第27回  イグサから進化したカヤツリグサ科

 今からおよそ8,800万年前から10,500万年前にイグサ科が出現してすぐに、カヤツリグサが誕生しました。
 APGでは、カヤツリグサ科を88属に分類しています。
 知名度の高いものでは、カヤツリグサ属、テンツキ属、ハタガヤ属、ハリイ属、フトイ属、ホソガタホタルイ属、ミカヅキグサ属、ワタスゲ属、スゲ属などがあります。
 

イグサ科とのちがい 

 カヤツリグサ科は、イグサ科から進化しました。
 それでは、どんな点が変化したのでしょうか。
@ 葉が線形になった。
A 葉は3列にならんでつく。3数性が強くでている。
B 茎の断面が△形である。
C 葉鞘ようしょうは完全な筒状で、切れ目はない。
D 花被かひが退化し、ほとんどのものは消失する。
 カヤツリグサ科の花は、今までの中核単子葉植物の花とはまったく異なります。
 花序は、花が多数集まって米粒大のマツカサのようになっており、小穂しょうすいと呼ばれています。
 花被が見あたりません。ホタルイ属のように、カヤツリグサ科の初期のものは、花被が小穂の内側にあり、針のように細く退化しています。
 

カヤツリグサ科の花 

 
 進化が進むと、花被が退化して、なくなってしまいます。
 小穂の表面に見えるのは、穎と呼ばれる包葉が変化したものです。
 小穂は、たくさんの花が集まっているから、厳密にいうと花序にあたります。
 しかし、イネ科やカヤツリグサ科の場合、小穂の数が非常に多いので、枝に小穂がついている状態、あるいは、枝のつき方までを花序と呼んでいます。
 進化の進んでいない植物は花の数が少なく、1つの花にめしべがたくさんあります。あるいは、1つのめしべに種子がたくさんできるようです。
 進化した植物は、花の数が多く、1つの花にできる種子の数は1個か2個です。
 なぜならば、このほうが、1個の種子に発芽に必要な養分をたくさんもたせることができるから、生き残りやすいからなのです。
 
 フトイ 
 学名 Schoenoplectus tabernaemontani Gmel.  中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 フトイ属
 イグサ科にホソイがありましたが、カヤツリグサ科にはフトイというのがあります。
 イグサのように見えるからなのでしょう。
 茎に注目してみると、さらによくわかります。
 
 茎の断面が円なのです。
 カヤツリグサ科の植物は、ほとんどが三角形の断面をしています。
 だから、カヤツリグサの中では、フトイのように円形の断面は珍しいといえるでしょう。
 根は、地下茎になっています。
 
 サンカクイ 
 学名  Schoenoplectus triqueter L. 中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 フトイ属
 沼などに群生する大型の抽水植物です。
 茎の切り口はカヤツリグサ科の特徴である三角形をしています。
 
 カンガレイ 
 学名 Schoenoplectiella triangulatus Roxb.  中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
カンガレイは、冬になっても()れた茎が残るためこの名がついたといわれています。
カンガレイもサンカクイも、1m以上の高さになり、水辺の植物の中では中型のサイズになります。
 サンカクイは、水中の根が横につながっていて、その所々から茎を出すので、まばらに見えます。
 カンガレイは、地下茎があまりのびないので、1カ所から茎が放射状のようにのびます。
 
 花序のちがい
 よく似ているものどうしでも、ちがいはあります。
 サンカクイとカンガレイの花序に注目してみます。
 サンカクイの茎から出ている花序には長い柄がついています。
 
 それに対して、カンガレイの花序には柄がついていません。
柄がなければ困るということはないので、とくに進化というほどのことではありません。
 
 このまつぼっくりを小さくしたようなもの一つ一つを小穂(しょうすい)といいます。大きさは、たてが1cmちょっとあります。
 小穂は、多くのりん片が松かさのようになっていて、その間からおしべやめしべを出しています。
 このことは、イネ目のパイナップル科のしくみにそっくりです。
 カンガレイは、めしべが枯れたあとにおしべが出るようですから、この写真は花が終わるころのものでしょう。
 白くて太いおしべの(やく)が見えます。
 先端に白い花柱(かちゅう)がかろうじて残っていますが、茶色の糸くずのようなものは、花柱の残骸です。
  
 カヤツリグサ科の花柱は、先がさけて2〜3本の柱頭になっています。
 カンガレイの花柱は、長く3つにさけていますが、よく似た種のサンカクイは2つにさけているので、見分けるときのめやすになります。
 柱頭には細かい毛がたくさん生えていて、花粉をとらえる役割になっています。
 しかし、イネ科のフサのような柱頭ほど進化はしていません。
 
 花序はどこについてる?
 イグサ科がカヤツリグサ科に進化するとき、カヤツリグサ科の初期にあたるフトイ属やホソガタホタルイ属では、りん片葉の形質をそのまま引き継いだようです。
 これらの植物は、葉の途中に花序(かじょ)が出ているように見えます。
 そこで、花序の出ているあたりを観察することにします。
 
 上と左の写真で、花序より上の部分と、花序より下の部分を比較します。
 両方とも葉に見えます。あるいは茎に見えます。
 
 裏から見る
 一般的に、花は茎につくもので、葉につくものではありません。
 したがって、花序の下にあるのは茎のはずです。
 花序がついているうら側を観察してみることにします。
 花序のま後ろのところが、節のようになっていることに気づきます。
 非常に微妙ですが、ここまでが茎で、ここから先が包葉(ほうよう)になるのです。
 
 それでは、茎と包葉のちがいをはっきりさせるために、花序を(さかい)にして上下の部分の切り口を観察してみましょう。
 左の2枚の写真が、その観察結果です。
 茎は切り口が三角ですが、包葉の切り口はかまぼこ形をしています。
 包葉(ほうよう)というのは、ふつうの葉とは異なり、花や花序を包む葉のことをいいます。
 
 茎の断面を比較してみると、サンカクイは、ほぼ正三角形で、カンガレイはするどく、忍者の手裏剣のような形をしています。
 
 ホタルイ 
 学名 Schoenoplectiella juncoides Roxb. var. hotarui Ohwi   ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
 ホソガタホタルイ属はイグサ科から進化したばかりですから、カヤツリグサの中でも最も原始的なものといえます。
 左の写真はホタルイです。遠くから見るとイグサによく似ています。
 だから、カヤツリグサ科であるのにホタルイと名づけられたのでしょう。
 
 イヌホタルイ 
 学名  Schoenoplectiella juncoides Roxb. subsp. juncoides Roxb..  イネ目 カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
 ホソガタホタルイ属には、ホタルイのほかにイヌホタルイ、ヒメホタルイ、カンガレイなどがあります。
 ホタルイによく似たイヌホタルイは、ホタルイとどこが異なるのでしょう。
 
 まず、小穂の形を見ることにしましょう。
 イヌホタルイのほうは狭卵形(きょうらんけい)といって、ほっそりとしています。
 ホタルイのほうはただの卵形で、ふっくらしています。
 ホタルイの柱頭(花柱)が3本であることに対し、イヌホタルイは2本のものが多いことも特徴になります。
 果実の形は、柱頭が2本のものは、レンズ形のそう果になり、3本のものは三稜形(さんりょうけい)になります。
 針状の花被片(かひへん)は、イヌホタルイの場合、そう果より短く、ホタルイの場合は、短いかやや長いかのどちらかです。
 
 ヒメホタルイ 
 学名 Schoenoplectiella lineolatus Fr. et Sav.  中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
 この写真は、遠くから撮影したものなのでわかりにくいですが、根を見ると、細長いほふく根茎になっています。ほふく根茎というのは、横にのびていく地下茎のことです。
 
 ヒメホタルイの最大の特徴は、小穂(しょうすい)を1つしかつけないことです。
 
 テンツキ 
 学名 Fimbristylis dichotoma (L.) Vahl  中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 テンツキ属
 ホソガタホタルイ属とちがいテンツキ属は、花被片が退化してありません。刺針(ししん)状に変化した花被片もありません。
 
 
 ホソガタホタルイ属と異なるところがもう一つあります。
 ホソガタホタルイ属は、包葉(ほうよう)が茎の延長上にあったので、見分けがつきにくかったのですが、テンツキ属は、ふつうの葉のような包葉があります。
 小穂は、長い()の先に1つついています。
 
 小穂は、ホソガタホタルイ属と同じように、りん片がらせん状にならんだものです。
 柱頭(ちゅうとう)は2つに()けています。
 黄褐色(おうかっしょく)格子(こうし)の模様がついたレンズ形の果実ができます。
 
 葉鞘(ようしょう)にかこまれている茎の少し上のところには、白い毛が生えています。
 
 ヒデリコ 
 学名 Fimbristylis miliacea (L.) Vahl 中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 テンツキ属
 テンツキが2本の柱頭であるのに対して、ヒデリコは柱頭が3本あります。
 果実もテンツキのレンズ形に対して、ヒデリコは三稜形(さんりょうけい)で、しかも白色です。
 
 小穂(しょうすい)は、テンツキより短いから丸みを帯びた感じがします。
 
 コツブヌマハリイ 
 学名 Eleocharis parvinux Ohwi  中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 ハリイ属
 ハリイは針のように細い茎をもつことからこのように呼ばれるようになりました。
 ホタルイやハリイのように見た感じがイグサ科と似ているため、○○イと呼ばれるものが少なくありません。
 ハリイ属の葉は、イグサ科と同じように、葉鞘(ようしょう)に退化していますから、ふつうの葉を見つけることができません。
 左の写真では、うしろのほうの長い葉はヒメガマのものです。ハリイは、手前の小さいものです。たしかにイグサのようにみえます。
 

 コツブヌマハリイは、絶滅危惧種に指定されている希少な植物です。
 ハリイのなかまにはクログワイがあり、雑草として作物に害を与えています。
 クログワイの近縁種であるシログワイは、栽培されてオオグログワイの名前で塊茎が中華料理の食材として利用されています。
 イネ科に比べてカヤツリグサのなかまには、人類に利用されるものは少ないようです。
 ハリイの小穂(しょうすい)はテンツキと異なり、枝分かれすることなく、ただ1個だけが頂生(ちょうせい)します。
 小穂だけを見るとテンツキによく似ており、りん片がらせん状についています。
 白いひげのようなものは、めしべの柱頭です。

 


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