第7回 ユリ科へのつゆはらい
イヌサフラン(コルチカム)
学名 Colchicum autumnale L. 中核単子葉植物 ユリ目 イヌサフラン科 イヌサフラン属 | ||
イヌサフラン科の出現は、今からおよそ5,500万年前のことで、ユリ科のユリ属が5,000万年前ですから、それより少し前になります。 ユリ目の中では、ユリ属とともに最もおそい出現で、新生代(第三紀)になります。 コルチカムは、球根植物で、この球根からは、コルヒチンという薬がとれます。 通風の発作での痛み止めに使いますが、毒性が強いので、現在ではあまり使われることがありません。 |
葉が出る前に花を咲かせるのは、ヒガンバナと同じです。 花茎はなく、長い花筒を球根から直接出します。 子房は、花筒の下の方にあり、地下にもぐっていますが、子房の位置は上位です。 めしべの花柱は3,おしべは、6本あります。 花被は、外花被3枚、内花被3枚で、これもユリ科と同じですから、ユリ科に入れられることが多いようです。 |
長い花筒を輪切りにしました。 まん中があいています。この中をおしべやめしべが通るのです。 三角形の花筒は予想外でしたが、このことは、3数性と関係があるようです。 単子葉植物は、花被や、おしべ、めしべの心皮など、ほとんどが3の倍数になっています。 だから、花筒の断面が三角形でも、不思議はないことになります。 ところどころ、アナが開いているところがあります。 たぶん、水を通す管になっているのでしょう。 |
野草豆知識 | |
よく似た名前に、サフランという植物があります。 サフランは、アスパラガス目のアヤメ科であり、ユリ目のイヌサフラン科とはちがうなかまです。 学名では、サフランが、Crocus sativus で、イヌサフランが、Colchicum autumnale であり、まったくちがうことがわかります。 サフランのめしべの柱頭は、高級スパイスとして使われますから、花が似ているだけで、スパイスとしては、やくにたたないコルチカムにこんな名前がつけられたのでしょう。 しかし、コルチカムは、コルヒチンという薬の材料になるのです。 |
コルヒチンは、通風の特効薬として一時はさかんに使われましたが、副作用があるため、最近ではほとんど使われません。 最近は、農薬などに利用されています。 薬としてはやくにたつのに、イヌサフランとはめいわくな話です。 イヌとつく名前の植物は、ほかにもたくさんあります。似ているけれど、やくに立たないときの言葉として使うようです。 サフランモドキという植物についてもおなじことがいえます。モドキというのは、似ているけれどちがうものに使う言葉です。 |
イヌサフランのおしべの葯です。 ホットドッグのように細長い葯です。 写真では、手前に葯室のさけめが見えます。そこから花粉があふれ出しています。 底に見える白の部分は、葯隔といい、2つの葯室にはさまれたところです。これは、もともとは花糸が変化したもののようです。 |
花糸が葯隔にどのようにつながっているかを調べてみます。 葯のほぼ中央に花糸がつながっています。 花糸のつながっている部分は意外に細くひきしまっています。 葯隔の中央に花糸がつくものを、ちょうど丁の字形に見えるから、丁字着葯とよんでいます。 |
イヌサフランのめしべです。 3本見えますが、めしべが3本ということではありません。 めしべの花柱が3本なのです。 細く、おしべより長くなっています。 花柱の先は柱頭と呼ばれています。 イヌサフランの柱頭は、かぎ形に曲がっています。 |
花筒を少し裂(さ)いてみて、花柱をたどってみます。 花筒の奥の方まで、花柱は3本に分かれたままでした。 地面の下の球根(りん茎)の上にある子房から、3本の花柱がのびているのですから長いわけです。 |
実体顕微鏡で、柱頭を横から見たものです。 かぎ形に曲がった外側の面に突起がたくさんついています。 この突起で花粉をとらえるのです。 ユリ属の柱頭は、先端がデコボコしていただけですから、イヌサフランのほうがはるかに進化していることになります。 もう少し観察してみます。 |
柱頭を二方向から観察します。 |
柱頭の突起を拡大してみます。 中には、糖分をふくんだ液体が入っていて、花粉をとらえます。 進化した虫媒花植物の柱頭は、できるだけ花粉と接する表面積をふやすため、また、昆虫についた花粉をとりやすくするために、このような形になるのです。 |
チゴユリ
学名 Disporum smilacinum A. Gray 中核単子葉植物 ユリ目 イヌサフラン科 チゴユリ属 | ||
背たけが15〜30cmほどの小さいユリということで、稚児百合という名前がついたようです。 花も葉もユリ科によく似ていますが、ユリ科とのちがいは、果実がユリ科のそう果に対して、こちらは液果です。 そう果というのは、果皮がうすく、種子にこびりついている果実のことです。 |
葉のつきかたは、たがいちがいですから互生です。 葉柄はほとんどありません。 葉脈は3主脈が目立ちます。 花は横向き、または少し下向きにつきます。 地下に細い根茎があります。 |
花は、3数性を示しており、花被は離生して(1枚1枚はなれて)います。 外花被3枚、内花被3枚、おしべ6本。 花被の内側から子房が見えますから、子房上位です。 観察してみると、外見はユリ科・ユリ属にそっくりです。 決定的なちがいは、前に書いたように果実が液果であることです。 以前ユリ科に入れられていたことも納得できます。 |
ホウチャクソウ
学名 Disporum sessile Don 中核単子葉植物 ユリ目 イヌサフラン科 チゴユリ属 | ||
アスパラガス目・スズラン科のナルコユリとよく似ていますが、ナルコユリが葉のつけねにつくのに対して、ホウチャクソウは茎の先端(せんたん)につきます。 また、ナルコユリは花被が合生しているのに対して、ホウチャクソウは合生していません。 |
同属のチゴユリとのちがいは、花被が筒状になっており、たれるようにつきます。 花被は、チゴユリのようには開きません。 花被が長い筒状になることで、花柱や花糸もそれにともなって長くなります。 |
この形状からイヌサフランと同じ科であることは考えにくく、むしろナルコユリに近いとされていました。 しかし、DNAの類似性からAPGではナルコユリが属するアスパラガス目・スズラン亜科ではなく、新たにユリ目のイヌサフラン科を立ち上げ、ここに属することになりました。 このようなことが、以前の分類法に比べてわかりにくいところです。 |