オオイヌノフグリ

 真双子葉植物 シソ群 シソ目 オオバコ科 クワガタソウ属 (APG分類体系)

 
 学名  Veronica persica Poir.
 静岡市では山地をのぞいて、日だまりなどにオオイヌノフグリを見ることができます。
 左の写真は、12月31日のものです。
 1月には、オオイヌノフグリとともにハコベも咲き始めます。ホトケノザは、数は少ないですが、やはり咲き始めます。
 静岡市の冬は、場所によっては春のようです。
 
 オオイヌノフグリの「オオイヌ」はわかりますね。
 では、「フグリ」とは何でしょう?
 口に出すのもはずかしいのですが、後足のつけ根にぶら下がっている、あの「○○玉」のことなんですよ。
 昔の日本人の名前のつけ方というのは品のないものがけっこうありますね。
 
 では、なぜ、そのような名前がついたのでしょうか?
 その理由は、果実の形にあります。
 4枚のがく片が左の写真のような形になり、その中で子房が果実に成長していくのです。
 
 果実の形は、逆ハート形をしており、それがフグリの形に似ているわけです。
花柄(かへい)が長くなり、果実がぶら下がるようになるから、なお似るのでしょう。
 左の写真は、花冠(かかん)をとりのぞいたものです。白い棒が()しべで、そのつけ根にあるのが子房です。 
 子房が成長すると果実になります。
 
 子房がふくらんで果実になってきました。
 4枚のがくは残っています。このようながくを宿存性(しゅくぞんせい)のがくといいます。
 
 がくをむしり取ってみました。
  なるほど、犬のフグリという感じですね。
 
 果実の中は、どうなっているのでしょう。観察してみます。
 果実の中は2室になっており、種子がたくさん入っていました。 
 さらに熟すと、乾燥して(から)がはじけて、種子がとび出します。
 

 たいていの花は、おしべが5本とか6本とか多いのですが、2本というのは変わっているほうでしょう。
 おしべとめしべの高さに注目しましょう。
 同じくらいです。
 夕方になって、花が閉じるときに、2本のおしべがめしべをはさむようにかたむいてきます。
 そのときに自家受粉するのです。昆虫に花粉を運んでもらえなかったときの用心です。
 こうやって、子孫が絶えることを防いでいるのです。

 直径 8mm くらいの小さな花です。
 

 これは、花の裏の方からとった写真です。
 4枚のがく片は、根元でわずかにつながっているので、合片がくです。
 がくにも花柄(かへい)にも毛が生えています。

 
 オオイヌノフグリによく似たものにイヌノフグリがあります。花はうすい桃色(ももいろ)で、この写真のものとよく似ていますが、大きさが直径 3〜4mm でオオイヌノフグリの半分くらいしかありません。
 比べるためにイヌノフグリの茎にオオイヌノフグリの花をのせてみました。
  左の大きなほうがオオイヌノフグリで、小さなほうがイヌノフグリです。
 
 オオイヌノフグリは、花弁(かべん)が4枚あり、離弁花(りべんか)のように見えます。
 花冠(かかん)をがくからはずし、(うら)がえしてみました。
 花冠(かかん)の基部では、4枚の花弁がつながっています。
 だから、オオイヌノフグリは、合弁花(ごうべんか)なのです。
 花冠の基部には、毛がたくさん生えています。
 おしべの花糸(かし)も基部につながっているようです。
APGの分類では、ほとんど重視していません。
 
 花弁のつきかたは、放射相称のように見えます。
 しかし、よく見ると、花弁の大きさが同じではありません。
 上弁は小さく、下弁は大きい。
 オオイヌノフグリの花冠は、左右相称なのです。
 おしべの位置に注目します。
 めしべの位置は中央ですが、おしべは下の方にかたよっています。
 これは、もともと5本あったおしべのうち、上の3本が退化したと考えられます。だから、下の方にかたよっているんですね。
 
 めしべをとりのぞき花冠の基部をアップしてみます。
 すごい毛ですね。
 この奥には、大切な胚珠をつつんでいる子房があるのです。
 子房を食べる害虫が侵入(しんにゅう)できないように、こんなに毛が生えているんです。
 
 おしべの根もとは、いったいどこについているのでしょうか。
 写真からわかるように、花弁の基部のところから、おしべの花糸が出ています。
 おしべと花弁は密接な関係がありそうです。
 おしべが花弁に変化したものでは、バラが有名です。
 花弁には、毛が生えています。
 花弁のへりに生えている毛と、基部に生えている毛では、長さがにちがいがあるようです。
 
 花弁のへりに生えている毛は、短く、顕微鏡で見ると、無色透明なんですね。
 氷や水晶のようできれいです。
 花弁基部に近いほうにだけ生えているのは、基部の毛と共に昆虫の侵入(しんにゅう)を防ぐためなのです。
 
 基部の毛は、花弁のへりの毛に比べて長いのが特徴です。
 網戸(あみど)のはたらきをしているので長いのです。
 これだけ長い毛で基部をふさがれては、子房を食べる甲虫(こうちゅう)のような昆虫は、奥に侵入(しんにゅう)することができません。
 
 オオイヌノフグリのおしべです。
 おしべは、花粉をつくる(やく)と、それを支える花糸(かし)とでできています。
 オオイヌノフグリの花糸は、葯に比べると、かなり太いですね。
 
 葯は、2つの葯室(やくしつ)からなりたちます。
 写真の葯室は、すでに開ききっています。
 葯室の中には、たくさんの花粉が入っています。
 2つの葯室が平行についており、たてにさけるから、このような葯を縦裂(じゅうれつ)葯といいます。
 縦はたて、裂はさける、という意味です。
 
 葯のうらがわから見てみました。
 花糸が葯のまん中についているように見えますが、花糸より左側の葯室は、たがいにはなれています。
 花糸からのびたところを葯隔(やくかく)といい、葯室は、その両側についていることになります。
 左の写真では、葯隔は、はっきりしませんが、やく室とやく室の接しているところと考えればいいでしょう。
 
 めしべは、胚珠(はいしゅ)をつつむ子房(しぼう)と、そこからのびている花柱(かちゅう)と、その先にある柱頭(ちゅうとう)の3部からなりたっています。
 
 柱頭は、花粉をつかまえるところです。
 そのためには、いくつかの工夫があります。
 その1つとして、細かい突起(とっき)がたくさんついています。
 左の写真の柱頭は、開花前の花粉がついていない状態のものです。
 柱頭からは、粘液(ねんえき)が出ていて、ねばねばしています。
 これなら花粉がくっつきやすいですね。
 
 子房の中には、中央に(じく)があり、そこに胚珠がついています。
 胚珠がつくところを胎座(たいざ)といいますが、このように子房の中央の軸が胎座になっているものを中軸(ちゅうじく)胎座といいます。
 子房は成長すると果実になります。
 左の写真は子房で、右はだいぶ果実に近づいていますが、まだ果実とはいえませんね。
 
 オオイヌノフグリの葉は、八重咲きの花のように重なり合っていて、どのようについているのかわかりにくいですね。
1枚1枚はがしてみるとわかりますが、葉は、たがいちがいについていますから、互生(ごせい)なんです。              
 
 ところが、茎の下の方では、同じ位置から2枚の葉が向かいあってついているから、対生(たいせい)なのです。
 1つの株で互生と対生の両方のつきかたをしているというのは、おもしろいですね。
 葉には、あらい鋸歯(きょし)があります。
 鋸は音で”きょ”、訓で”のこぎり”と読みます。
 葉のへりがのこぎりの歯のようにギザギザしていますね。このようなところを鋸歯(きょし)といいます。
 
 葉をアップしてみます。
 左の写真は、葉の鋸歯の部分です。
 顕微鏡で見ているのでするどいトゲのように見えますが、、実際には、するどくはないただの毛なんです。
 オオイヌノフグリは、毛が多く、いたるところに生えています。
 
 葉の表面にもへりと同じように毛が生えています。
 毛だらけですね。
 
 これは、茎の毛です。
 オオイヌノフグリは、茎にも毛が生えているのです。
 茎の毛のほうが、葉の毛よりちょっとばかり長いようです。
 


 

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