第12回 優雅なるアヤメ属

めしべが花弁化、華麗に進化したアヤメ科の頂点

 アヤメ属は、同じアヤメ科の中でも、ヒオウギ属やニワゼキショウ属に比べて、豪華絢爛な進化をなしとげました。
 その秘密は、めしべの変異にあります。
 シャガを例にとってアヤメ属を追求していきます。
 

シャガ

 学名 Iris japonica Thunb.  中核単子葉植物 アスパラガス目 アヤメ科 アヤメ属

 左の写真は、シャガの花冠です。
 ユリ科やラン科でせっかく横を向いたのに、アヤメ科では上を向いたまま進化をつづけます。
 ユリの花と異なり、外花被と内花被の区別がはっきりしています。
もようのある外花被ががくにあたり、もようのない内花被が花弁にあたります。
 がく片3、花弁3、合計6で、これも3数性を示しています。 

 
 シャガの花を裏から見ると、もようはありません。
 昆虫に裏からこられては、困るのです。
 裏には、大切な子房があるからです。
ユリの花は子房上位ですから、裏から昆虫が進入することはありません。
 アヤメ科は子房下位で、裏のほうに子房があるから、裏から昆虫がこないように、花被はユリより平べったくなっています。
 
  シャガの外花被
  シャガのがく片は、見た目が花弁のようですから、むりにがく片と呼ばず、外花被片と呼ぶことにします。
 外花被片には、オレンジ色と青色の斑点がついています。
 これは、蜜標といって、昆虫を呼ぶための目印なのです。
 昆虫に花粉を運んでもらう花を虫媒花といいますが、彼らは、昆虫を呼ぶためにいろいろな手だてをこうじます。
 とさか状の突起
 花が美しいのも昆虫を呼ぶためです。
 シャガの外花被片には、斑以外にも大きな特徴があります。
 中央脈のところにとさか状の突起があることです。
 アヤメ科にみんなあるわけではありませんし、何のためにあるのかもわかりません。
 シャガの内花被
 シャガの花弁は、がくより派手ではありません。だから、内花被片と呼びましょう。
 大きさも外花被よりはずっと小さく、先の方が、浅く裂けています。
 縁は、外花被に比べてギザギザが細かくめだちません。
  ところで、アヤメ科のおしべやめしべは、いったいどこにあるのでしょう。
 左の写真を見て、どれがおしべだかめしべだかわかりますか?
 ふつうの花のようなおしべやめしべは見あたりません。
 まず、観察しやすいめしべから見ていきましょう。
 花冠の内側にあって、さきが細くさけている白くひらひらしたものがありますね。これがめしべなんです。
  
 左の写真は、花被片をとりのぞいたあとに残ったものです。
 花被片がなければ、おしべはかんたんに見つけることができます。
ところが、めしべがよくわかりません。
 アヤメ科の花は、めしべがとても変わっていて、初めてさがしたときは、たいてい見つかりません。
 花弁のように見え、気づかないのです。
 左の写真を見ればわかると思いますが、これがめしべなのです。
 めしべは上から、柱頭・花柱・子房とつながっていますから、子房からたどっていけば、めしべをさがしだすことができます。
 
 めしべは、花柱のさきが大きく3つにわかれ、その一つひとつにさらに2つにわかれた、ひらひらとした付属体がついています。
 付属体と花柱の先にはさまれたところに柱頭があります。
 柱頭には、細かい突起物がたくさん出ています。
 これは、昆虫が蜜を食べにもぐりこむとき、背中につけた花粉をかきとるのにつごうがよいしくみです。
 子房は1個ですが、3本の花柱が出ており、中は、3室になっています。これは、シュートの3枚の花葉が合成して1個のめしべになったことを示しています。
 特に名前をつけることもないようなものは、付属体と呼ぶ習慣があるようです。
 シャガの付属体は、昆虫を呼ぶために花弁化したものなのでしょう。
 
 おしべは外からは見えないので、外花被片をおりまげてみると、外花被片とめしべの花柱にはさまれたおしべの葯を見ることができます。
 写真では、花柱の上の方のむこう側の面が柱頭になっています。ちょうど、花柱のとちゅうから出ている付属体にはさまれるような感じです。
 3枚の外花被と3つの花柱にはさまれているから、おしべの数は3本ということになります。
 おしべもめしべの花柱の数も、3数性がなりたちます。
 おしべの数については、ユリ科の6本との見分けになりますよ。
 
 おしべには、2つの葯室があり、その2つにはさまれているところを葯隔(やくかく)といいます。
 葯室にさけ目ができ、開きかけています。
 
 完全に開いています。
 葯室、内側、表面の細胞が花粉になります。
 
 横から見ました。思ったより平たいですね。
 
 葯をうらから見ました。花糸がのびて葯隔になっているようすがわかります。
 このようなつきかたの葯を側着葯(そくちゃくやく)といいます。
 
 葉の裏表(うらおもて)は?
 
 葉は2列になって、たがいちがいに出ています。
 葉の裏表がわからないはずです。裏と表てが非常によく似ているためでしょうか?
 いいえ、両方とも裏なのです。よくよく見ると、ずいぶん変わっているんですね。ちょっと見ただけでは気づかないのは、あたりまえです。
 1枚の葉が、折り紙を折るように内側に折られ表面(おもてめん)どうしがくっついてしまったのです。だから、外側はどちらも裏面になるわけです。
 
 こういう葉を単面葉(たんめんよう)といいます。
 左の写真では、外がわの葉が内側の葉をはさんでいるのがわかります。
 シャガの葉は、細長い1枚の葉が中央脈を谷にして内側に折りたたまれたものなのです。下の図を参考にしてください。
 自然というのは、どうも信じられないようなことが起こるのですね。
 
 葉の進化
 

 中核単子葉植物の葉の形は、しだいに幅がせまく長くなっていきます。
 次に出てくるヒガンバナ科やネギ科、ヒヤシンス科、スズラン科などのなかまの葉形はは、線形といって非常に細くて長い葉になります。
 細く長く、そして、本数を多くすることによって葉の合計の表面積を増やし、光合成の効率を上げています。
 (おもて)は、内側にしまいこまれてしまいました。
 だから、表面に出ている面は、すべて裏なのです。
上の写真を見ると、葉の基部が内側の葉をはさんでいるようすがわかります。
それでも、葉がしなったとき、上を向いた方を仮の表とすると、気孔の数は、仮の裏のほうが多いようです。
 
 子房は下位
 
 花茎が枝からわかれるところから包葉(ほうよう)につつまれ、ちょっと見ただけでは、子房の位置(いち)がわかりません。
 花の基部は包葉の中にほそながくのび、そのさきに小さい子房がついています。したがって、子房下位ということになります。

キショウブ 

 学名 Iris pseudacorus L.  中核単子葉植物 アスパラガス目 アヤメ科 アヤメ属

  アヤメ属には、シャガのほか、アヤメ、ハナショウブ、キショウブ、カキツバタ、イチハツなどがあります。
 また、アヤメ属のなかまは、水に親しむものが多くあります。キショウブもその一つです。
 「いずれがアヤメかカキツバタ」ということばがありますが、甲乙つけがたい美しさの表現です。

 
 キショウブは、ドイツアヤメ(ジャーマンアイリス)のなかまであることからわかるように、ヨーロッパ原産のアヤメです。
 特徴は、何といっても、鮮やかな黄色です。
 アヤメは、紫色が多く、黄色はめずらしいのです。
 浅い水辺に野生化しているものがふえてきているそうです。

 

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