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第30回  イチゴツナギ亜科

おしべが6本から3本に退化

 
 イネ科は非常に大きい集団となる科 (family) なので、APGでは12の亜科(Subfamily) に分けています。
 その中で日本になじみのある亜科は7亜科です。
 なかでもイチゴツナギ亜科は小麦大麦などの食料や牧草、西洋芝(ナガハグサ)など、人類に貢献するものが多いグループです。
 
 f.14 イネ科 poaceae
 
 
 f.15 イチゴツナギ亜科 pooideae
 
コメガヤ連  Meliceae  
 イチゴツナギ亜科の中ではコメガヤ連がもっとも古く、有名なドジョウツナギ属があり、そのほかには、コメガヤ属、フォーリーガヤ属などがあります。
 この連の葉鞘は切れ目のない完全な円筒形で、紙を巻いたような筒型ではありません。このような葉鞘をもつものは、ほかにスズメノチャヒキ連などで多くはありません。
 小穂は、3〜7個の小花からなり、長短2枚の包葉で支えられています。
 円すい花序は、まばらで、一見総状花序風に見えるものがあります。
 コメガヤ連は、染色体 2n=40 のものが多く、18のものもあります。
 

ドジョウツナギ属  Glyceria

 コメガヤ属が草原に生えるのに対して、ドジョウツナギ属は、亜高山のものをのぞくと、湿地帯に生えます。  ドジョウツナギという名前は、つかまえたドジョウをこの草の(かん)にさして持ち帰ったことによります。

 

 ムツオレグサ 
 学名  Glyceria acutiflora Torr. subsp. japonica (Steud.) Koyama et Kawano   コメガヤ連 ドジョウツナギ属
 ムツオレグサは、ドジョウツナギ属の中では、変わり者です。
 何よりも変わっているのは、手に取ってみると、小穂(しょうすい)の中の小花(しょうか)がぱらぱらと落ちることです。
 このことが六折草という名前のいわれになりました。
 
 小穂が花軸にぴったりとはりついて、総状花序のように見えますが、葉鞘(ようしょう)の中で枝分かれしていますから円すい花序になります。
 
 小穂(しょうすい)は非常に細長く、総状花序のようにさえ見えます。
 8〜15個の小花(しょうか)をもっています。
 第2包穎(ほうえい)は、第1包穎の2倍以上の長さです。
 
 最も意外なのは、護穎(ごえい)より内穎のほうが大きいということです。
 一見、小花が2個あるように思えますが、短いほうが護穎で、長いほうは内穎なのです。
 この2つの穎の間におしべやめしべが包まれています。
 
 小花を内穎側から見てみます。
 内穎が護穎の内側になる部分は膜状で、中にある子房やおしべが透けて見えます。
 護穎より外側にはみ出している部分はひれ状になっています。
 内穎の先端は2つにさけて、護穎の外に出ています。このような例はあまり見られません
 上の写真で子房と書かれているところの手前には、つぎの小花の中軸(または小軸)が収まります。
 
 中軸と中軸の間には関節があって、果実ができるころには、ここが切れて脱落します。
 このようにして、果実がばらまかれ、水に流されて広がっていくのでしょう。
 
 護穎と内穎を取りのぞいてみます。
 その姿も、他のイチゴツナギ科植物とはだいぶ異なります。
 強いていえば、スズメノチャヒキ連のイヌムギに多少似ています。ただし、ムツオレグサのほうが閉鎖花のイヌムギより(やく)がかなり大きい。
 

スズメノチャヒキ連  Bromeae

 イヌムギ
 学名 Bromus unioloides H.B.K.   イチゴツナギ亜科 スズメノチャヒキ連 スズメノチャヒキ属
 麦に似ていて食用にはならないから、犬麦と名づけられたようです。
 植物名のつけかたでは、犬は役に立たない代名詞として使われるようです。
 犬にとっては迷惑な話です。 
  
 花序は、初め、左の写真のように葉の内側に棒状におさまっています。
 成長するにしたがって右の写真のように花序が広がります。
 
 スズメノチャヒキ
 学名 Bromus japonicus Thunb.   イチゴツナギ亜科 スズメノチャヒキ連 スズメノチャヒキ属
 スズメノチャヒキもイヌムギと同じように花序が広がります。
 
 イチゴツナギ科の花序は、左の写真のようなものがたくさん集まってついています。
 このひとかたまりを小穂(しょうすい)といいます。
 小穂のねもとには、包穎(ほうえい)という小さな葉がついています。
 イヌムギの小穂には、ふつう6個の小花(しょうか)があり、開花しません。小花の数は、多いときで10個くらいになる場合もあります。
 
 イヌムギの小穂は、おしつぶしたように平べったい形(扁平(へんぺい))をしています。
 それに対してスズメノチャヒキは、イヌムギほど平べったくありませんから、丸っこい感じがします。
 のぎもイヌムギに比べて非常に長いことがわかります。
 
 小穂から小花を1つ取り出してみました。
 イヌムギは開花しないので、無理にこじあけてみました。
 左の長いものを護穎(ごえい)といい、その先には針のような非常にみじかいのぎがあります。
 右側のみじかい方は、内穎(ないえい)といい、この2つの穎の間に1個の花が入っています。
 みどり色の部分が子房(しぼう)で、その先の茶色の部分がおしべの(やく)です。
 
 左の写真は、おしべを拡大したものです。
 茶色の部分が葯です。
 白いひげのようなものは、めしべの頭の柱頭(ちゅうとう)です。
 開花しないということは、花が開かないのだから、とうぜん自家受粉になります。
 

開花するヤクナガイヌムギ

 ヤクナガイヌムギ
 学名 Bromus carinatus Hook. et Arn.   イチゴツナギ亜科 スズメノチャヒキ連 スズメノチャヒキ属 
 左の写真は、イヌムギに近いなかまのヤクナガイヌムギです。 
 長田武正著の検索入門野草図鑑Bススキの巻p.126のノゲイヌムギは、同定のまちがいで、ヤクナガイヌムギであることが、同氏の著書日本イネ科植物図鑑に掲載されています。
 イヌムギは、開花しませんでしたが、ヤクナガイヌムギは、ごらんのようにおしべが出てたれ下がっています。ヤクナガイヌムギは、開花するのです。(開花しないものもあります)
 開花する方がふつうですから、イヌムギの方が変わっているのです。
 
以降イヌムギ

 ちがう角度から見てみましょう。
 カニのつめみたいなのが内穎(ないえい)です。
 するどいトゲのような毛が生えています。
 
 茶色い部分がおしべの(やく)です。
 そのまわりのもじゃもじゃは、めしべの柱頭(ちゅうとう)です。
 これは、花をむりに開いたので、自然に生えているものは、めしべやおしべは見えません。
 
 内穎のトゲを顕微鏡で拡大したものです。
 生物のからだって、とても不思議です。
 こんなこまかいところまで、いったい、だれが考えてつくったのでしょう。
 
 イチゴツナギ科の植物には、茎のまわりに葉鞘(ようしょう)があります。鞘というのは、さやとも読み、刀のさやのことです。
 イチゴツナギ科の葉鞘は、茎を巻いているものがふつうですが、スズメノチャヒキ属の葉鞘は、筒型になっています。
 つまり、切れ目がないのです。
 このようなタイプを完筒型といいます。
 左の写真のようにVネックです。
 ほとんどのイチゴツナギ科の葉鞘は、和服の(えり)のように合わさっています。
 スズメノチャヒキ属の葉鞘には、全体に白いやわらかな毛が生えています。 
 
 葉鞘から葉身(ようしん)になるさかいめのところに、左の写真のようなものがあります。
 これは、葉舌(ようぜつ)といって、イチゴツナギ科の植物を見わけるとき、手がかりになるものです。
 舌は、したとも読み、口の中にあるべろのことをさします。
 イヌムギのようにはっきりしたものがあるいっぽう、非常にみじかくてわかりにくいものもあります。
 葉舌が毛になってしまったものもあります。
 
 この2枚の写真は、葉の表面を顕微鏡で見たものです。
 左の写真は、葉の中央付近、右の写真は、葉のふちです。
 葉のおもてにもふちにもトゲがあります。
 とくに、ふちのトゲはするどく、ススキの葉と同じように、むぞうさにつかんで引っぱると、手を切ってしまうことがあります。
 写真の上の方が葉の先の方です。
 したがって、葉をつかんだ手を先のほうから基部のほうへ動かすと切れるのです。
 

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