第35回  イチゴツナギ連 イチゴツナギ亜連 A


アワガエリ属 Phleum
 オオアワガエリ
 学名  Phleum pratense L.   イチゴツナギ亜科 イチゴツナギ連 イチゴツナギ亜連 アワガエリ属
 ユーラシア大陸原産で明治初期に牧草として輸入されました。牧草としては、チモシーという名があります。
 アワガエリというのは()がアワににているためで、その大型のものだからオオアワガエリというのです。イギリスでは、キャッツ・テイル(猫のしっぽ)と呼ばれています。
 日本では、絹糸草としての方が有名ですが、その種子がオオアワガエリの種子であることは、あまり知られていません。
 オオアワガエリもミノボロと同じく円すい花序ですが、すき間なく円筒形にまとまっています。
 
 穂を拡大してみます。
 オオクワガタがひしめき合っているような感じで、これが絹糸草の親とはとても思えません。
 クワガタのあごに見えるところは、2枚の包穎(ほうえい)です。
 包穎の先がみじかい(のぎ)になっているので、このように見えるのです。
 
オオアワガエリの穂拡大  穂をさらに拡大してみます。
 白い糸くずみたいなものはめしべの柱頭(ちゅうとう)です。
 うすい黄色いのは、おしべの(やく)です。
 イネ科ですから、小穂(しょうすい)が集まって穂をつくっています。クワガタみたいにつきだしているみどりいろのものが小穂です。
 
 オオアワガエリの小穂(しょうすい)は、1個の小花(しょうか)から成り立っています。
 さきのとがった2枚の包穎(ほうえい)が小花をつつんでいます。包穎の先は長さ1mmくらいの(のぎ)になっています。
 包穎は、竜骨を背に山折りになっているので、非常に扁平(へんぺい)になっています。
 包穎の背からは長い毛が生えています。
 護穎(ごえい)はうすく小さいので、包穎の中に入ってしまい、この写真では見えません。
 
 
 第1包穎の竜骨(りゅうこつ)には、長い毛が生えています。拡大すると、このように見えます。
 竜骨の先端にはみじかい芒がのびており、芒に近づくにつれて、カニのはさみのようにこまかいトゲが出ています。
 竜骨の両側は、白い膜状になり、基部まで幅広くなっています。近いなかまのアワガエリは、基部にいくにしたがって幅がせまくなっています。
 
 第2包穎の竜骨にも毛が生えています。
 アップします。
 第1包穎と第2包穎にはあまりちがいがないようです。
 
 めしべの柱頭はブラシ型です。
 子房からは、2本の花柱(かちゅう)がでています。
 花柱の先は、柱頭(ちゅうとう)といいますが、オオアワガエリの柱頭は、まるで樹氷(じゅひょう)のようです。
 顕微鏡で見ると、氷でできているように見えますが、肉眼では糸くずのように見えるのです。
 
 おしべは3本あります。イネ科のおしべは、ふつう、3本ですね。形も、イネ科のものは、たがいによく似ています。
 おしべは、糸のようにほそい花糸の先に、黄色い葯がついています。
 花糸(かし)がとてもほそいので、葯は、ぶらさがってついているんです。
 
 葯をアップしてみましょう。
 これで1個の葯なのです。
 イネ科に限らず、葯は2個の葯室からなりたっています。
 なにか、さなぎみたいですね。
 この葯は、もう、花粉を全部出してしまいました。中は、からっぽです。
 
 葉のつき方は、ふつうのイネ科の植物と同じです。
 葉のねもとは、茎をまいています。和服のように左前ですね。
 まいているところを葉鞘(ようしょう)といいます。鞘というのは、(かたな)(さや)のことです。
 ふつうの葉のように見えるところは葉身(ようしん)といいます。
 
 見やすくするため葉身をめくるようにしたら、葉舌(ようぜつ)()けてしまいましたが、膜質のふつうの葉舌です。
 
 葉身と葉鞘の境目(さかいめ)葉舌(ようぜつ)をアップしてみます。
 舌というのは、口の中にある(した)(べろ)のことです。
 葉っぱのべろだから、葉舌というのです。
 上の写真は、葉の内側から、左の写真は葉の外側から撮影(さつえい)したものです。
 (くき)にも葉身、葉鞘にも、毛は生えていません。
 イネ科の観察では、毛が生えているかいないかを確認しましょう。
 をクリックすると、イネ科についてのくわしい解説を見ることができます。
 

カズノコグサ属 Beckmannia

 カズノコグサ
 学名 Beckmannia syzigachne (Steud.) Fernald  イチゴツナギ亜科 イチゴツナギ連 イチゴツナギ亜連 カズノコグサ属
 田んぼにふつうに見られます。
 風変わりな穂をしているのですぐにわかります。
 扁平な小穂が多数重なっているところをカズノコにたとえたのでしょう。
 カズノコグサはカラスムギ亜連に入れるものもありますが、ここでは分子系統の観点から、葉緑体のタイプでイチゴツナギ亜連に入れています。
 
 カズノコグサの枝には、一方にかたよった小穂が2列にならんでつきます。
 カズノコグサは、なぜカラスムギ連に入れられていたのでしょうか。
 カズノコグサの小穂が非常にユニークなので、ほかのどれとも似ていないように見えます。
 しかし、小穂のつくりを観察してみるとその謎を解くことができます。
 カズノコグサもカラスムギと同じように大きな2枚の包穎に小花が包まれています。
 
 その包穎が袋のようになっているから、だまされてしまうのです。
 包穎の中には、ヌカボやスズメノテッポウと同じく1個の小花が入っています。
 包穎の先端のすき間から護穎の先が顔を出します。内穎は、包穎をはがさなければ見ることができません。
 イネ科では、めしべの花柱は2本のものが多いのですが、カズノコグサには3本の花柱があります。柱頭は羽状です。
 
 葉舌は、スズメノテッポウと同じような形です。

 

スズメノテッポウ属 Alopecurus
 スズメノテッポウ
 学名  Alopecurus aequalis Sobol   イチゴツナギ亜科 イチゴツナギ連 イチゴツナギ亜連 スズメノテッポウ属
 スズメノテッポウは、最も庶民的なイネ科のなかまでしょう。
 それは、むかしの子供たちが(かん)を引き抜いて葉鞘を笛にして遊んだからです。
 
 スズメノテッポウの穂(花序)です。
 同属のセトガヤより少し細いです。
 スズメノテッポウ属の花序は穂状に見えますが、ヌカボ属(第33回)よりみじかい枝を密生するので、円柱形にまとまります。
 
 花序を拡大してみます。
 葯の色は、はじめ白っぽい淡緑色のちに黄色〜黄褐色になります。
 白いひげ状のものはめしべの柱頭です。ここで花粉をとらえます。
 
 葉舌は、左の写真のように長くめだちます。

 スズメノテッポウ属の小穂も、ヌカボ属と同じく、1小花から成り立ちます。

  
 セトガヤ
 学名  Alopecurus japonicus Steud.   イチゴツナギ亜科 イチゴツナギ連 イチゴツナギ亜連 スズメノテッポウ属
 スズメノテッポウのなかまには、オオスズメノテッポウ、ノスズメノテッポウ、セトガヤがあります。
 
 スズメノテッポウとのちがいは、花序が大きいこと、葯がスズメノテッポウの白色に対して黄色であること、芒が長いことの3点です。
 

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