第51回  おしべが減少するのも進化の現れ

ヤシ科の流れをくむ巨大な葉をもつショウガ目

 今からおよそ 1億1,400万年前のことです。ツユクサ目からちょっと変わったなかまが分かれました。ショウガ目です。
 それらは、今までにはない大きな葉をもつことになりました。
 ひじょうに大きな葉のため、今までのツユクサ目のような平行脈では葉のすみずみまで水を送れません。
 そこで、ショウガ目の植物たちは、ヤシ目のように鳥の羽毛のような葉脈を採用しました。
 それは、恐竜が絶滅するおよそ1,500万年前のことでした。
 また、受粉の協力者である昆虫や鳥を引きよせるために美しい花を咲かせるように進化していきました。
 大型の花の場合、鳥までが受粉のお手伝いをするのです。
ショウガ目の花は、バラエティに富んだ進化をつづけます。
 バショウ科のように花とは思えないものから華麗な花に進化していきます。
 特に、おしべの変異は独特です。アスパラガス目のアヤメ属がめしべを花被片に変化させたように、ショウガ科やカンナ科は、おしべを花被片に変化させました。
 また、単子葉植物全体の特徴であった3数性がくずれてきました。おしべが1本退化した5本のものが出てきたのです。
 
 f.11
ショウガ目 zingiberales
 
オウムバナ
ヘリコニア ビハイ
 学名 Heliconia bihai  中核単子葉植物 ツユクサ類 ショウガ目 オウムバナ科 オウムバナ属

 ショウガ目の中で最も早く出てきたのは、はっきりはしませんが、日本の植物園などで目にするものの中では、どうもオウムバナが有力のようです。
 今から 8,800万年前、すなわち、バショウ科が出現する100万年前のことです。
 現在、コスタリカやパナマなど、熱帯地方で自生しています。
 オウムバナには、バショウ科と書かれている図鑑が多くありますが、葉のつきかたや種子の数のちがいから、最近ではオウムバナ科として独立させています。
 したがって、オウムバナ科にはオウムバナ属(ヘリコニア)しかありません。

 
 オウムバナは、花の形が鳥のオウムに似ていることからつけられた名前です。
 進化シリーズの次回に予定しているゴクラクチョウカとよく似ています。
 赤いところは、花弁ではなく、包葉と呼ばれる葉の変化したものです。ミズバショウなどに見られる仏炎包と同じようなものです。
 葉は、ショウガ目に特有な中央脈から出た平行脈をもつ大きなものです。
 オウムバナのおじさんにあたる、同じツユクサ類のヤシ目から受けついだ形質でしょう。
 
ヘリコニア ロストラタ
 学名 Heliconia rostrata. 
 オウムバナの花序(かじょ)は、初めのころ、うちわのような扁平な形をしていました。 
 しだいに基部の方から写真が示すように開いていきます。
 被子植物の初期のころは、花軸(かじく)を中心にらせん状の花序がふつうでした。
 進化がここまで進むと、らせん状ではなく、左右交互(こうご)になっていくようです。
 これは、イネ科に通じるものです。
 
 
 オウムバナは園芸で人気があり、ヘリコニアと呼ばれています。
 ロストラータは、まっ赤な(ほう)に黄色の縁取り、先端も黄色でとがっています。
 欧米では、ロブスターの爪のように見えることから、「カニの(つめ)」と呼ばれているそうです。
 成長すると、数メートルにもなるそうですが、樹木ではなく、草なのです。
 熱帯には、バナナなど巨大な草が存在します。
 恐竜が歩き回っていた中生代には、このような植物が多かったのでしょうね。
 
ヘリコニア マリアエ
 学名 Heliconia mariae 
 オウムバナの葉は、バナナの葉に似ています。というより、そっくりです。
 葉脈(ようみゃく)模様(もよう)が、双子葉植物の(あみ)の目状に比べると、単子葉植物の平行脈は、単純です。
 葉脈は動物でいうと、血管にあたります。
 大きな葉を支えるために中央にじょうぶな太い主脈ができ、そこから、ほぼ垂直に側脈に分かれます。
 このスタイルは、身近なところでカンナに見られます。ユリ科の平行脈とは異なります。 
 
 これが草なのだから、熱帯の植物には驚かされます。
 写真のオウムバナは、ヘリコニア マリアエといい、英米ではビーフステーキと呼ばれています。
 巨大なムカデという感じですね。
 
 オウムバナは、どれも、最も派手な部分が(ほう)で、花は苞の中にあり、あまり目立ちません。
 写真では苞の左側に小さくつきだしたピンク色のものが花被です。
 
 写真は、茎のように見えるけれど、茎ではありません。
 ヘリコニアは、地下の茎に巻きついている葉鞘(ようしょう)幾重(いくえ)にも重なって()び、茎のように見えるので、偽茎(ぎけい)と呼ばれています。
 偽茎というのは、(にせ)の茎という意味です。
 
ヘリコニア ストリクタ
 学名 Heliconia stricta var. stricta.  中核単子葉植物 ツユクサ類 ショウガ目 オウムバナ科 オウムバナ属 
 ヘリコニアの中では小さいほうです。
 英名でも、こびとジャマイカンヘリコニアというそうですから。
 小さいとはいっても、葉の長さは1mくらいあるでしょうか。日本の植物と比べると、その巨大さがわかります。
 ちなみに、日本にも大きな葉があります。
 タンスの木材で有名なキリ(桐)の幼木の葉は、ナント直径1mほどもあります。
 
 ヘリコニア ストリクタは、まっ()でふちどりはありません。
 苞の先が長くとがっています。
 
ヘリコニア ラティスパタとプシッタコルムの交配種
 学名  H.latispatha × H.psittacorum 
 オウムバナは、園芸用に品種改良されているものが多く、左の写真のように、オレンジ色をしたものもあります。
 見かけはゴクラクチョウカによく似ています。
 左に見える葉は、別の植物の葉で、ヘリコニアのものではありません。
 
 オレンジ色の大きな(ほう)から同色の花被(かひ)がのぞいています。花被は、花弁やがく片を区別しないときの名称です。
 
 花は、シュートから進化したものです。
 シュートというのは、左図のように茎と葉から成り立っています。
 この葉1枚1枚が内側からめしべ、おしべ、内花被、外花被、苞に進化していったのです。
 初期の花は、苞に包まれていました。その後、双子葉(そうしよう)植物は、内花被が花弁に、外花被ががくに変化し、その役割を引き()ぎます。
 苞はお役ご免で退化し消失するものが多く出ています。
 単子葉植物は、内花被と外花被の区別がはっきりせず、ともにカラフルになり、苞を必要としないものがふえました。
 ヘリコニアを含むショウガ目の花は、逆に苞が派手で目立ったため、花粉を運ぶハチドリなどの注目を()びて発展することができました。
 生物は、生き残るのに都合(つごう)のよい方向へ進化するものなのです。

 

バナナ
 学名 Musa acuminata Colla  中核単子葉植物 ツユクサ類 ショウガ目 バショウ科 バショウ属
 バナナを知らない人はいないと思いますが、バナナがなっているのを見たことがある人は、そう多くはないと思います。
 ましてや、バナナの花を見たことがある人は、ごくわずかだと思います。
 市販されているバナナに種子はありません。
 種子がないバナナは、自分自身でふえることができません。
 人の手を借りて、挿し芽でふえるのです。
 野生のバナナは、花が咲き、種子をつくり、自分でふえていくことができます。
 
 バショウ科の花はたいへん変わっています。今まで掲載してきた花とはまったく異なり、これが花だとは、なかなか思えません。
 花茎の基部のほうには、たくさんの雌花がつきます。
 花を咲かせるたびに花茎が蛇腹のようにのびていきます。
 先端にある大きなかたまりは花序の先端です。
 花序の先端と果実の間には蛇腹のような花茎だけで何もありません。
 じつは、ここには中性花や雄花が咲いていたのですが、果実をつくらない花なので、落ちてしまいます。
 しかし、栽培している農園では、早めに取りのぞくことにしているそうです。
 
 雌花が咲いているとき、雄花は、まだ咲きません。
 花の咲く時期をずらして自家受粉を避けているのです。
 せっかく、このようなくふうがあっても、わたしたちが食べているバナナは種子をつくりません。
 それは、タネなしの栽培種として改良されたからです。今では人間の手で挿し芽をされて繁殖しているのです。
 バナナの中には、種子をつくる種類もあります。
 
 バナナは、総包の内側に花をつけます。花をつけると総包はとれてしまい花茎がのび、つぎの花をつけます。花茎の基部のほうに雌花をつけ、これが果実になります。花茎の中ごろまでくると、中性花を咲かせます。しかし結実はしそうもありません。先端の方にくると、雄花を咲かせます。
 雌花はうすい黄色の花被の基部に小さいバナナの形をした緑色の子房をつけますが、雄花は花被とおしべだけで子房はありません。
 総包をすべて取りのぞくと、中にはタケノコのようなシンがあり、食用になるそうです。

 

トラフバショウ
 学名 Musa acuminata var. sumatrana  中核単子葉植物 ツユクサ類 ショウガ目 バショウ科 バショウ属
 今からおよそ8,700万年前にオウムバナから分かれたようです。
 バショウ科は熱帯地方の植物が多く、大きな葉が特徴です。
 バショウの葉はショウガ目の特徴である中央脈から分かれた平行脈をもったもので、オームバナ科のものよりさらに大きなものです。
 バショウは、漢字で芭蕉と書きます。
 俳句で有名な松尾芭蕉のバショウです。
 西遊記(孫悟空)の中に強風を起こす芭蕉扇というのが出てきますが、バショウの葉鞘でつくられたもののようです。  
 
 トラフバショウは、バナナの変種を園芸用に品種改良したもののようです。
 ですから、学名は、バナナと同じ Musa acuminata です。そのあとの var. は変種を表す語です。
 葉の裏に茶色の斑があるのが特徴で、他の種から見分けることができます。
 この色のもようが美しいので、観賞用に栽培されています。
 


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