第31回  コムギ連 

日本のカモジグサは、欧米のものとは異種である

 東洋の主食になるイネはタケ亜科(イネ亜科)に属していましたが、西洋の主食になるコムギはイチゴツナギ亜科に属し、オートムギもイチゴツナギ亜科のカラスムギ連になります。  コムギ連の特徴は、花序が枝分かれしないことです。()の頂に1つだけ穂状花序(すいじょうかじょ)がつき、弓なりにそります。穂状花序は、柄のない小穂(しょうすい)がついたものです。
    
エゾムギ属 Elymus
 カモジグサ
 学名  Elymus tsukusiense Honda var. transiens (Hack.) Osada  イチゴツナギ亜科 コムギ連 エゾムギ属
 Agropyronをカモジグサ属と訳している図鑑がほとんどですが、長田武正博士によると、これはヨーロッパの種であり、日本のカモジグサは、Elymusに属するということです。
 カモジグサは、銀色を帯びた穂が特徴です。 
 
 アオカモジグサ
 学名  Elymus ciliare (Trin.) Fr. var. minus (Miq.) Ohwi   イチゴツナギ亜科 コムギ連 エゾムギ属
 緑色をした穂のものは、アオカモジグサと呼ばれているものです。
しかし、ただ緑色であるだけではありません。この2つは異なった(しゅ)ですから、色以外にもちがいはあります。
 とはいっても、同じ属なのですから、共通点も多いことは確かです。
 
 コムギ連ですから小穂(しょうすい)の中の小花(しょうか)の数は多いです。上の写真の小穂には、7個の小花を数えました。
 
 小穂の基部には、だいたい同じ大きさの2枚の包穎(ほうえい)があります。包穎には(のぎ)はありません。
 
 小穂(しょうすい)の中から1個の小花(しょうか)を取りだしてみます。
 一番外側にあるのが護穎(ごえい)です。
 護穎にはすじがあります。このすじを脈といい、5本あるから5脈とと呼ぶことにしましょう。どちらのカモジグサにもあります。
 護穎の先からは、じょうぶな(のぎ)が出ています。
 
 芒の出方に、カモジグサとアオカモジグサでは、ちがいが認められます。
 アオカモジグサは、5脈の中央3脈が延長するようにのび、両側の脈と段差ができています。
 
 
 カモジグサは、護穎の先に段差はありません。
 これは、護穎の内側から見てもわかります。
 2つの護穎を比べてみると、そのちがいは一目瞭然です。
 
 (のぎ)を顕微鏡で観察しました。
 芒に見られる毛の正体です。
 
 護穎の反対側には内穎(ないえい)があります。
 アオカモジグサの花は、この内穎の中に包みこまれているのです。
 
 写真は、開花前のおしべです。
 アオカモジグサもカモジグサも、これといった特徴はありません。
 
 イチゴツナギ科の花は、花被(かひ)が退化して2枚のりん皮に変形しています。
 このりん皮は、開花するときに、護穎と内穎を押し広げるはたらきをします。
 子房(しぼう)からは2本の花柱(かちゅう)がつきでており、その先は柱頭(ちゅうとう)になっています。
 イチゴツナギ科の柱頭は、風媒花(ふうばいか)ですから房状になっています。
 エゾムギ属の子房の上部には、細い毛が密集しています。
 
 房状の柱頭を拡大してみます。
 細い毛が無数にあります。
 顕微鏡で観察すると、まるで、ガラス細工のように見えます。
 
 葉舌(ようぜつ)の高さは、1mm前後で切り形です。小さくて見にくいからルーペで観察しなければなりません。
 葉身(ようしん)の基部は、黄褐色から茶褐色に色づくことがあります。
 葉に毛は生えません。
 


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