、モチノキに似ています。
 みかん畑の一角に植えられていたので、一見ミカンと思いましたが、果実のちがいではっきりしました。
 葉はミカンとも似ていますが、葉脈がミカンほどはっきり出ていません。
 一番たしかな見分け方は、葉をちぎってにおいをかいでみることです。
 線香のようなにおいがしたら、たしかにシキミです。
  
 
4月9日に更新します。





 

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