第19回  アスパラガス亜科とならぶスズラン亜科

 
 スズラン亜科は、アスパラガス亜科から4,800万年前に分かれたようです。
 アスパラガス亜科は、花被片の基部が合生していました。
 それに対して、スズラン亜科は、花被片の上部まで合生しています。
子房は上位で3室の中軸胎座です。
 アスパラガス目は、りん茎が多いのですが、スズラン亜科は根茎が発達しています。
スズラン亜科には、主に以下の属があります。
 トックリラン属、オモト属、キチジョウジソウ属、
ヤブラン属、スズラン属、ジャノヒゲ属、ナギイカダ属、
アマドコロ属、マイヅルソウ属、ドラセナ属
 

ジャノヒゲ

 学名 Ophiopogon japonicus (L.fil.) Ker Gawl.  中核単子葉植物  アスパラガス科 スズラン亜科 ジャノヒゲ属
 花壇のふちどりや道路わきなどに植えられることが多い植物です。

 
 
 花は目だちませんが、青い種子をつけることは、よく知られています。
 果実でないことに注目してください。
 ジャノヒゲやヤブランのなかまは、子房がうすく、胚珠が外に出て成長するので、青い実は、果実ではなく種子なのです。
 

ナルコユリ

 学名 Polygonatum falcatum A.Gray  中核単子葉植物 アスパラガス目 アスパラガス科 スズラン亜科 アマドコロ属

 写真は、小石川植物園のもので、アマドコロと明記されていましたが真偽のほどはいかがなものでしょうか。
 同じアスパラガス科でもジャノヒゲとは似ても似つかない形の葉をしています。ユリの葉そっくりですから、ナルコユリという名がついたのでしょう。
 ナルコというのは、田んぼでスズメよけの鳴子に花のようすが似ているためです。
 ナルコユリには花柄から花の基部にあたるところにふくらみがあります。
 これは、花筒の基部がせまく変形したところであり、ナルコユリだけにある形質です。
 
アマドコロ
  
 学名 Polygonatum odoratum (Mill.) Druce var. pluriflorum (Miq.) Ohwi.  スズラン亜科 アマドコロ属
 アマドコロとナルコユリの見かけは、ほとんど同じですが、アマドコロは、おしべの葯の長さが花糸より長く、ナルコユリは短いことが多少のちがいになっています。
 外見からわかることは、茎に稜(たてスジ)の入っているのがアマドコロです。
 写真のものは、ナルコユリという名前で販売されている斑のはいった園芸種ですが、どうもアマドコロではないかと思います。
 
4数性のマイヅルソウ
 
 原始的単子葉植物(ミズバショウなど)には、3数性でないものもありましたが、中核単子葉植物は、3数性が確立した植物です。
 ところが、マイヅルソウの花は4数性なのです。
 花被片4枚、おしべ4本、めしべの柱頭は2つに裂けています。
 これは、どのように考えたらよいのでしょうか。初期の単子葉植物のようにまだ3数性が確立されてない名残(なごり)なのでしょうか。
 花のしくみを見ると、初期の単子葉植物よりは明らかに進化しています。とすると、3数性の6から2が退化したと考えることができます。
 アヤメ科のおしべが、6本から3本失って3本になったということに似ています。
 子房の位置は、花冠の中からはっきり見えるので上位です。

マイヅルソウ

 学名 Maianthemum dilatatum (Wood) Nels. et Macbr.  アスパラガス科 スズラン亜科 マイヅルソウ属
 森林に見られる植物です。
 スズラン科の花は、下を向くものが多いのですが、これは横を向いています。その点では前回のツルボに似ています。
 ハート形の葉を2〜3枚つけます。
 この葉をツルの翼にたとえ、マイヅルソウという名をつけたようですが、とてもそんなふうには見えません。
 それより、マイヅルソウには大きな秘密があります。
 
 葉の形や色は、マイヅルソウに限らず、環境のちがいや若さによっても、多少異なって見えます。
 上の写真は、静岡市井川の富士見峠のもので、左のものは、井川の大日峠のものです。
 こちらは、色がうすく葉の幅が広いようです。
 
 白い小さな花がいくつか集まり、みじかい()をつくります。
 平行脈の葉ですから、単子葉植物なのですが、マイヅルソウには非常に変わったところがあります。
 
 1つの花を拡大してみます。
 子房(しぼう)花冠(かかん)の上に見えますから、子房の位置は上位です。
 変わっているところとは何なのでしょうか。
 つぎの写真のほうがわかりやすいでしょう。
 
 単子葉植物共通の特徴は3数性です。
 花被(かひ)の数やおしべの数が3、または、3の倍数になるのがふつうなのです。
 左の写真を見ると、花被数もおしべの数も、ともに4です。
 めしべの先の柱頭は、2です。
 このような例はめったにあるものではありません。
 
 おしべは、花被(かひ)の基部の内側につきます。
 白くのびているのは花糸(かし)といわれるもので、先端部(せんたんぶ)をとくに葯隔(やくかく)と呼んでいます。
 葯隔の上には2つの葯室がならんでつきます。どちらかというと、背中合わせになるような感じです。
 
 葯の裏側を観察してみます。
 葯隔の中央に花糸がついています。
 横から見ると(てい)の字形になるから、このようなつき方の葯を丁字着葯といいます。
 
 花糸(かし)をよく見ると、少しねじれていることが確認できます。
 葯室(やくしつ)()け、中の花粉が見えます。向こう側の葯室も同じように裂けているはずです。
 葯は2つの葯室でできているのです。
 
 葯室を拡大してみます。
 フットボール形の花粉が見えます。
 花粉はオスの精細胞(雄原(ゆうげん)細胞)を包んでいます。
 
 花被(かひ)が反り返るのでめしべがよく見えます。
 ほぼ球形の子房から2本の花柱(かちゅう)が出ています。
 ふつう単子葉植物の場合、花柱または柱頭(ちゅうとう)は3ですから、これも変わったところです。
 
 めしべを取りだしてみました。
 2個のめしべが合わさったように見えますが、1個の子房から2本の花柱が出ているのです。
 花は葉が進化したものです。めしべも葉が進化してできました。花に進化する葉を花葉(かよう)といいます。めしべの花葉をとくに心皮(しんぴ)と呼んでいます。
 マイヅルソウの心皮は4です。
 
 花柱の先端(せんたん)柱頭(ちゅうとう)といいます。
 花粉をつかまえるところです。
 より確実に花粉をつかまえるために柱頭は進化をつづけてきました。
 マイヅルソウの柱頭を観察した限りでは、大きな進化はなされていません。
 
 
 葉のつきかたは、たがいちがいについているから互生(ごせい)になります。
 
 ハート形の葉です。サトイモ科によく見られる形です。
 葉脈が(あみ)の目状になっていません。
 葉脈が、葉柄(ようへい)のところの1点から出て、葉の先の1点に集まっています。このような葉脈を平行脈といって、単子葉植物の特徴になります。
 平行脈といっても、顕微鏡で観察すると、脈どうしの間には、連結脈といって細い葉脈があみだくじのようにつながっています。
 葉の幅の広い単子葉植物にはときどき見られる特徴です。
 


 

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