第17回  アスパラガス目のアンカー、アスパラガス科

 アスパラガス目はラン科やアヤメ科、ツルボラン科などを含む大きな目ですが、その中で最後に分岐したアマリリス科とアスパラガス科を合わせて中核(コア)アスパラ目といいます。 アスパラガス科以下の系統は主なもので古い順にリュウゼツラン亜科、ツルボ亜科、アスパラガス亜科、スズラン亜科などがあります。
              系統図
 

リュウゼツラン亜科 ギボウシ属

スジギボウシ

 学名 Hosta undulata (Otto et Dietr.) Bailey  中核単子葉植物 アスパラガス目 アスパラガス科 ギボウシ属 
 ギボウシはリュウゼツラン亜科にふくまれます・
 江戸時代にすでに栽培され、シーボルトがヨーロッパに持ち込み、さらに品種改良が加えられるようになりました。
 日本でよく見かけるのは、スジギボウシで、白い()の入った葉が美しく、日本の庭によくあいます。
 
 写真は、スジギボウシが開花する直前のものです。
 花被が開くと、ツルボラン科のキスゲのような花が咲きます。
 キスゲの黄色に対してこちらはうすむらさき色です。
 おしべ・めしべの感じはキスゲにそっくりです。
しかし、植物全体の姿からは、キスゲとはまったく似ていません。
 

ツルボ亜科 ツルボ属

 従来は、ユリ科の中の属でしたが、APGではアスパラガス科にツルボ亜科として組み入れられました。
 ツルボ亜科は、今からおよそ3,000万年前、新生代の第三紀に、リュウゼツラン亜科から分かれたようです。
 花のつくりを調べてみると、ツルボ亜科の後から出現するスズラン亜科に近いようです。
 また、アマリリス科のネギ亜科にも似ているような気がします。 

ツルボ

 学名 Scilla scilloides (Lindl.) Druce  中核単子葉植物 アスパラガス目 アスパラガス科 ツルボ属
 土手などに生えている野草です。
 ツルボランという植物がありますが、同じアスパラガス目のツルボラン科ですから、ちがう種類です。
今までのアスパラガス目の植物と異なるところは、花序が総状になることです。
下から上に向かって、つぎつぎと咲いていきます。
 
 花被は、3数性ですから、外花被3枚、内花被3枚、合計6枚で、今までの植物と同じです。
 おしべの数は、6本です。
 子房の位置は上位ですから、ユリ科の特徴とほとんど同じです。
 めしべの花柱は1本で、長くつきでています。
 先端の柱頭は浅く3裂しています。
 ネギ属の花とよく似ています。
 
 ネギ属とのちがいは、花序の形と葉の形にあります。
 アマリリス科に比べると、幅が多少広く、ユリ科に近いといえます。
 茎につく葉はなく、りん茎から出てくる根生葉(こんせいよう)で、1〜2枚つきます。
 

オオアマナ

 学名 Ornithogalum umbellatum L.  中核単子葉植物 アスパラガス目 アスパラガス科 ツルボ亜科 オーニソガラム属
 オオアマナといっても、アマナのなかまではありません。
 アマナは、ユリ目・ユリ科・アマナ属(Tulipa)で、いわゆるチューリップのなかまです。
 それに対して、オオアマナは、アスパラガス目、アスパラガス科、オーニソガラム属(Ornithogalum)になります。
 ずいぶんちがうように見えますが、つくりも見かけもよく似ています。
 だから、オオアマナという名前がついたのでしょう。
 
 外花被3枚、内花被3枚、おしべ6本、花柱1本を観察することができます。
 花冠の内側に子房を見ることができるから、子房の位置は、いちおう上位になりますが、ここには、少し秘密がありますから、あとで追求してみることにしましょう。
 ここまでは、ユリ科の特徴と同じです。
 オオアマナは、ツルボと同じように、ユリ科と表記されていることがあります。
 それでは、アスパラガス科のオオアマナは、ユリ科とどこがちがうのでしょうか。
 
 オオアマナの花のつきかたは、ネギのなかまによく似ています。
 花茎の先端から放射状に花柄が出るようなつきかたを散形花序といいます。
 ユリ目からアスパラガス目に移された理由の一つといえるでしょう。
 見た目にも、ユリよりはネギに近い感じを受けます。
 
 花被の上部は、6枚で何の変わりもないのですが、花被の下部を見ると、花被は、合生していることがわかります。
 しかも、おしべの花糸をはさむようにして、子房の下半分を包みこむように密着しています。
 子房の位置は、いちおう上位ということでしたが、ここに秘密があったのです。
子房の位置は、下位とはいえないけれど、下位部分が少しあるということなのです。
 
 左の写真は、花被をとりのぞいたものです。
 花被と花糸の下部は、子房の下部に密着しているため、はがすことはできませんでした。
 子房が花筒に埋まっているのです。
 ようするに、子房上位から子房下位に移り替わるる途中のものであるということでしょう。
 子房中位とよばれています。
 ここにもユリ科とのちがいがあるようです。
 
 オオアマナのおしべの特徴は、花糸が扁平であることです。
 ヤブカンゾウの花糸が花弁化していることは、「進化13」で述べました。
 オオアマナの花糸も、花弁になりたくて、うずうずしているような感じを受けます。
 
 葯が細長くないので葯と花糸の位置関係がわかりにくいのですが、どうも花糸が葯の中央についている丁字着葯のようです。
 アスパラガス目には、丁字着葯も側着葯もありますから、葯のつきかたは、目の特徴にはなりません。
 つまり、進化の大きな流れには、あまり関係していないということです。
 
 めしべだけをとりだしてみたのが、上の写真のものです。
 子房の大きさに対して花柱が長くつきでていることがわかります。
 
 花柱の先端は柱頭です。
柱頭は、花粉を受けるところです。
 左の写真では、花粉がついていて、柱頭のようすがよくわかりませんが、ずんぐりしているようです。
 拡大してみます。
 
 柱頭の表面に球状のつぶつぶを見ることができます。
これは、花粉ではありません。
 観察したようすでは、中に液体が入っているようです。
 おそらく、花粉から花粉管を誘発する物質や、花粉が付着しやすいように粘りけのある物質がふくまれているのでしょう。
 
 花が終わると、花被は枯れて子房がふくらみ始めます。
 ピーマンのような感じの果実になりますが、ピーマンよりは、ずっと小さいです。
 
 写真でわかるように、3室に分かれています。
子房を輪切りにすると、3室に分かれた中軸胎座を観察することができます。
 
 アマリリス科ネギ亜科とアスパラガス科ツルボ亜科の進化は、平行に進化をつづけてきました。
 どちらも細長いニラのような感じの葉で、同じような進化をしています。
 まるで未来のイネ目を暗示しているようです。
 

 

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