第36回  イチゴツナギ連 ドクムギ亜連
 
 イチゴツナギ連にはカラスムギ亜連(第32、33回)がありました。ほかにイチゴツナギ亜連(第34回、第35回)とドクムギ亜連(第36回)があります。

 

カモガヤ属  Dactylis

 カモガヤ
 学名  Dactylis glomerata L.   イチゴツナギ亜科 イチゴツナギ連 ドクムギ亜連 カモガヤ属
 1属1種しかありませんが、牧草として植えられたこともあり、世界中に広がりました。
 長い枝を広げ、たくさんの小穂をつけます。とくに上の方に多くの小穂をつけるので目立ちます。
 
 
 枝に小穂のたばがぽってりとつくので、それが特徴になります。
 
 葉は、10〜30cmくらいあり、中央脈が竜骨になっています。葉の幅は、しだいにせまくなって先端はとがっています。
 
 葉舌(ようぜつ)は1cmもある大きなものです。
 
 3〜6個の小花(しょうか)をもちます。
 包穎(ほうえい)の中央脈のあたりは竜骨(りゅうこつ)になっており、へりは膜状になっています。
 たいていは、第2包穎のほうが長いのですが、写真のようにほぼ同じ長さのものがたまにはあります。
 護穎(ごえい)には、5つの脈があります。中央に竜骨をもち、そのまま先端のみじかい()につながっています。
 
 内穎(ないえい)の竜骨には、みじかい毛が生えています。
 柱頭(ちゅうとう)はブラシ状です。
 
 おしべの(やく)は、長さが3〜4mmあるので、目立ちます。
 

ウシノケグサ属  Festuca

 オニウシノケグサ
 学名  Festuca arundinacea Schreb.   イチゴツナギ亜科 イチゴツナギ連 ドクムギ亜連 ウシノケグサ属 
 分類上ですべてのイネ科植物の原点になっている属です。
 そのひみつは小穂(しょうすい)にあります。
 小穂は小花(しょうか)の集まりですから、一つの花序(かじょ)といえます。
 真双子葉植物で究極の進化をなしとげたキク科の頭状(とうじょう)花序と対照的な関係にあります。
 イネ科の小穂は、ウシノケグサ属の小穂をもとに、何が退化していったかを推定することにより、ほとんどが説明がつくのです。
 植物は、複雑なしくみからかんたんなしくみへと進化してきました。(長田武正著 日本イネ科植物図譜)
 小穂は花序ですから、初期にはいくつもの小花をつけていたことを想像することができます。
 ウシノケグサ属は、イネ科の中では最も多い数の小穂をもっています。
 
 花序の枝は1カ所から長短2本ずつでています。
 みじかいほうの枝には数個以下の小穂がつき、長いほうの枝には数個〜20個ほどの小穂がつきます。
 
 オニウシノケグサの小穂です。
 ウシノケグサ属は、高地に多いのですが、オニウシノケグサは平地に見られるごく普通のものです。

 
 上の写真は、包穎付近の小花2個を残し、他の小花を取りのぞいたものです。
 第2包穎は第1包穎より長く、どちらにも()はありません。
 第1包穎には1脈、第2包穎には3脈があります。
 包穎のへりは白い膜状です。
 
 護穎は5脈をもちますが、あまりはっきりとは見えません。
 護穎の先には芒があります。
 オニウシノケグサに似たヒロハノウシノケグサは、芒をもたず、脈ははっきりしています。
 護穎のへりは包穎と同じように白い膜状になっています。
 
 小花の小軸には基盤に向かって細毛が密に生えています。
 
 芒にはトゲが無数についています。
 
 護穎を取りのぞいて内穎を観察してみます。
 内穎の中にはオニウシノケグサの花が入っています。
 おしべは写っていません。
 りん()花被(かひ)が変化したもので、開花のとき護穎と内穎をおし広げるはたらきをしています。
 
 イネ科は、ほとんどがめしべ先熟型ですから、おしべの葯が開いているころには、子房はだんだん大きくなって果実に近づいてきます。
 ウシノケグサ属のおしべは3本です。
 
 イネ科は、開花前の小花を調べるとよいとされています。
 とくに、おしべは開花前だとカズノコのように見えます。2個の葯室が葯隔(やくかく)をはさんで、背中合わせについています。
 
 2個の葯室が葯隔をはさんで、平行についています。
 花糸の先端が葯隔に変化しているといってもよいでしょう。
 
  めしべを取りだしてみました。
 子房の中央やや下のところが黒っぽくなっています。
 ここは、りん皮がはりついていたところです。子房の中には胚珠が納められています。
 イネ科のめしべの花柱(かちゅう)は、顕微鏡で見ると、けっこう太く見えます。
 花柱からは羽状に毛が生えて柱頭(ちゅうとう)になっています。
 
 果実は、米粒形になります。
 まだ柱頭が残っています。

 ドクムギ属  Lolium  
 ホソネズミムギ
 学名  Lolium ×hybridum Hausskn.   イチゴツナギ亜科 イチゴツナギ連 ドクムギ亜連 ドクムギ属
 この属は、ドクムギ属ともホソムギ属とも呼ばれています。迷う人は、ロリウム属といってもいいでしょう。
 私たちの身近には、ドクムギもホソムギも、ほとんど見られません。どちらも外国から移入された牧草なのです。
 どこにでも生えている身近なものといえば、ネズミムギでしょう。
 そのネズミムギもホソムギとの自然交配により、ホソネズミムギや中間型のものができ、変化に富んでいます。
 
 ふつうイネ科の包穎は2枚あります。包穎は小穂の基部にあり、複数の小花を束ねるものです。
 しかし左の写真でわかるように小穂(しょうすい)には包穎(ほうえい)が外側に1枚しかありません。
 ネズミムギのなかまは、この包穎で小穂を茎に押しつけているのです。
 
 さらによく観察してみると、頂上の小穂だけは2枚の包穎をもっています。
 頂上は、小穂を押しつける茎がないので、包穎はどうしても2枚必要になります。
 
 小花(しょうか)は、護穎(ごえい)内穎(ないえい)にはさまれるように包まれています。
 護穎のへりは白い膜質になっています。
 左の写真の緑色のへりは、内穎のものです。細毛がたくさん生えています。
 護穎は向こう側にあり、基部の一部と先端の膜質の部分がちらっと見えます。
 護穎と内穎を開いておしべや柱頭(ちゅうとう)を出す役目は、目立たないりん()の仕事です。
 
 ルーペで小花を観察するときでも、りん皮はなかなか見つかりません。
 開花前の小花をていねいに開いていくと、子房の前後に1枚ずつ小さなりん片がはりついています。
 見つかればラッキーです。
 
 イネ科のおしべはどれも似かよっています。
 開花前の葯も、ごくふつうのものです。
 
 開ききった(やく)を撮影したとき、きらきら光る花糸(かし)を見つけました。
 こんなに細いのですから、花糸で葯を支えることなどできません。
 イネ科の葯はぶら下がるしかないのです。
 そして、風にゆれて花粉を飛ばします。イネ科は、風媒花(ふうばいか)なのです。
 
 花糸を顕微鏡で見てみます。
 葯隔からガラスのネックレスのような花糸がのびています。
 
 めしべを観察します。
  まるい子房からみじかい花柱が2本でています。
 花柱の先は、羽毛状になっています。
 ここで花粉をとらえます。
 柱頭の形にも、風媒花としての究極の進化を見ることができます。
 
 羽毛状の柱頭を拡大してみると、細い毛のようになっているのがよくわかります。
 ギザギザの毛は、風に運ばれてきた花粉をたくみにとらえています。
 
 葉身(ようしん)の基部は、うすい膜質(まくしつ)葉耳(ようじ)となって葉鞘(ようしょう)につづきます。
 イネ科の中で葉耳をもつものは少ないので目印になると思います。
 
 (かん)を取り除いてみます。
 ちょっと見にくいですが、ホソネズミムギの葉舌は1〜2mmの高さです。
 

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