第2回 モクレンのなかまたち

 裸子植物から進化した原始的被子植物は、さらに進化を進めます。
 どのような進化かというと、花被やおしべの数がしだいに少なくなっていくのです。といっても、現在ふつうに見られるアブラナほど少なくはありません。
 このなかまをモクレン類と呼びましょう。
 モクレン類の中には、4つの大きなグループがあります。 
 下の系統図 f.03 の右端にあるたて書きの(もく)です。
 この中で一般によく知られているものをあげてみましょう。 
ハンゲショウ   半夏生とは暦で、夏至の日から11日目のことだそうです。このころに花をつけるからこんな名前がついたんだといわれています。葉の一部が白くなるから半化粧だという説もあります。
ドクダミ  日本の有名な民間薬です。
クスノキ  トトロに出てくる大きな木がクスノキです。防虫剤の樟脳(しょうのう)の材料にもなります。果物のアボカドもクスノキのなかまなんですよ。
ニッケイ  シナモンともいいます。ニッキのことです。
コショウ  香辛料で有名です。コロンブスが活躍した大航海時代は、コショウを求めるためといってもいいくらいです。当時、コショウは黄金と同じくらいの価値があったのです。 ロウバイ  ろう細工のような花が咲きます。
モクレン  空気のよごれたところでは咲きません。
ユリノキ  ユリノキ通りとかユリノキ広場などとよく使われますが、それほどに有名ではありません。ことばの響きがいいのでしょう。
 
 f.03 モクレン類 magnoliids

ドクダミ

 学名 Houttuynia cordata Thunb.       モクレン類 コショウ目 ドクダミ科 ドクダミ属
 身近な植物にもモクレン類はあります。
 日本の代表的な薬草、コショウ目のドクダミです。
 コショウ目の先祖は、今からおよそ1億5700万年前に誕生しましたが、ドクダミ科は、その中でも新しく、7500万年前に出現したようです。
 ドクダミには不思議がいっぱいあります。
 白い花弁に見えるものは、花弁ではなく、じつは総包という葉の変化したものなのです。
 総包のはたらきは、つぼみの状態で花序を包んで保護することにあります。花序というのは花の集合です。
 
 ドクダミは、小さい花が棒状の花床(花がつくところ)にたくさん集まって1つの大きな花をつくっています。このような花を偽花(ぎか)と呼んでいます。ほんとうの意味での花ではなく、花の集合(花序)だから、(にせ)の花ということなのです。
 総包は葉が変化したものです。
 植物の進化が進むと、がくが包にとって代わり、包の仕事はなくなってきます。
 ドクダミは、花被が退化して、包が花被の代わりをすることになったのです。
 
 花被(かひ)はなくても、ドクダミには、りっぱな雄しべと雌しべがあります。
 子房からは3本の花柱(かちゅう)が出ています。
 雄しべは3本あります。(やく)のつきかたは底着葯(ていちゃくやく)で、古い種族に多く見られるタイプです。
 (やく)には花糸(かし)がつき、柱頭(ちゅうとう)子房(しぼう)の間には花柱がのび、どちらも子房からはなれるようなつくりになっています。
 どれほどの効果があるかはわかりませんが、甲虫など子房を食べる害虫を防ぐ手だてなのです。
 
 葉のつけねを見ると、うすい羽のような托葉(たくよう)を見ることができます。
 葉は、茎の一部が変異したものです。
 初めは、小さな芽になっています。その芽は、何枚ものりん片につつまれて保護されています。
 托葉は、そのりん片の1枚か2枚が残ったものなのです。
 進化が進むと、托葉は、なくなってしまったり、他のはたらきをするようになります。
 

ハクモクレン

 学名 Magnolia heptapeta (Buchoz) Dandy  モクレン類 モクレン目 モクレン科 モクレン属
 スイレンより少しあとに現れたなかまに、モクレン目やクスノキ目、コショウ目、カネラ目などがあります。
 1億7000万年前ごろでしょうか。
 モクレン目の中のモクレン科は、その中では比較的新しく、
7000万年前ごろになりそうです。とにかく、大昔なので、あまりはっきりしたことはいえません。
 日本でよく見かけるモクレン科の植物にハクモクレンがあります。
 
 ハクモクレンは、葉を出す前に花を咲かせます。
 上の写真で葉がないのはそのためです。
 花が終わると葉芽がふくらみ、大きな葉に成長します。
 長さが20cmくらいになるでしょうか。
 しかし、茎は折れやすく、木登りには適しません。
 
 ハクモクレンの花は大きいので、モクレン類の観察にたいへん適しています。
 花はシュートが進化したものです。
 ハクモクレンの花を見ると、シュートのなごりがうかがえます。
 つまり、茎に葉がついている状態が、花軸状に花被(かひ)、おしべ、めしべが下から順番についる状態に似ていることです。
 おしべなど、数の多いことも、原始的被子植物の特徴になります。
 つぼみをつつんでいる茶色のものは、包葉(ほうよう)です。その内側に白い花被が見えます。
 
 花被が大きくなると茶色の包葉は落ちます。
 しかし、落ちない小さな包葉が残ります。
 すべての包葉がつぼみをつつんでいたのではないのです。
 まだ包葉の数もその役割も、はっきり決まっているわけではなかったのです。
 これは、原始的被子植物の大きな特徴の一つです。
 数が決まっていないこと。
 花被についてはどうなのでしょう。
 
 花被をむしってみました。どれも同じ形をしています。
 数は、9枚あります。 ハクモクレンは、モクレン類の中では比較的新しいほうなので、花被の数は決まっていますが、古い種族のものは、数が決まっていません。
 だんだん数が少ない方へ進化していくようです。
 
 ハクモクレンの包葉と花被を取りのぞいてみると、そこにはおしべとめしべをはっきりと見ることができます。
 おしべもめしべも数が多く、その数はきまっていません。
 葉のように扁平な形でらせん状についていることは、シュートから変化したことをうかがわせます。 
 
 おしべ・めしべを花軸ごとまっぷたつに切断してみました。
 中央の太い部分が花軸です。
 花軸からは、下部におしべ、上部にめしべがたくさんついています。
 
 
 ハクモクレンのおしべを1本とってみました。
 バナナのような形です。
 シュートの葉から変化した初期のものですから、細長い形をしているのです。
 花軸から直接出ているので、まだ花糸(かし)はありません。
 
 めしべをとってみました。
 6本まとめてとれてしまいました。
 これも、まだ柱頭(ちゅうとう)花柱(かちゅう)の区別がはっきりしません。
 子房から細長くのびているのは、やはりシュートの葉の面影(おもかげ)を残しているのでしょう。

 クスノキ

 学名 Cinnamonum camphora L.   モクレン類 クスノキ目 クスノキ科 クスノキ属
 モクレン類4人兄弟の一人にクスノキ目があります。
 クスノキは楠と書かれることが多いのですが、楠とは同じクスノキ科のタブノキのことであり、ほんとうのクスノキは樟と書きます。
 クスノキは大木になります。
 写真のクスノキは若宮八幡宮のもので、幹の周囲が10m、高さ20mもあります。推定樹齢は1000年ほどだそうです。静岡市の指定天然記念物になっています。
 
 この木からは、樟脳(しょうのう)という成分がとれます。むかし防虫剤に使われていたものです。今では、ほとんどがパラゾールにとってかえられてしまいました。
 セルロイドの原料にもなりますが、これもプラスチックが発明されてから使われることがほとんどありません。
 クスノキの葉は互生で、鋸歯(きょし)はありません。托葉(たくよう)もありません。

 
 
 葉脈は主3脈あり、その分岐点がふくらんでいます。
 これはダニ部屋と呼ばれるもので、中にたくさんのフシダニが生息しています。クスノキと共生関係になるようなのですが、くわしいことはわかっていません。
 防虫剤がとれる樹に虫が住んでいるなんて、おもしろいですね。
 ダニ部屋をもっている樹木は、日本ではクスノキしかないから、同定(クスノキかどうかという判定すること)につごうがいいですね。
 











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