第26回  最も身近なカサスゲ

菅笠の材料になったカサスゲ

 カサスゲ 
 学名  Carex dispalata Boott et A. Gray. 中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 スゲ属
 カサスゲは大型のスゲで、単にスゲとも呼ばれ、スゲ属の中でも、もっともポピュラーなものです。
 それは、名前にもなっているカサの材料になったからでしょう。
 菅笠(すげがさ)といえば、現在でもお参りなどに使われています。
 まるいザルのような頭にかぶる(かさ)です。
 「茶()み」という歌に、
   ♪ 夏も近づく八十八夜  野にも山にも若葉が茂る
    あれに見えるは茶摘みじゃないか 茜襷(あかねだすき)(すげ)(かさ)
 というのがあります。
 むかしは、旅にも農作業にも使いました。
 現在では、2000円前後もする高級品です。
 農作業では、もっと安価な麦わら帽子などが使われています。
 
 大型のカサスゲは、雄花(おばな)()も大きく、12cmほどにもなるでしょうか。
 イネ科のススキほどにはなりませんが、とにかく大きいです。
 茎をゆすると花粉が舞います。イネ目の植物は風媒花(ふうばいか)なのです。
 
 ヒメカンスゲとは大きさが異なるだけで、基本的には同じつくりです。
 左の写真は、すでに(やく)(えい)からはみ出していますが、まだ初期の段階です。
 もう少しすると、ブラシのように開いてきます。
 
 小穂(しょうすい)から雄花(おばな)を1つとりだしてみます。
 左の写真が雄花です。
 雄花穎(ゆうかえい)がかぶさっています。
 穎の左側が先端部で、とがっています。
 
 穎をはがしたのが、左の写真です。
 3本の(やく)が出てきました。
 まだ開花前の葯ですから、花粉は出ていません。
 
 葯室(やくしつ)を開いてみます。
 葯室がよじれるように開いています。
 中には花粉がたくさんつまっています。
  
 花粉を顕微鏡で見てみます。
 まるでガラスでできているみたいにきれいです。
 花粉の表面には、しわや突起(とっき)が見られません。
 
 スゲ属の雌花(めばな)小穂(しょうすい)は、雄花(おばな)の小穂より下にあります。
 雄花の小穂に比べて雌花の小穂は、あまり開きません。
 だから、ブラシやモップのような形にはなりません。
 茶色の部分は雌花穎(しかえい)です。
 雌花穎から白い糸状の柱頭がはみ出しています。
 イネ目は風媒花(ふうばいか)ですから、風にのって飛んできた花粉をこの柱頭でとらえるのです。
 
 小穂(しょうすい)から雌花(めばな)を1つとって、観察します。
 雌花穎(しかえい)は、1枚きりです。
 へりと中央に(せき)かっ色の部分があり、それ以外は緑色です。
 柱頭(ちゅうとう)は、3本あります。
 
 雌花穎(しかえい)の緑色の部分を顕微鏡で観察してみます。
 緑色は葉緑体の色ですから、ここでも光合成をしているはずです。
 光合成の材料は、水と二酸化炭素ですから、それらの出入り口である気孔(きこう)があってもおかしくはないでしょう。
 中央の赤かっ色の背をはさんで、両側に気孔がならんでいました。
 雌花穎は葉が変化したものですが、葉ばかりではなく、茎でも緑色の部分は気孔があることが多いのです。
 カサスゲは、雌花穎をつけたまま柱頭(ちゅうとう)をのばしています。
 
 スゲ科の最大の特徴は果胞(かほう)にあることをヒメカンスゲの項でも述べました。
 雌花穎をとりのぞくと、写真のような果胞が現れます。
 この中に子房(しぼう)花柱(かちゅう)が入っているのです。
 
 果胞の柱頭が出てくるところを(くちばし)といいます。
 この嘴の形は、スゲの種類によっていろいろあるので、それが特徴にもなります。
 
 柱頭を顕微鏡で拡大して観察します。
 今まで登場した単子葉植物の中では、もっとも進化しています。
 細かい突起(とっき)がたくさんあり、花粉と()れあう表面積を大きくしています。
 また、花粉をつかまえやすい形になっています。
 
 受精して種子ができるころになっても、雌花穎(しかえい)は落ちません。
 イネ科とはいとこの関係にあるスゲ属ですが、なぜかイネ科ほど人類に役立っていません。
 穀物は、ほとんどがイネ科です。
 ちょっとさびしいですね。

 

 アゼナルコ 
 学名  Carex dimorpholepis Steud. 中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 スゲ属
 円柱状の小穂がたれ下がっているようすを(あぜ)鳴子(なるこ)にたとえた命名だと思われます。
 スゲのなかまは一番上(頂小穂)につく小穂が雄であるのが普通ですが、アゼナルコは雌雄性であることが最大の特徴になります。
 
 田んぼや湿地に生え、密生します。
 
 穂をつけている茎を(かん)または花茎(かけい)といいます。
 スゲ属は、小穂の()が出ているあたりは苞葉(ほうよう)(さや)状になっているのがほとんどですが、アゼナルコは鞘がはっきりしません。
 それとは別に、苞葉の内側に前葉(ぜんよう)というものがあり、これは鞘状になっています。
 前葉があるのはスゲ亜属ということになっていますが、スゲ属の研究は難解なことが多く、今後分子系統(APG)で解明されていくことと思われます。
 
 小穂を拡大してみます。
 扁平(へんぺい)なまるいところを果胞(かほう)といいます。先端から昆虫の触角のようなものが出ているものがあります。これはめしべの柱頭(ちゅうとう)です。
 果胞の中にめしべが入っているのですね。スゲ属の最大の特徴になります。
 果胞に張りついている先のとがった葉のようなものは(えい)またはりん片とよばれるものです。両側に白っぽいひれのようなものがついています。
 
 果胞を取りだしてみます。
 丸く見えますが実際は平べったく(扁平)、中にめしべが入っています。
 右側のとがった部分を(くちばし)といいます。
 嘴から出ているのが花柱(かちゅう)で先が2つに分かれています。分かれている部分を柱頭(ちゅうとう)といいます。
 
 果胞には雌花穎(しかえい)(雌りん片)が張りついています。
 先端が鋭くとがって(のぎ)になっています。その両側には半透明なひれのようなものがついています。
 
 一番上(頂)につく小穂は雌雄(しゆう)小穂(しょうすい)といい雄花(おばな)雌花(めばな)を同じくらいの数をつけます。()に近い方が雄花で先端のほうが雌花です。
 雄花があるほうは雌花のあるほうの半分以下の細さです。
 2番目以降の小穂はほとんど雌花で雌小穂(ししょうすい)といいます。
 
 雌雄小穂の雄花のあるほう(左側)を拡大してみます。
 雄だから当然めしべはありません。したがって果胞もありません。だから雄の小穂部分は細いのですね。
 右側は雌小穂です。
 雌小穂といっても柄に近い部分(上のほう)には少し雄花が見えますね。
 
 さらに拡大してみます。
 白く見える部分は穎(雄だから雄花穎)の両端部で半透明になっています。穎の中央部は緑色で細く、先が長くのびて芒になっています。
 茶色く見えるのはおしべの葯です。
 黄色いヒゲのようなものは葯の落ちた花糸(かし)です。
 おしべは3本あります。
  

 

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