第21回 ミクリ科 ガマ科

花の数が多い頭状花序風

 ミクリ属を含むガマ科は、イグサ科の系統から少しはずれ、たいへんユニークな進化をしました。 今からおよそ8,900万年前のことです。
 
 f.12 イネ目 poales
 
ガマ科 ミクリ属  
 ミクリ
 学名  Sparganium erectum L.  中核単子葉植物  ツユクサ類 イネ目 ガマ科 ミクリ属

 真双子葉植物の中で究極に進化した虫媒花(ちゅうばいか)のキク科でも、小さい花が多数集まって1つのかたまりをつくっています。ミクリもかたまりをつくっています。
 原始的被子植物から進化した単子葉植物も真双子葉植物も、進化の最終段階には小さい花が多数集まって1つのかたまり、または、穂になるということがいえます。
 進化の大勢は合理性のある方向へ進むということになるのでしょう。
 雌花(めばな)がこんぺいとう形のかたまり(花序(かじょ))になるので、すぐにわかります。クリのイガのように見えることから、実栗という名前になったようです。
 初期の被子植物は、おしべやめしべがたくさんありました。それでも1つの花でした。
 進化が進むと、めしべが1本になってきます。
 さらに進化が進むと、小さい花が集まって1つのかたまりをつくります。
 そのほうが受粉する確率が高くなるからです。
 このことは、風媒花(ふうばいか)になっても変わりません。
 
 雄花は花茎(かけい)の先のほうにつき、雌花は花茎の基部につきます。
 雌花の白い毛のように見えるものはめしべの柱頭(ちゅうとう)で、花が咲き終わった後にも残ります。 6月上旬の撮影です。
 ミクリは、浅い水底からまっすぐにのび、からだのほとんどは水面上になります。
 このような植物を抽水(ちゅうすい)植物と呼んでいます。
 大きいもので1mくらいになりましょうか。
 水底のドロの中に地下茎が横にのび、先端に芽をつけます。
 
 開花すると左の写真のようになります。
りん片状の花被片(かひへん)(やく)の下方に3〜4個あります。
 もともとは6個あった花被片は、少ない方向へ進化(退化)してきます。
おしべは3個で、半分が退化しました。退化も進化の現れといえるでしょう。
 
 ミクリの雄花(おばな)
 ミクリの雄花は、雌花(めばな)が咲いたあとに咲きます。
 左の写真は、開花前の雄花です。
 
 
 ミクリの雌花(めばな)
 小さい花が集まって1つの花にかたまっています。このような花を頭花(頭状花)と呼んでいます。
 花が終わっても柱頭(ちゅうとう)はついたままです。
 原始的な花は、1つの花にたくさんの種子をつくりますが、進化した花は、1つの花に1つの種子をつくります。
 そのかわり、たくさんの花を咲かせ、種子の数を多くしています。
 ミクリは進化した植物なのです。

ガマ科 ガマ属
 
 ミクリ科の出現と時を同じくして、もう1つのイネ目・ガマ科が誕生しました。今からおよそ8,900万年ほど前の白亜紀(はくあき)の中期を過ぎたころのことです。
 ミクリがこんぺいとう形にまとまったのに対して、ガマ科は穂状にまとまりました。
 
 ガマという名前は、朝鮮の言葉の「カム」(材料という意味)からきているようです。
 むかしの人は、ガマの葉でいろいろなものをあんだのでしょうか。
花粉が止血剤(しけつざい)に使われた時代もあるそうで、因幡(いなば)の白ウサギの話は有名です。
 昭和の戦前までは、これらの大型植物は、すだれやよしず、あるいは屋根など、いろいろなものに利用されてきましたが、現在では需要(じゅよう)がまったくありません。
 ガマは湿地に生きる植物ですが、今では湿地や沼はめずらしい存在です。しかし、そのままほうっておくと、ガマやヨシなどの大型植物におおわれてしまい、小型の植物は日陰にされてしまいます。
 ヒメガマは大型で強いので、絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)のミズアオイやタコノアシなどにとっては、おそろしい存在です。
 ガマの見分け方はかんたんです。雌花の穂を見れば、一目でわかります。
 ソーセージのような形と色は、見まちがうはずがありません。
 
 コガマ
 学名 Typha orientalis K.Presl  中核単子葉植物  ツユクサ類 イネ目 ガマ科 ガマ属
 ガマ科には、ガマと、少し小振りなコガマと、すら〜っとしたヒメガマの3種類があります。
 
 ヒメガマ
 学名 Typha angustata Bory et Chaub.  中核単子葉植物  ツユクサ類 イネ目 ガマ科 ガマ属
 静岡市遊水地に生息するガマは、ほとんどがヒメガマです。
 繁殖力が強く絶滅危惧種のミズアオイなどをたちまち駆逐(くちく)してしまいます。
  
コガマとヒメガマの比較
 コガマとヒメガマを比較してみます。
 ソーセージみたいな穂が雌花の集まりで、その上の細い穂が雄花の集まりです。
 ヒメガマには、雄花の穂と雌花の穂の間にすき間がありますが、コガマにはありません。
 
以下ヒメガマ
 ここからはヒメガマについて観察していきます。
 表面をアップしてみます。
 まるで、じゅうたんの毛のような感じです。
 いったい、これは何なのでしょうか。
 
 左側の写真は、雌花の穂を輪切りにしたものです。
 まん中に花茎(かけい)があります。
 そこから長い毛のようなものがはえています。
 毛の先は赤くなっています。
 だから赤い穂に見えるのです。
 右側の写真は、雌花の穂をたてに割ったものです。
 花茎から毛がはえているようすは、輪切りにしたものと同じです。
 それでは、この毛をむしって観察することにします。
 
 左の写真は、雌花の穂の毛をむしったもののアップです。
 じつは、これはめしべが集まったものなのです。
 ガマの雌花は、花被がなく、めしべだけでできている花なのです。裸花(らか)といいます
 めしべにはみじかい柄があり、そこから長い毛が生えています。 熟した種子は、この長い毛で風にのって運ばれます。
 
 左の写真は、雌花(めしべ)を1本ぬいたものです。
 左のはじにある赤いところは柱頭(ちゅうとう)です。
 
 柱頭をアップしてみます。
 ちょっとふくらんで赤くなっています。
 見たところ、おせじにも発達しているとはいえません。
 
 左の写真は、花柱の部分です。
 とりわけて特徴といえるものはありません。
 
 雌花のつけねの部分です。
 みじかい()があります。
 その上のふくらんだところが子房(しぼう)です。
 心皮(しんぴ)は1です。
 ()からは細い毛がはえています。
 
 ヒメガマの雄花
雄花の穂をアップしてみます。
 黄色い部分は葯です。ずいぶんたくさんあります。雌花と同じように、雄花にも花被がありません。
 (やく)の先っぽが、少し黒っぽくなっています。
 雄花の穂も雌花の穂も、はじめはつまってかたくなっていますが、(じゅく)してくると写真のように広がってきます。
 
 おしべを1本ぬいてみました。
 おしべの全体像です。
 左のひものようなものが花糸(かし)で、ねじれているのが、(やく)です。
 葯がたてにさけて花粉を放出します。
 写真では大きく見えますが、ホントは糸よりも細いので、花粉は粉のように感じます。
 
 左の写真は、葯の頭の部分です。
 黒っぽく見えたのは、ここだったのです。
 中には、まだ花粉が少し残っています。
 
 ヒメガマの花粉です。
 ランやガガイモは、花粉がかたまっていて花粉塊(かふんかい)とよばれていますが、ヒメガマの場合はどうなのでしょう。
 左の写真は固まった状態で、右の写真はバラバラになったときの状態です。
 ヒメガマやコガマは、花粉がバラバラになりますが、ガマは4個の花粉がくっついていますから、見分けるときのめやすになります。
 
  ミクリの葉のつきかたは互生(ごせい)であり、基部は葉鞘(ようしょう)になっています。
 アスパラガス目のツユクサ科に、すでにうすい(まく)状の葉鞘が現れましたが、イネ目では、しっかりとした葉鞘に発達しています。
 ガマ科には、ミクリ属だけにしかありません。
 ミクリ属には20種ほどのなかまがありますが、北半球の温帯から亜寒帯の湿地に生息しています。
 特に日本に多くあるようです。
 
 ヒメガマは大型の草です。
 ススキの葉のようにザラザラしていません。
 だから、さわってもだいじょうぶです。
 といっても、たいていは川や沼の中に生えていますから、なかなかさわることはできません。
 イネ科の葉のようにうすくはありません。厚みがあります。
 葉のねもとは茎を()いて筒状(つつじょう)になっています。
 その中には、粘液腺(ねんえきせん)があります。
 
 左の写真は、茎を輪切りにしたものです。
 かたいので、ななめに切りました。
 中央に(しん)があり、そのまわりには管のとおった層が二重三重になっています。
 
 こんな穂がありました。
 雌花の穂が2つあり、その間は開いていますが、ヒメガマの特徴である雄花の穂と雌花の穂の間は開いていません。
 でも、ヒメガマなのです。
 同じ植物だから、すべて同じというわけではありません。
 そこが自然のおもしろいところでしょう。

 

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