第28回  人類には、あまり貢献(こうけん)できなかったカヤツリグサ

多種類のカヤツリグサ属

 カヤツリグサ 
 学名  Cyperus microiria Steud. 中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
  昭和26~7年ころまでは、アミ戸がなかったか、普及されてなかったため、虫よけに蚊帳(かや)をつることがふつうでした。
 蚊帳というのは、アミでできた四角いテントのようなもので、これを部屋の中につるすのです。
 そうすると、この中に()が入ることができません。
 カヤツリグサは、子どもの遊びに、この草を使って蚊帳をつくることから名づけられたようです。

 
 まず、カヤツリグサの茎を20cmの長さに切りとります。
 茎の断面は三角形ですから、二人で両先端から()いていくと四角い形ができます。
 4本の茎を支柱に立てて四角になったものをのせると蚊帳(かや)のようになる、という遊びです。
 また、カヤツリグサの穂をさかさまに持つと、花序が線香花火のように見えることから、花火遊びとして楽しみました。
 たわいのない遊びですが、むかしの農家や下町(したまち)の子どもたちは、自然の中に遊びを考え出したのでしょう。

 花序(かじょ)のつけねに3枚の長い包葉(ほうよう)がついています。
 花序に対する包葉なので、総包(そうほう)といった方がよいかもしれません。
 
 カヤツリグサには、単子葉植物の特徴である3数性が強く現れています。
 その一つが茎の断面です。写真でわかるように、たしかに三角形です。
 現代のほとんどの子どもたちは、このことを知りません。
 自然は、なぜここまで3数性にこだわったのでしょうか。
 どうも、DNAに関係がありそうです。
 2を基底に進化した真双子葉植物と、3を基底に進化した単子葉植物。あるいは、偶数と奇数。私には、そんな感じがしてなりません。
 
 花序のつけねに注目してみます。
 茎の(いただき)から数本の花茎(かけい)が出ています。
 花茎のつけねは赤く球形にふくらみ、そこを包葉が()くようについています。
 包葉は3枚とは限らないようです。
 3数性でないこともあるようです。
 

 いくつにも枝分かれした花序には、たくさんの小穂(しょうすい)がらせん状についています。
 初期の花は大きく、1つの花にたくさんのめしべがつきました。進化が進むと、めしべの数は減少し、花は小さくなっていきます。
 植物は、光合成をして生きるための養分をつくります。光合成をするには、光をたくさん受けることのできる大きな葉が必要です。
 光合成を始められるうようになるまでは、種子の中に(たくわ)えられた養分で発芽したり成長したりするしかありません。だから、種子に養分をたくさんもたせたほうが合理的なのです。
 それには、1つの子房の中で1つの胚珠を育てることがベストです。そのかわり、花の数をふやすようになります。
 それがカヤツリグサ科やイネ科の姿なのです。
 
 カヤツリグサの小穂(しょうすい)は、(えい)小花(しょうか))が軸の両側に2列にならんでいます。
 
 
 1つの花につく包葉(ほうよう)が変化したと考えられるりん片状の(えい)に花は包まれています。
 カヤツリグサ属の花被(かひ)は退化してなくなってしまいました。
 したがって、小花(しょうか)は1〜3本のおしべと、1個のめしべだけでなりたっています。
 
 めしべの柱頭は3つに()けています。
 左の写真は、柱頭(ちゅうとう)をつけた果実です。
 
 柱頭が3本の果実は、断面の三角形の各辺がへこんでいる形、三稜形(さんりょうけい)になります。
 柱頭には、花粉をとらえやすいように突起(とっき)がたくさんあります。
 
 コゴメガヤツリ 
 学名  Cyperus iria L. 中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
 カヤツリグサより小型ですが、枝の分かれ方は、より複雑になっています。
 果実が熟すと、穂がたれるようになり、イネに似ているところからこのような名前(小米(コゴメ)カヤツリ)がついたのではないかと思われます。
 
 枝分かれが複雑になってきます。
 
 小穂(しょうすい)は、扁平(へんぺい)小花(しょうか)がおよそ10個、2列につきます。
 
 ハマスゲ 
 学名  Cyperus rotundus L. 中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
 カヤツリグサ科にはスゲ属という大きなグループがあります。
 ハマスゲはスゲという名前がついていますが、スゲ属ではありません。
 葉の感じが似ているのでしょう。
 植物には、他の科や属の名前をつけてしまう場合がけっこうあります。
 イグサ科ではないのにホタルイ(カヤツリグサ科)というのもありました。
 左の写真は、ハマスゲの葉です。
 たしかにスゲ属の葉に似ています。
 むかしの人は、正確な分類など、どうでもよいことだったのでしょう。現在でも一般の人にとってはどうでもよいことです。
 しかし、進化を考えると、カヤツリグサ属とスゲ属では、同じカヤツリグサ科であってもかなり異なるところがあります。
 
 APGでは、スゲ属をカヤツリグサの中に入れていますが、他の分類法では、スゲ科として独立させているものもあるほどです。
 下の写真は、ハマスゲの花序をアップしたものです。
小穂が扁平になっているのがよくわかります。
 
 ハマスゲの小穂(しょうすい)は、カヤツリグサ属の特徴どおり、(えい)が2列にならんでいます。
 白い糸のようなものが出ていますが、これはめしべの柱頭(ちゅうとう)です。
 穎の背が、いくぶんみどり色がかっています。大部分は赤色になっています。これがハマスゲらしく見せている特徴にもなります。
 ハマスゲは、地下茎をもっています。その先にはりん片葉(ぺんよう)につつまれた塊茎(かいけい)をつけて繁殖(はんしょく)します。もちろん種子でも繁殖しますが、塊茎があるということは、水分の少ない砂地でも繁殖できるメリットがあります。
 ハマスゲのハマは浜を表します。海岸や砂地に強いという意味でしょう。
 
 イヌクグ 
 学名  Cyperus sumatrensis (Retz.) T.Koyama  ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
 カヤツリグサ科の中にはクグという名前のついているものがいくつかあります。
 クグというのは、水辺に生えているカヤツリグサの一種で、その葉を使ってカゴ(クグツ、クグツコ)のようなものをつくっていたらしい。
 図鑑や事典には、クグはカヤツリグサの古名と出ているものが多いようですが、カヤツリグサ科のどれをさしているかはわかりません。
 カヤツリグサ科の中に、クグガヤツリという名前の種があります。
 クグのようなカヤツリグサという意味ですから、どうも、 クグ = カヤツリ ではないのかもしれません。
 
 カヤツリグサ属の小穂(しょうすい)は2列にならんでいるのが特徴です。しかし、イヌクグは、ちょっとようすが異なります。 円柱形にとりまいている感じです。
 でも、だまされてはいけません。たくさんある1つ1つが小穂なのです。
 小穂といっても花の数が少ないから小穂に見えないのです。小穂の中で結実(けつじつ)する花は、せいぜい1個か2個でしょう。
 
 学者の中には、イヌクグをMariscus 属に入れている方もおられるようです。
 APGでは、この属をカヤツリグサ属に統合しています。
 葉のつきかたは、イネ科の2列に対して、カヤツリグサ科は3列です。
 根は、イネ科もカヤツリグサ科もひげ根です。
 
 ヒメクグ 
 学名 Cyperus brevifolia (Rottb.) Hassk. var. leiolepis (Fr. et Sav.) T.Koyama  カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
 APGでは、ヒメクグ属もカヤツリグサ属に統合しています。
 カヤツリグサの中では小さいほうで、イネ科のスズメノカタビラのような感じがします。
 非常に小型の植物には「コ」とか「スズメ」ということばをつけることがありますが、「(ヒメ)」をつけることもあります。
 ヒメクグは、小さなかわいらしいクグということなのでしょう。
 
 アイダクグ 
 学名 Cyperus brevifolius (Rottb.) Hassk. var. brevifolius  ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
 また、ちょっと見ただけでは見分けられないくらいよく似ているものに、アイダクグがあります。
 これらを見分けるにはルーペが必要です。
 ヒメクグやアイダクグの花序は、小穂が球形に集まっています。
 小穂をつくっている穎の背骨にあたるところを見て、トゲの有無を調べます。
 トゲがあればアイダクグで、なければヒメクグす。
 
 左の写真で、白いヒゲ状のものはめしべの柱頭です。
 2本あります。
 柱頭が3本のものは3稜形の果実ですが、2本のものは、レンズ形の果実をしています。
 黄色の部分は、おしべの葯です。
 
 ヒメクグの地下茎は赤褐色(せきかっしょく)でりん片におおわれており、各節から茎を出します。
 5cmくらいのみじかい葉は、茎の下の方についています。
 花序のつけねには、葉よりはるかに長い包葉がついています。
 単子葉植物の根はひげ根と呼ばれているようにもじゃもじゃしています。
 ヒメクグのように地下茎が発達しているものもあります。
 また、ハマスゲのように塊茎をもつものもあります。
 
 タマガヤツリ 
 学名  Cyperus difformis L. 中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
 ヒメクグをもっと大きくしたようなものにタマガヤツリがあります。
 こちらは、田んぼなどの湿地に見ることができます。
 カヤツリグサのなかまは、かたい茎をもっているのが特徴ですが、タマガヤツリの茎は、なぜかやわらかいので、見つけるときの手がかりになります。
 
 メリケンガヤツリ 
 学名  Cyperus eragrostis Lam. 中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
 タマガヤツリよりけたちがいに大きいのが、このメリケンガヤツリです。
 大きいものになると1mにもなります。
 タマガヤツリと同じように、湿地に見られます。
 大きくて目だつので、田んぼではすぐに抜かれてしまいます。
 だから、用水路などで見かけることが多いかと思います。
 
 他のカヤツリグサと同じように、何枚かの包葉が、羽を広げるようについています。
 その上に球状の穂がいくつかつきます。
 
 花穂を拡大してみます。
 うちわのような扁平の小穂がたくさんついています。
 花は、小穂の軸の両側に2列につくのは、カヤツリグサ属の特徴でもあります。
 
 葉は茎の基部につきます。
 その数は、カヤツリグサ属の中では多いようです。
 
 メリケンガヤツリの小穂は、まるでうちわのようです。
 熱帯植物に、このような花序の花がありますが、これは花とは思えないような花です。
 
紙の材料になったパピルス
 パピルス 
 学名 Cyperus papyrus L.  中核単子葉植物 ツユクサ類 イネ目 カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
 世界的に最も有名なカヤツリグサ科の植物は、何といってもパピルスでしょう。古代エジプトで紙の原料になった植物で、英語のpaper (ペーパー)の語源になりました。 
パピルスということばは社会科で学習しますが、どのような植物か知っている人は少ないと思います。
 日本のカヤツリグサは、草というだけあってせいぜいひざの高さぐらいのものしか思いつきません。
 写真のパピルスは、見上げるような高さです。
 屋根までとどきそうです。
 
 拡大してみると、花序のようすから、パピルスも、やはりカヤツリグサであることがわかります。
 

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