第5回 単子葉植物の確立

 モクレン類の被子植物と同じころ、出現したショウブ目やヘラオモダカ目など、初期の単子葉植物(basal monocots)は、あとから出現する単子葉植物の特徴をすべて備えているわけではありませんでした。
 花被やおしべの数が、はっきりとは決まっていなかったのです。
 やがて、ヘラオモダカ目から3数性の特徴を備えた植物が出現することになります。
 3数性とは、花被片、おしべ、心皮の数が3または、3の倍数になることです。
 進化が進むと、花被片やおしべ、めしべの数が少なくなり、しかも、その数が3とか4、あるいは5と、はっきり決まってくるようです。
 主なものに、ヤマノイモ目、タコノキ目、アスパラガス目、ユリ目などがあります。
 これらは、もはや basal monocots とはいえません。
 これらのなかまを、core monocots (中核単子葉植物)ということにします。

   

 f.06 中核単子葉植物 basal monocots

ヤマノイモ 

 学名 Dioscorea japonica Thunb.   中核単子葉植物 ヤマノイモ目 ヤマノイモ科 ヤマノイモ属
 ヤマノイモ目の祖先は、今から、およそ1億2000万年前の白亜紀にヘラオモダカ目から分かれました。この目には、ヒナノシャクジョウ科やヤマノイモ科、タシロイモ科などがあります。
 
 最初のヤマノイモ属は、今から、およそ6000万年前に出現した中核単子葉植物です。
 現在見られるヤマノイモ属は、さらに進化しているはずですが、基本的には同じだろうと思われます。

 オニドコロ

 学名 Dioscorea tokoro Mak.   中核単子葉植物 ヤマノイモ目 ヤマノイモ科 ヤマノイモ属
 オニドコロもヤマノイモ属のなかまです。
 ヤマノイモとは非常に近い関係にありますから、ヤマノイモとオニドコロを調べることによって、3数性について追求していくことにしましょう。
 ヤマノイモもオニドコロも、雌雄異株(しゆういしゅ)です。
 左の写真のオニドコロは雄株で、花序は上にのびます。ヤマノイモも上の写真でわかるように直立しています。
 これに対して、雌株の花序は、下にたれ下がります。

 

 葉脈

 上の2枚の写真を見比べてみると、どちらもハート形です。
  しかし、葉脈を見ると、そのちがいは一目瞭然です。
 オニドコロは、単子葉植物です。葉脈が、葉柄のところの1点から出て、葉の先の1点に集まっています。このような葉脈を平行脈といいます。
 これに対して、ドクダミはモクレン類ですが、広い意味では双子葉植物といえます。
 葉脈を見ると、何回も枝分かれをしています。このような葉を網の目のような葉脈だから網状脈(もうじょうみゃく)と呼んでいます。
 
 しかし、本当にそうなのでしょうか。
 上の2枚の写真は、単子葉植物のヤマノイモの葉と双子葉植物のドクダミの葉の一部を拡大したものです。
  ヤマノイモの太い平行脈どうしの間には、細い葉脈が網の目のようにあります。
 単子葉植物であるヤマノイモの葉脈も、双子葉植物である
ドクダミの葉脈も、どちらも網の目のようになっています。
 しかし、目につくような葉脈のちがいは、はっきりしています。
 原始的被子植物から進化した双子葉植物の中には、太い葉脈が3本、5本、7本と平行脈のように通っているものもありますから、見分けるのがむずかしい場合もあります。 
 

3数性 

 原始的被子植物であるスイレンの花被は多数ありましたが、その並び方は不規則です。進化が進むと規則性がはっきりしてきます。
 その後に出現したドクダミには花被がありませんでした。退化してしまったのです。
 そして、ドクダミより2500万年前に出現した原始的単子葉植物であるミズバショウは、4枚の花被と4本のおしべでした。
 単子葉植物が出現しても、初期のころは花被やおしべの数が、3や3の倍数(3数性)に限らないものがあったのです。
 ところが、ヤマノイモ目のころから、はっきりと3数性の特徴が現れてきました。
 
 オニドコロは花茎(かけい)にまばらに花がつきます。
 1カ所から数個の花がついています。 
 ヤマノイモの葉のつきかたは対生ですが、オニドコロの葉のつきかたは互生です。
 

オニドコロやヤマノイモの3数性

 オニドコロの花被は、6枚あります。
 さらによく観察すると、外側に3枚、内側に3枚、合計6枚であることがわかります。
 外側を外花被、内側を内花被と呼んでいます。
 たしかに3数性ですね。
 おしべは6本あります。3の倍数ですから、これも3数性です。細かく見ると、内側に3本、外側に3本になります。
 雌花のめしべは、観察してみると、1個の子房に3本の花柱が出ています。
 子房が1個というのは、進化している証拠になります。
 花柱が3本というのは、どうも3数性に関係がありそうです。
 
 花が咲き終わると果実ができます。子房がふくらんで果実になるのだから、果実を観察してみると、何かわかるかもしれません。
 写真は、ヤマノイモの果実です。3枚のプロペラみたいな形は、3数性に結びつきそうです。
 ヤマノイモの子房は、形から見ると、3個のめしべの子房が単純につながったと考えられます。
 めしべは、シュート花葉が変化したものであり、このめしべの花葉を心皮(しんぴ)と呼んでいます。
 したがって、ヤマノイモのなかまは、心皮3で、やはり3数性になります。

むかご

 ヤマノイモは、種子以外にも繁殖する方法を生み出しました。
 葉柄の脇につくむかご(球芽)と呼ばれるもので、ちょうど、豆粒大のイモ状のものです。
 これが地面に落ちると、そこから芽を出します。
 むかごは、中核単子葉植物の中でも、さらに進化したユリ目のオニユリにも見られますが、むかごをもつものはごくわずかです。
 したがって、むかごは、進化の大きな流れには関係ありません。

葉の付き方 互生・対生

 ヤマノイモもオニドコロも、茎がツルになっています。
 ヤマノイモのなかまは、オニドコロなど、ほとんどが、互生の葉をつけます。
 ところがヤマノイモは対生なのです。でも、ときどき、ちゃっかりと互生になっているときがあるそうです。
 進化の観点から互生と対生を論じることは、今まであまり活発に行われていなかったようです。
 対生に比べて互生が圧倒的の多いということは確実なので、エングラーなど、互生から対生に進化していると考えた学者は多いようです。
 
 しかし、双子葉植物の子葉が対生であることや、オオイヌノフグリなど、根元付近では対生なのに茎の先端に近づくにつれて互生になることを考えると、どうも、対生から互生に進化しているようにうかがわれます。
 日本では、故前川文夫東大名誉教授は、早くからこの考え方を取り入れていました。
 互生の葉のつきかたの規則性に目をうばわれ、本質を見失っているのではないかと考え、独自の学説を打ち出したのです。
 いまのところ、この学説が強力のようです。
 輪生 → 対生 → 互生 の順に進化が行われたようですね。
 
タコノキ

 学名 Pandanus boninensis Warb.   中核単子葉植物 タコノキ目 タコノキ科 タコノキ属
 今からおよそ9,800万年前、ヤマノイモ目から風変わりな植物が生まれました。
ヤマノイモ目は、つる性のものが目立ちましたが、タコノキ目は、剣状の鋭い葉をもっています。
 そして、地上の茎に根をつけます。
 この地上に出ている根を気根と呼んでいます。
 根のはたらきは、一般的にいうと、
 @からだをささえる。
 A土中から水を吸収する。
 B土中から酸素を取り入れる。(呼吸)の3つがあります。
 
 
 タコノキの気根のはたらきは、
 @からだをささえる。支柱根
 A呼吸する。呼吸根 の2つです。
 この根のようすがタコの足のように見えるのでタコノキという名前にしたのでしょう。
 ヒルギ科に、これも気根で有名なマングローブがありますが、真双子葉植物なので単子葉植物のタコノキとは関係がありません。
また、真双子葉植物のユキノシタ科にタコノアシという植物があります。
 これは、花序がタコの足に似ているためについた名前であり、気根ではありません。
タコノキ目には、パナマソウ科、タコノキ科、ビャクブ科、ホンゴウソウ科、ウェロジア科の5つがあります。
 タコノキは、小笠原諸島(東京都)固有のものです。
 学名になっているPandanus boninensisboninensisは、無人島をブニンと読んだことから小笠原諸島を英語でBoninというようになり、「ボニンの」をラテン語にしたもののようです。
 

 


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