第11回 アヤメ科の誕生

進化が多様化したアスパラガス目

 ラン科とならんで進化したものにアヤメ科があります。
 最も初期のものは、今からおよそ1億,300万年前、白亜紀の後半に、ラン科をふくむグループから分かれたようです。
 ラン科は他に類を見ないような進化を遂げましたが、アヤメ科も負けてはいません。
 いったいどのような進化をしたのでしょうか。
  アヤメ科のひみつは、おしべの数と葉のつきかたにあります。
 アヤメ属になると、めしべまでが大変身します。
 アヤメ科には、ヒメヒオウギズイセン属、ヒオウギ属、ニワゼキショウ属、アヤメ属などがあります。

ヒオウギ

 学名 Belamcanda chinensis DC.  中核単子葉植物 アスパラガス目 アヤメ科 ヒオウギ属
 ヒオウギは、葉が(おおぎ)を広げたような形をしているので、このような名前がつきました。
 剣状で扁平な葉が跨状(こじょう)2列にならんでいます。跨は、(はかま)という文字に似ていますが、またぐという意味です。
 このような葉を単面葉といいます。
 このことは、アヤメ科の大きな特徴ですが、次回アヤメ属・シャガでくわしく説明します。
 
 花被を上から見てみると、基本的にはユリ科と同じです。
 外花被3枚、内花被3枚で、3数性を示しています。
 外花被と内花被の形もあまり変わっていません。
 花被にたくさんの()があります。これもユリ科と似ています。
 しかし、ユリ科とは、決定的に異なることがあるのです。それは、上から見て、子房が見えないことです。
 

 花冠がずいぶん平たいですね。こういう状態を平開といいます。
  アヤメ科は、子房の位置が花冠のつけねより下になるから子房下位です。
 子房上位のユリ属は、横向きで長い花筒をもっていました。ところがヒオウギは、上を向いています。進化が逆行してしまったのでしょうか。
 下位子房ですから、ユリ属のように横を向いていると、甲虫に子房をねらわれてしまいます。上を向いていれば、上から飛んでくる甲虫は、子房へとまれません。
 また、雨水がたまらないようにくぼみをつくらない平開の形を選びました。横向き・上向きについては、進化の大すじには関係ないようです。
 
 左の写真には、大きな果実が見られます。中は3室になっていて、心皮(しんぴ)が3ということがわかります。
 つまり、めしべをつくる3枚の花葉(かよう)が合成して、1本のめしべをつくったということなのです。
 果皮は、うすい皮になり、たてにさけて、真っ黒なつやのある種子をはき出します。
 小さい子房が、おどろくほど大きな果実に変身しています。
 

 ユリ科のおしべは、丁字(ていじ)着葯(ちゃくやく)でしたが、アヤメ科のおしべは、側着(そくちゃく)葯です。花糸(かし)の先が葯隔(やくかく)になり、その両側に葯室がつくタイプです。
 このことは科の特徴にはなりますが、進化の大きな流れとは関係ないでしょう。
 めしべについては、子房が下位になったこと以外、ユリ科とほとんど変わりません。
 花柱は、糸状、または、棒状で、先が3つに割れています。このことも、3数性を示しています。
 おしべについては、ユリ科の3本に対してアヤメ科では3本になります。6本のうち3本が退化してしまったのです。退化ということも進化の一つの形といえます。
 

ニワゼキショウ

 学名 Sisyrinchium atlanticum Bickn.  中核単子葉植物 アスパラガス目 アヤメ科 ニワゼキショウ属
 セキショウの葉に似ていることからこの名前がついたようです。
 葉形は、線形で、幅2〜3mmで、他のアヤメ科の植物とくらべると極端に小さい。
 日本には、ニワゼキショウとオオニワゼキショウが帰化しています。
 これが、あの豪華絢爛(ごうかけんらん)なアヤメと同じ科の植物とは、とても思えません。
 しかし、小さくて、形が異なっても、基本的にはアヤメと同じ特徴をもっているのです。
 
 ヒオウギで確認したように、花被(かひ)は、外花被3枚、内花被3枚、合計6枚です。
 外花被と内花被の形は、ほとんど同じです。
 花被ののどもとから下は黄色になっています。()はありません。
 3本のおしべを見ることができます。
 
 花を横から見てみると、花冠のつけねより下に子房を見ることができます。
 アヤメ科の特徴の一つです。
 花被の基部には、細かい毛が生えています。
 子房にも生えています。
 同じアヤメ科でも、ヒオウギと異なり花筒(かとう)部があるようです。 
 
 子房は成熟すると果実と呼ばれるようになります。
 外から見ると6すじになっているから、6部屋のように思えるかもしれませんが、中は3部屋になっていて、1部屋に胚珠が2列ずつならんでいるから、このように見えるのです。
 右の写真は、若い果実をむりに割ったので、まだ種子にはなっていないかもしれません。
  このような子房(果実)のつくりを中軸胎座といいます。
 アヤメ科に限らず、ユリ目など単子葉植物の特徴になります。
 
 子房の中の胚珠が成熟すると種子になります。そして、子房は果実と名前が変わります。
 左の写真は、まだ熟していない果実を割ったものですから、とうぜん種子も熟してはいません。
 小さい果実のわりには大きな種子をもっています。
 進化が進んでいる証拠になるでしょう。
 

 写真では、花粉のため柱頭が見えませんが、柱頭には細かい突起がたくさんはえています。
 ヒオウギの花柱(かちゅう)は1本で、先端の柱頭(ちゅうとう)は、浅く3つに割れていましたが、こちらは、花柱が途中から3本に分かれており、その先は柱頭になっています。
 花は葉が変化したものです。めしべも葉が変化したものです。
 そのような葉のことを花葉(かよう)といいます。めしべの場合は、とくに心皮(しんぴ)とよんでいます。
 花柱が3本あるということは、3枚の心皮が合生して1つのめしべをつくっていることを物語っています。
 
 柱頭を拡大してみました。
 たくさんの花粉がついています。
 柱頭からは、花粉がつきやすいように、ねばねばした液が分泌されます。
 また、その液には糖がふくまれており、花粉を目ざまさせることに一役をかっています。
 
  ヒオウギと同じ3本のおしべを持っています。花糸の基部が合成し、ふくらんでめしべの花柱を包んでいます。
 ふくらんでいるから子房とまちがえやすいのですが、アヤメ科は子房下位なので、花冠のつけねより子房が上にあることはありません。
 
 葯の形はヒオウギと異なり、ずんぐりしています。
 花糸のねもとのふくらんでいるところを見ると、カニの目玉みたいな腺毛(せんもう)がたくさん生えています。
 腺毛というのは、害虫のいやがるにおいや毒などの成分を出すところです。ニワゼキショウは何を出しているのでしょう。
 
 ニワゼキショウは、花茎(かけい)の先に2枚の包葉をつけ、その間から数個の花を出します。
 左の写真は、花が終わって果実になったものです。
 本当の葉は、根生葉(こんせいよう)といって地面のあたりから出ています。
 葉の幅は、2〜3mmと細いのですが、アヤメ科ですから、ヒオウギと同じように跨状(こじょう)になっています。  
 

オオニワゼキショウ

 学名 Sisyrinchium graminoides Bickn.  中核単子葉植物 アスパラガス目 アヤメ科 ニワゼキショウ属
  ニワゼキショウとよく似ています。ニワゼキショウにも白花がありますから、花の色だけでは区別できません。
 葉を見ると、イネ科のスズメノヒエなどに似ていますが、こちらはアヤメ科ですから、葉のつきかたは跨状(こじょう)です。
 ニワゼキショウとオオニワゼキショウの株を比べてみると、オオニワゼキショウのほうがかなり大きい。
 しかし、花はオオニワゼキショウのほうが小さい。 
 
 ニワゼキショウの花冠は13〜15mmくらいですが、オオニワゼキショウの花冠は、10mmほどです。
 果実も、それにともなって、ニワゼキショウのほうは、5mmくらい、オオニワゼキショウの方は、3mmくらいです。 
 オオニワゼキショウのほうが花冠が小さいので、中のおしべが写真では大きく見えます。
 花被の形や重なり方なども微妙(びみょう)にちがいます。
 花のつくりは、まったく同じです。
 
 ニワゼキショウとまったく同じ構造をしています。
 子房下位であることもはっきりわかります。
 中央にめしべの花柱が通っていますが、まわりをおしべに囲まれているのでよく見えません。
 おしべの下部が合生してふくらんでいるので、子房と見まちがえるかも知れませんが、これもニワゼキショウと同じように、子房下位ですから、子房が花冠の内側にあることは考えられません。
 

 

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