第23回  イネ目  イグサ科

対極の進化 

 アスパラガス目のラン科が昆虫との関係で究極の進化をなしとげました。
 いわゆる、虫媒花として、その道を極めたのです。そして、そのことが花の構造を特殊化し、繁殖をむずかしいものにしました。
 すなわち、特定の昆虫だけしか受粉できないようにしたのです。したがって、受粉できないランも出てくることになります。
 しかし、ランは、それでも非常に美しい花を咲かせます。
いっぽう、ツユクサ目の中でこれと対照的な道を選んだ植物が現れました。
 いったい、どのような道に進んだのでしょうか。

 

イチゴツナギ目の誕生 

 今からおよそ1億1,700万年前のことです。ツユクサ類の中に美しい花を捨ててしまったものが現れました。
 これまでの単子葉植物は、みな虫媒花であり、昆虫とのかかわりをもっていました。
 そして、昆虫を引きつけるためにきれいな花をもち、あまい蜜を出すようになってきたのです。
 ところがツユクサ類の植物の中に、昆虫との関係をやめてしまったものが出てきました。風媒花の誕生です。
 受粉を昆虫に頼らず、風に頼ったのです。
 これらのなかまをイネ目と呼ぶことにしましょう。
 花のようには見えない花がなぜもっとも進化してるといえるのでしょうか。
 さて、進化もかなり進んできました。どのような展開を見せてくれるのでしょう。
 
 イネ目の中で最も古い植物は、今から1億1,700万年前ごろに出現したようです。
 身近にあるものでは、イグサ科がもっとも古く、今からおよそ8,800万年前から10,500万年前に出現したようです。
 このあたりの発生の順序は、APG学者の間でもまちまちで、はっきりしたことはわかりません。
 イグサ科には、イグサ属とスズメノヤリ属があります。
 
 イ
 学名 Juncus effusus L.var.decipiens Buchen.  ツユクサ類 イネ目 イグサ科 イグサ属
 植物の中で一番短い名前が、「イ」です。いいにくいのでイグサと呼ぶこともあります。
 畳表(たたみおもて)の材料になるので、日本人にはおなじみの草ですが、畳は知っていても草までは知らないという人が多いことでしょう。
 
 クサイ
 
 学名 Juncus tenuis Willd.  ツユクサ類 イネ目 イグサ科 イグサ属
 イグサ属でよく見かけるのがクサイです。
 クサイといっても、変なにおいがするわけではありません。
 草のように見えるから草藺(くさい)というのです。
 同じなかまのイは、棒のように見えるから草とはいえません。
 草は、平たくやわらかいものです。
 
 ホソイ
 学名 Juncus setchuensis Buchen.  ツユクサ類 イネ目 イグサ科 イグサ属
 ホソイというイもあります。なにかじょうだんのような名前です。
 イにくらべてツヤがなく、白っぽいみどり色をしています。
 おもしろいのは、フトイという名の植物までがあるのですが、イグサ科ではなく、カヤツリグサ科なのです。
ほかにもイとつくものに、ホタルイやサンカクイ、ハリイ、クログワイなどがありますが、みなカヤツリグサ科です。
 花をくわしく調べてみれば、ちがいがはっきりしますが、ちょっと見ただけではイのように見えるからこんな名前がついたのでしょう。
 
 クサイの葉
 イグサ属の葉は、たいていが下の方で茎にはりついているから、たいへんわかりにくいようです。
 上方の葉に見えるところは、包葉(ほうよう)といい、ふつうの葉とは異なります。
 花茎(かけい)が出ているところまでが茎で、そこから上は包葉になります。
包葉は、たいてい茎から横、あるいは、ななめ上に向かってつきますが、イグサ属の場合は茎の延長線上につくからわかりにくいのです。
 

 背たけはイよりも低く、15〜50cmくらいです。包葉は茎よりも短かく、細い。
 イは、小さい葉が茎にへばりつき、茎ばかりが目立ちましたが、クサイは、葉が目立ち、ふつうの草のように見えるからクサイといいます。
 下の葉は幅が1mmくらいで、茎を抱くようについています。
 上の葉は包葉と呼ばれ、花序のつけねにつく葉のことで、ふつうの葉とはちがいます。
 イグサから進化するカヤツリグサ科にも同じことがいえます。
 そこが、同じイネ目でも、系統の少し異なるイネ科とちがうところなのです。
  
 クサイの葉鞘と葉耳 
 左の2枚の写真は、葉が茎にどのようについているかを表したものです。
 葉の下の方は、葉鞘(ようしょう)(さや)となって茎を()いています。
 クサイ@、はそのまま撮影したものです。葉鞘が茎にぴったりとくっついています。
 葉鞘から葉身になるところに、無色透明な葉耳(ようじ)があります。葉鞘の両側に耳のようについているのでこんな名前がつきました。
 クサイAは、観察しやすいように、茎から葉をむしるようにひっぱたものです。
 葉耳は、オブラートのようなうすい膜状のため、くるくるまるまってしまい、広げて撮影することはできませんでした。
 
 イグサは、カヤツリグサ科に進化する直前、あるいは、直前に近い植物です。
 風媒花ですが、まだ6枚の花被片があります。昆虫を必要としないので、非常に地味です。
 おしべは6本、めしべには3本の赤い花柱(かちゅう)(ふさ)のようについています。
 花柱が房のようになっているのは、風媒花の特徴です。
 花のつくりは、驚くほどユリ科に似ています。というより、中核単子葉植物の特徴である3数性が守られています。
 
 茎の先に集散(しゅうさん)花序をつけます。  分かれる枝の長さは、長短いろいろです。こんなところにもイネ科との相違点が出ています。
 左の写真では、白いところが花です。
 花が終わると、子房がふくらんで淡かっ色で光沢のある卵形のさく果ができます。


 
 イグサ科の花は、果実がふくらんできても花被片は落ちません。
 虫媒花のようにやわらかくないからでしょうか。
 果実は、フットボール形で、みどり色から赤褐色(せきかっしょく)に変わっていきます。
 
 子房が熟すと果実になり、左の写真のように3つに()けます。
 これもイネ科とは異なる点です。
花被片を見ると、最後まで落ちません。このような性質を宿存性(しゅくぞんせい)といいます。
 
 左の写真はホソイの子房を半分に割ったものです。
 種子がたくさんあることに注目して下さい。これもイネ科やカヤツリグサ科との相違点です。
 1つの果実にふくまれる種子の数は、少ない方が進化しているといえます。
 種子が少ない方が1つの種子にいきわたる栄養が多く、たくさんの養分をたくわえた大きな種子ができるからです。
 多量の養分をもった種子のほうが発芽には有利です。
 イグサ科は、このことについては、まだ進化が進んでいません。
 これからカヤツリグサ科に進化していくのです。
 
 コウガイゼキショウ
 学名 Juncus leschenaultii J.Gay  ツユクサ類 イネ目 イグサ科 イグサ属
 イグサ属の中には、ほかのなかまと少々変わったコウガイゼキショウのなかまがあります。
 休耕田などに見られますが、年々減少傾向にあります。
 
 茎が平べったい棒のような感じなので、その形からコウガイゼキショウの名前がつきました。
 (こうがい)とは、むかしの人が、(かみ)を巻いたり(まげ)をつくったりするときに使った平べったい棒状の道具です。カンザシとは異なります。
 コウガイゼキショウもイグサ科のなかまだから、散形花序になります。
 
 花序はほかのイグサに比べると、こんぺいとう形に小さくまとまっています。
 花被片は内外3枚ずつの6枚、おしべ6本、めしべの花柱3本で、果実は熟すとたてに割れて小さな種子をたくさん出し、イグサ科の特徴を備えています。

 


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