第16回  アマリリス科の単生花

 ゼフィランサス属には、身近なところでタマスダレとサフランモドキがあります。庭や道路脇に植えられることが多いようです。
 

タマスダレ  

 学名 Zephyranthes candida (Lindl.) Herb.   中核単子葉植物 アスパラガス目 アマリリス科 ゼフィランサス属

 タマスダレは、天候をよく見ます。
 日が当たる明るいときは、花冠は全開します。天気が悪い日や日陰のところなどでは、半開きになります。
 夜は、いわれなくても花冠を閉じ、眠ります。
 タマスダレは、早寝早起きなのです。
 単生花序というのは、1本の花茎の頂に1つの花がつく花のつきかたです。
 同じアマリリス科でも、ゼフィランサスは、ヒガンバナ属のように小花の集合ではありません。
 また、葉が出てから花を咲かせます。花だけということはありません。
 ヒガンバナのように、完全に横向きにはなりません。少しだけ横を向きます。
 

サフランモドキ

 学名 Zephyranthes carinata Herb.   中核単子葉植物 アスパラガス目 アマリリス科 ゼフィランサス属
 メキシコ原産の植物で、日本に来たとき、まちがえてサフランとよばれていたので、その後、名前をサフランモドキに変えました。
 モドキというのは似ているけれどにせ物だというときに使うことばです。
 外花被3,内花被3の合計6枚です。おしべも6本です。
 めしべの柱頭も、タマスダレと同じように3つにさけています。
 花は、横向きです。
 
 はなれて見ると、どれが花茎だか葉だかわかりません。
 近くで見ると、花茎も葉も円柱形です。
 同じアスパラガス目のネギ科の葉に似ています。
 アマリリス科の中では、スイセンやヒガンバナは平たい葉ですから、アマリリス科の中にもいろいろあるということです。
 
  めしべの先端を柱頭といい、花粉をつかまえるところです。
 柱頭は、3つに裂けています。ということは、心皮は3だから、やはり3数性です。
 ゼフィランサス属の柱頭は、3つにさけていて、内側だけが受粉します。
 細かい突起がたくさんあり、花粉と接する表面積を大きくしています。
 今までの中では最も進化している柱頭です。
 
 子房の中央に軸があり、そこに胚珠がならんでつきます。
 胚珠がつくところを胎座(たいざ)といいますが、ユリ目やアスパラガス目の胎座は、すべて中軸(ちゅうじく)胎座です。
 アマリリス科の花は種子づくりがヘタです。タマスダレやサフランモドキも、やはり、うまくありません。
 胚珠はあっても種子にならないのです。
 このことは、3倍体といって、遺伝の問題が関係しているのです。
 下の「植物豆知識」を参考にしましょう。
 
 サフランモドキもタマスダレも、子房が花被より下についているから子房の位置は下位です。
 サフランモドキの子房の少し下を見ると、長い包葉が花柄を巻くようについているのが確認できます。
 包葉とは、シュートの最も下の数枚の葉のことです。
 つぼみを包むはたらきがあるから包葉というのです。
 進化が進むと外花被がそのはたらきを受けつぎ、がくと呼ばれるようになり、包葉は消失しがちです。
 アスパラガス目はまだがくはなく、もっぱら包葉が活躍しています。
 
 タマスダレの子房をたてにさいてみました。
 子房の中の胚珠が種子になりかかっています。
 ときどき、このように種子ができることもあるのです。
 
 植物豆知識
 3倍体とは何でしょう?
 ふつう、生物は両親それぞれから遺伝子をもらうから、2つで1セットの遺伝子になります。これが2倍体です。
 自分が親になって花粉や胚珠をつくるとき、1セットの中の2つの遺伝子が分裂して1つずつの遺伝子になります。これを減数分裂といいます。
 3倍体の生物は、1セット中の遺伝子の数が3つ(奇数)なので、半分に分けることができません。
 したがって、胚珠に遺伝子を伝えることができず、種子になれないのです。
 このことを利用して、ひところ、種なしスイカがはやりました。
 スイカは2倍体の植物です。発芽後コルヒチンという薬品を使って4倍体にします。4倍体とは、減数分裂をさせず、通常2倍体の2倍の遺伝子をもつものです。
 4倍体のスイカのめしべに2倍体のスイカの花粉を人工受粉させ、3倍体の種子をつくります。
 翌年、この種子をまいてつくったのがタネなしスイカなのです。これによって種子はできなくなるのですが、非常にてまがかかることから価格が高くなり、あまり流通していないようです。
 高級品になるようですね。代表的な産地は鳥取県です。鳥取には、ふつうのスイカ2つぶんの長さのものもありますよ。
 
 基礎単子葉植物の特徴は、3数性です。
 したがってサフランモドキの柱頭も3数性を示します。
 
 ところが、左の写真のように柱頭が4つにさけているものが見つかりました。
正常な柱頭は、3つにさけています。
柱頭だけが変異したのでしょうか。
 
 4つにさけた柱頭がついためしべの子房を輪切りにして、中のようすを観察しました。子房の中は、4部屋に分かれていました。
 このサフランモドキは、何らかの原因によって4数性になってしまったようです。自然界には、このようなことがときどき起こるのです。また、このようなことが起こるからこそ、進化が成り立つのです。
 原因はいろいろ考えられます。SF作家で有名なアシモフは、地球がもっている放射性元素の影響があるのではないかといっています。
 太陽から来る紫外線などの放射も影響を及ぼすのかもしれません。
 DNAが減数分裂をするときにおこるコピーミスかもしれません。
 
 タマスダレの柱頭です。
 サフランモドキほどではありませんが、それでも3つにさけています。
  やはり、3数性を示しているのです。
 柱頭の表面は細かい突起でおおわれています。
 
 柱頭を拡大して観察してみると、サフランモドキの柱頭には、タマスダレと同じように細かい突起がたくさん着いています。
 ここから出てくる分泌液が花粉をつかまえるのに大きなはたらきをします。
 
 この分泌液には、花粉の発芽をうながす糖などの物質がふくまれています。
 糖にふれると、花粉は眠りからさめて、やがて花粉管がのびてきます。
 そして、子房の中の胚珠をめざし、めしべの花柱の中に入りこみます。
 花粉管は、花粉の中の精細胞が通る専用通路になるのです。
 
 おしべの数は、3数性ですから3の倍数の6本がふつうです。
 タマスダレは、ぼってりとした葯をつけていますが、サフランモドキは、細長く、両端がちぢれています。
 葯の中央に葯室のさかいめのすじが見えます。
 2つの葯室が平行にならんでいるということです。
 
 葯の(うら)を観察してみます。
 黄色の部分が葯室のふちです。
 中央の白い部分は、2つの葯室のさかいめになる葯隔です。
 花糸は、葯隔の中央についています。
 ちょうど(てい)字形についていますから、このような葯を丁字着葯と呼んでいます。
 これは、ユリ科ユリ属と同じです。風で葯がゆれることも同じです。
 
 花粉は、葯室の内側の細胞がはがれてできます。
 
 受粉すると、花粉から花粉管をのばして、めしべの花柱に入りこみます。
 
 植物豆知識
 花粉の中には、1つのオスの核が入っています。
 受粉すると、柱頭から出された糖のはたらきで、花粉は1回細胞分裂をして花粉管細胞をつくります。そして、花粉の溝から花粉管をのばして花柱に入りこみます。自家製トンネルをつくるということですね。
 花粉でつくられた精細胞は、花粉管の中を通っていく間に2個の精細胞に分裂します。まるで微生物のようです。
 分裂したそれぞれの核がもう1度分裂して、2つの核から2つの精細胞に成長します。
 精細胞は、精子のように鞭毛(べんもう)をもっていませんから泳ぐことはできません。
花粉管の中に満たされている液の中を流れていくのです。
 卵細胞がある部屋を胚珠といいますが、精細胞がそこにたどりつくと、1つは卵細胞と受精し、受精した卵細胞は細胞分裂をくりかえし、新しい生命をもった胚になるのです。
 もう1つの精細胞は、2つの極核と受精します。これも細胞分裂をくりかえし、栄養分をたくわえ、胚乳になります。胚乳は、発芽するときのエネルギー源です。
 このように2つの受精がおこなわれるので、これを重複受精と呼んでいます。
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