第3回 単子葉植物の誕生

 基部被子植物は、スイレンから、さらにアウストロバレイヤ科やシキミ目の植物が出現しましたが、それにひきつづきコショウ目、モクレン目、カネラ目、クスノキ目、の4つが肩を並べて出現しました。
 そのとき今までのものと形質の異なったものが生まれています。
 基部被子植物は、子葉が2枚あったから、いちおう双子葉植物といえます。
 しかし、この植物は子葉が、たった1枚だったのです。それは、種子の中でさや状になって胚をつつみました。
 ほかにも、根や葉にも変化が見られ花被やおしべ、心皮の数にも変化が出てきました。
  維管束が分散し、茎を太らせていくこと(二次成長)をやめました。
 単子葉植物の誕生です。
 単子葉植物は、ミュータント(突然変異種)だったのです。
 被子植物を単子葉類と双子葉類にわけることは、厳密にいうとまちがいなのです。
 単子葉植物は、被子植物(双子葉植物)の進化の途中に発生したミュータントであるという位置づけが正しいと思います。


  単子葉植物の系統図は、次のようになります。

 f.04 単子葉植物   monocots

 

 初期の単子葉植物は、ショウブ目とヘラオモダカ目の2つです。
 ショウブ目は、サトイモ科にふくまれる分類が多いですが、APGでは、独立しています。

  

 f.05 初期の単子葉植物   basal monocots

 

ショウブ目

 最も初期の単子葉植物は、ショウブ目が有力です。この祖先は、今から1億5,500万年くらい前に出現したようです。
 ショウブというと、日本では菖蒲湯(しょうぶゆ)でおなじみです。5月の節句で菖蒲湯につかると、じょうぶなからだになるという言い伝えがあります。
 それほど有名なショウブなのに、花のことはあまり知られていません。
 およそ花のようには見えないからでしょうか。
 従来の分類では、ショウブ科はサトイモ科の中でショウブ属としてあつかわれていました。
 しかし、APGによると、サトイモ科より古く、ショウブ目として独立させることにしています。
 ショウブ目からヘラオモダカ目・サトイモ科の有名なミズバショウなどに進化していくようです。

ショウブ

 学名  Acorus calamus L.    初期の単子葉植物 ショウブ目 ショウブ科 ショウブ属

 洋ナシ形の子房のまわりに6本の雄しべと、さらにそのまわりを6枚のりん片状の花被がとりまいています。
 アヤメのような花を咲かせるショウブがありますが、これはハナショウブといってアヤメ科だから、まったくちがうなかまなのです。
 ショウブの花は、ドクダミのように小さい花が多数棒状の花床についています。写真の緑色の部分は、花が終わって子房がふくらんできたものです。
 初期の被子植物であるドクダミは、花被は退化し、おしべも3本と少なくなっていますが、ショウブのほうは、りん片状の花被が残っています。おしべも6本とドクダミより多くなっています。
 ショウブ目の祖先は1億5,500万年くらい前ですが、ドクダミが属するコショウ目の祖先は1億5,700万年くらい前です。
 どちらも初期の被子植物ですが、ジュラ紀末期からあまり進化していないショウブよりも、進化をつづけ白亜紀初期に出現したドクダミのほうが新しいといえます。
 
 従来の分類の考え方では、被子植物は単子葉類と双子葉類に初めからわけています。
 しかし、DNAの研究から、単子葉植物は、原始的な双子葉植物から生まれたミュータントであることがわかったのです。
 細かいことを気にしなければ、単子葉類と双子葉類の2本立てのほうがわかりやすいでしょうね。
 しかし、進化というものは、それほど単純なものではないということを頭のすみに入れておいてください。
 
 ショウブ目の出現からおよそ1,300万年のち、ヘラオモダカ目のサトイモ科が誕生したようです。  今から、1億4,200万年ほど前のことです。この数字は誤差が非常に大きいので、参考程度にしてください。

マムシグサ

 学名  Arisaema serratum (Thunb.) Schott   初期の単子葉植物 ヘラオモダカ目 サトイモ科 テンナンショウ属
  マムシグサのなかまは、全国に広がり、○○テンナンショウと呼ばれることが多く、生育が地域に限られていることから、独自に変化したものと考えられます。
 これらは、初期の単子葉植物の中でも変わった存在です。
 葉は、上下に2枚の複葉(ふくよう)がつき、それぞれ7〜17の小葉(しょうよう)がつきます。単子葉植物で複葉というのは非常に珍しいのです。
 マムシグサは、雌雄異株(しゆういしゅ)といって、雄株(おかぶ)雌株(めかぶ)に分かれています。
 花の軸の上方には、バットのような付属体がついています。
 
 左の写真を見ると、マムシグサのなかまであることが一目でわかります。
 それは、コブラが立っているときの姿を想像させるような姿に特徴があるからです。
 その特徴は、仏炎包(ぶつえんほう)といって、総包葉(そうほうよう)が花序をとりまいているものです。
 原始的な被子植物は、上を向いた花を咲かせます。
 シュートが花に変化した最初の形から、そうならざるを得なかったのです。
 これには、雨に弱いという欠点がありました。
 マムシグサは、仏炎包でこの欠点をクリアしました。
 
 サトイモ科の花は、ドクダミなどと同じように棒状の花床(かしょう)に小さな花がたくさんつきます。
 それらの花を包む総包(そうほう)は、その形から仏炎包(ぶつえんほう)と呼ばれています。
 サトイモ科には、このほかにコンニャクなどの植物もあります。
 
 仏炎包の筒の中には、付属体の下の花軸に花被のない小さい花がたくさんついています。基本的には、初期の被子葉植物のドクダミと同じです。
 ドクダミと異なるのは、雌雄異株(しゆういしゅ)であること。すなわち、雄株(おかぶ)雌株(めかぶ)があるということです。
 受粉は昆虫にしてもらいます。 
 昆虫にとって花が1カ所に集中していることは、大変な魅力であったにちがいありません。
 緑色の粒は子房です。
 受精すると、子房はしだいに赤くなって果実に成長します。
 
 単子葉植物では、非常に珍しい複葉(ふくよう)です。
 このなかまには、ヒロハテンナンショウのように、掌状複葉(しょうじょうふくよう)をもつものもあります。
 この葉だけを見て単子葉植物であると判断するのはむずかしいことです。
 マムシグサのなかまは例外だと考えてよいでしょう。
 葉の進化では、一般的に、単葉から分裂葉、複葉へと進行しますから、マムシグサは単子葉植物の中では、双子葉植物とおなじような進化をしたことになるようですね。
 他の単子葉植物は、複葉ではなく、別の形の進化をたどることになります。
 

アンスリウム

 学名 Anthurium spp.   原始的単子葉植物 ヘラオモダカ目 サトイモ科 アンスリウム属
 サトイモ科のアンスリウムは、花を観賞用に改良したものです。有名なミズバショウも、近いなかまです。
 葉の裏の葉脈が気になりました。学校では、単子葉類は平行脈と教えています。

 
 この写真を見ると、平行脈のようにも網状脈のようにも見えます。
 初期の単子葉植物は、平行脈に向かって進化しているので、まだ、原始的な双子葉植物の形質からぬけだしきれないものもあるようです。
 
 ドクダミの白い花弁状の包葉と同じく、アンスリウムにも包葉があります。
 しかし、花弁状ではありませんね。どう見ても葉のほうに近い。
 基部は、矢じり形、またはハート形になって花茎(かけい)をだいています。 
 包葉の葉脈に着目してみましょう。
 これも、平行脈か網状脈(もうじょうみゃく)か、判断に迷います。
 それでも、ふつうの網状脈と比べてみれば、あきらかに平行に近いといえます。
 
 花序を拡大してみます。
 棒状の花床(かしょう)にたくさんの小さな花がついています。
 つぶつぶ状に見えるところが花です。
 同じサトイモ科のミズバショウは、4枚の花被と4本のおしべをもっています。
 しだいに数が整理され、 という数に近づきつつあります。(3数性)
 この棒状の花序が尾にたとえてアンスリウム(花+尾の合成語)という属名になったようです。
                         

                              



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