第38回  ヒゲシバ亜科 Chloridoideae A

  ネズミノオ属  Sporobolus

 ネズミノオ
 学名  Sporobolus fertilis (Steud.) W.D.Clayton   イネ科 ヒゲシバ亜科 ネズミノオ属
 ネズミのシッポみたいだから、こんな名前がついたのでしょう。
 似たような植物に、穂を出したばかりのミノボロがありますが、こんなに細くはありません。
 ミノボロは、日がたつにつれて穂が開いてきます。だから、初めのころとあとのころではちがう植物にさえ見えます。
 ところが、ネズミノオは、最後までネズミの尾です。
 
 ムラサキネズミノオ
 学名  S. fertilis var. purpureo-suffusus (Ohwi) Ohwi  イネ科 ヒゲシバ亜科 ネズミノオ属 
 ムラサキネズミノオは名前のとおり穂がむらさき色をしていますが、ネズミノオは灰色がかった緑またはうすい茶色で、大きさもちがいます。
 ネズミノオは、せいぜい30〜40cmで、大きいものでも80cmくらいまでですが、ムラサキネズミノオは、60〜90cmの高さになります。
 ムラサキネズミノオの穂をアップしてみると、1本のように見えた長い穂が、じつは、たくさんの枝が集まってできていることがわかります。
 
 左の写真は、1つの枝をとりだしたものです。
 さらに細かい枝に分かれています。
 いわゆる複合花序です。
 小さな花序が集まって大きな花序をつくっているという意味です。
 
 ムラサキネズミノオのような花序を円すい花序といい、イネ科にはとても多いのです。
 イネ科の花を観察するときは、どのような小穂(しょうすい)かということを見きわめることが大切です。
 1個の小花(しょうか)でできているのか、2個以上の小花でできているのかということです。
 ムラサキネズミノオの小穂は、1つの小花でできています。
 
 イネ科の場合、他の花の総包(そうほう)包葉(ほうよう)にあたるものを(えい)と呼んでいます。
 小穂の基部にある外側の2枚の穎を包穎といいます。これは、総包にあたります。
 包葉にあたるのが護穎(ごえい)内穎(ないえい)で、3つ折りになった内穎の中には、おしべ、めしべ、りん皮が入っています。 りん皮は、花被(かひ)にあたります。
 このおしべ、めしべ、りん皮が本当の意味での花といえますが、それに護穎・内穎を加えて小花とよんでいます。
 護穎は、一番外側にあり、内穎の片側を包むようにしています。ふたのようなはたらきです。
 
 小さい枝を観察してみます。
 ムラサキネズミノオは、1つの小穂に1つの小花しかつきませんから、この1つ1つが小穂であり、その大部分は小花です。
 小花から出ているひらひらしているものはムラサキネズミノオのおしべです。全部で3本あります。
 単子葉植物のほとんどは3数性といって、おしべの数が3または3の倍数になります。
 ちなみにイネのおしべは6本で、イネ科の中では変わっているほうで、たいていは、3本です。
 
 左の写真は、おしべを拡大したものです。
 この葯は、すでに開いてしまったもので、中はほとんどからっぽです。わずかに白い花粉が残っています。
 
 細い糸のようなものは、花糸(かし)といいます。
 むらさきいろの部分が(やく)で、2つの葯室からなりたっています。
 2つの葯室にはさまれているきいろの部分は葯隔(やくかく)です。
 
 小花(しょうか)から(やく)とは別に房状のものが顔を出しています。 
 内穎の中からめしべをとりだして調べてみます。
 3つ折りになった非常に小さな内穎からめしべをとりだす作業は、とても大変です。
 そして、形をととのえて撮影するのは至難の業です。
 
 子房のまわりは、浅くデコボコしています。
 2本の太い花柱(かちゅう)が出ています。
 太いといっても顕微鏡で見ているから太いので、肉眼ではほとんど見えません。
 
 柱頭(ちゅうとう)を、もう少しアップしてみました。
 かたまってしまったので見にくいですが、まわりの部分を見ると、複雑に枝分かれしていて、表面積を大きくしているのがわかると思います。
 自然界の生物には、表面積を大きくするという工夫が、いろいろなところで見ることができます。
 たとえば小腸の栄養を吸収するところである絨毛(じゅうもう)も表面積を大きくして吸収する効率を上げています。
 
 柱頭の表面積を大きくする理由は、花粉とふれあう面積を大きくするためです。
 子房は成長すると果実になります。
 
 ムラサキネズミノオの果実は、お米のような形ではなく、坊主頭です。
 表面には、特徴のあるもようがあります。
 
 イネ科の葉は、みな同じようで見分けるのが大変です。そんなとき、葉のつけねを観察します。

 葉舌にはいろいろな種類があり、イネ科植物の名前を調べるときのヒントになります。ムラサキネズミノオの葉舌は、舌のような形にはならす、細かい毛になっています。
 細長い葉のところは、他の植物と同じ葉身(ようしん)です。
 (かん)と呼ばれる茎をとりまいているのが葉鞘(ようしょう)です。葉の(さや)という意味です。鞘は刀のさやのことです。
 葉鞘から曲がって葉身になる曲がり角のところにあるのが葉舌(ようぜつ)です。
 葉の(した)という意味です。"べろ"のことです。
 まれに葉鞘がつながって円筒になっているものもありますが、たいていは、左の写真のように着物のように合わさっています。
 
 シバ
 学名  Zoysia japonica Steud.  イネ科 シゲシバ亜科 シバ属 
 シバは、サッカー場や公園などでおなじみの植物ですが、ふつう芝生にするものはコウライシバといい日本のシバとはちがうものです。
 葉舌はありません。
 
 日本のシバは、地下に長い根茎をもっています。かんたんにはがすことはできません。
 コウライシバは、根茎ではなく、地上にほふく枝をはわせますから、日本のシバよりもかんたんにはがせます。
 ほかにもゴルフ場などで使う西洋芝というものがありますが、まったくちがうものです。
 
 シバの穂です。5〜15cmほどあります。
 上部・中部・下部の3つに分けて拡大してみます。
 上のほうには、おしべの葯が見えます。
 上から順に咲くことになります。
 小穂は、1つの小花から成り立っています。
 
 小穂には、長い柄(小軸)がついています。
 小穂に柄があるから総状花序になります。軸にぴったりと圧着して、棒のようになっています。
 
 小穂は、1花だけで成り立っています。  第1包穎と内穎は退化し、消失しました。
 外側に見える第2包穎は、かたく、護穎より少し長く、先がとがっています。
 内側になる護穎はやわらかい膜質でできています。
 左の写真では、左側の葯が2つ重なっているのでおしべが2本見えますが、ほんとうは3本です。
 
 こちらの写真では、3本のおしべを確認できます。
 1本のおしべには、2個の葯室がつくので合計6個の葯室をみることになります。
 
  おしべを拡大します。  おしべは、葯と花糸から成り立ちます。
 葯は、2つの葯室から成り立ちます。
 左の写真は、葯がすでに開いて花粉を放出したあとです。
 
 めしべは、種子をつくる子房と子房からのびる花柱と花柱の先端で花粉をとらえる柱頭の三部から成り立ちます。     
 柱頭は、ブラシ状です。
 子房から2本の花柱がのび、それぞれにブラシ状の毛がたくさんついています。
 
  5月に花が咲き、6月にはゴマのような黒い果実をつけます。

 
 オヒシバ
 学名  Eleusine indica (L.) Gaertn.  イネ科 シゲシバ亜科 オヒシバ属
 花序の細いメヒシバに対して、太いほうをオヒシバといいます。この2つは、外見はよく似ているのですが、なかま分けをすると、それぞれ異なったグループになります。
 メヒシバはキビ亜科のメヒシバ属で、オヒシバはヒゲシバ亜科のオヒシバ属です。
 傘の骨のような形の花序は、ほかにもありますから、オヒシバやメヒシバだけの特徴にはなりません。
 
 中央の花軸の両側に小穂(しょうすい)がたがいちがいについています。
 
 小穂を拡大してみます。
 数個の小花が集まって1つのかたまり、すなわち、小穂になっています。
 小穂の基部には2枚の包穎があり、4〜5個の小花を左右にならべています。
 ところどころに葯が出ています。
 
 1本の花序を横から見ると、下の写真のようになります。
 軸のまわりに小穂がとりまいているのではなく、軸の片側に2列についています。
 だから扁平にみえるのです。
 
  左の写真には、おしべの葯が、見られます。
 おしべの数は3本です。
 1本のおしべに2個の葯室がついています。
 葯は花粉を放出し終わり、開ききっているためふくろのような感じがします。
 
 左の写真に、めしべの柱頭を見ることができます。
 注意してみないとわからないかもしれません。ブラシのような形をしています。
 柱頭がブラシや房のような形をしていることは、イネ科の特徴になります。
 イネ科は風媒花だから、このような形をしていることが花粉をとらえるのにつごうがよいのです。
 
 葉鞘から葉身に変わるあたり白みがかっており、長い白毛がたくさんはえています。
 葉舌の形はイネ科を分類する上には、とても役に立ちます。
 オヒシバの葉舌は、1mmくらいで、あまり目立ちません。

 
 アゼガヤ
 学名  Leptochloa chinensis (L.) Nees   イネ科 シゲシバ亜科 アゼガヤ属
 メヒシバと同じように基部はたおれ、地をはって枝分かれします。
 田の畦などの湿地に生えることからこの名前がついたのでしょう。
 小穂は、花序の枝の片側に2列につきます。
 はじめうすい緑色をしていた小穂は、のちに赤紫色になるものがほとんどです。
 
 小穂のつきかたは、メヒシバよりまばらで、たがいちがいについていることが右の写真でわかります。
 
  小穂を拡大してみます。
 第2包穎は第1包穎より長く、護穎と同じくらいの長さがあります。
 護穎とのちがいは、包穎の竜骨のトゲが大きいことです。
 
 それぞれの穎をはがして広げると、護穎ははばが広く先はあまりとがっていません。それに対して、包穎ははばがせまく、先がとがっています。
 1個の小穂に、4〜7個ほどの小花がつきます。
 護穎は包穎に比べてやわらかく、膜質です。
 カゼクサ属と同じく、包穎が1脈なのに対して護穎は3脈あります。イネ科にはこういうタイプがほとんどです。
 
  左の写真は、アゼガヤのおしべの葯です。
 すでに花粉を出して空になったものです。
 1個の葯は、2個の葯室から成り立っています。

 
 ギョウギシバ
 学名  Cynodon dactylon (L.) Pers.  イネ科 シゲシバ亜科 ギョウギシバ属
 オヒシバのように数本の花序に枝分かれをしています。
 葉が短いのでオヒシバやメヒシバとまちがえることはありません。
 
 芝生に入りこむ悪草としてにらまれています。
 シバの花序は枝分かれしないので、花が咲けばかんたんに見分けることができます。
 
 小穂は2〜3mmで、小穂と同じ長さの包穎に1個の小花をつけます。
 

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