第42回  キビ亜科 C Panicoideae C

キビ連 C Paniceae C

スズメノヒエ属 Paspalum

 スズメノヒエ
 学名  Paspalum thunbergii Kunth  イネ科 キビ亜科 キビ連 スズメノヒエ属
 いかにも雑草という感じの草です。スズメノカタビラのビッグサイズというところでしょうか。
 葉身(ようしん)葉鞘(ようしょう)葉舌(ようぜつ)付近の毛のはえぐあいが、種によってちがいがあります。検索する場合の重要な手がかりになるでしょう。

  
 シマスズメノヒエ
 学名  Paspalum dilatatum Kunth  イネ科 キビ亜科 キビ連 スズメノヒエ属
 スズメノヒエ属の(そう)です。
 この属は、花序(かじょ)に特徴があります。
 3〜5個の総が写真のようについているので一目でわかります。
 (そう)というのは、小穂(しょうすい)が集まった()のことです。
 大きいものは、まるでイモ虫のように見えます。
 
 近くでよく見ると、なんとも奇妙(きみょう)な草です。
 保育園の子どもたちが「イモ虫の草」とよんでいました。たしかにそんな感じがします。
 ヒエ(稗)というのは、穀物(こくもつ)の一種で、むかし、米を口にできない貧しい農民などが食べたものです。現在では小鳥のえさとして売っています。あるいは、健康食品として見直されているようです。
 むかしの人は、これをスズメがたべるヒエというふうに見たのでしょう。
 
 茶色のすじは、(そう)の軸になります
 小穂(しょうすい)は、この軸の下側にならんでつきます。
 緑色のまるいものは、小穂ですね。
 
 スズメノヒエとシマスズメノヒエはよく似ていますが、小穂のならび方にちがいがあります。
 写真でわかるように、スズメノヒエは2列にならびます。それに対して、シマスズメノヒエは3列以上になります。
 見分けるには、最もわかりやすい特徴になるでしょう。
 
 小穂の形は、スズメノヒエは円に近く、シマスズメノヒエは先のとがった卵形です。
 
 小穂は小花(しょうか)が集まったものです。
 スズメノヒエ属の第1包穎(ほうえい)は、退化してなくなりました。
 第2包穎は内側について、少しふくらんでいます。
 第1小花は退化し、残っている護穎(ごえい)が第1包穎の代わりに外側に着いています。したがって、外から見えるところはこの護穎になります。
 第2小花の護穎は両へりが内側に折れ曲がって内穎(ないえい)()き、そのなかにおしべやめしべが包まれています。
 
 左側の写真は、小穂を横から撮影(さつえい)したものです。ずいぶんうすいですね。
 (つの)のように出ているこげ茶色をしたものがめしべの柱頭(ちゅうとう)で、赤っぽい色をしたものがおしべの(やく)です。
 右側の写真は、うすい(えい)をむりやりに開いたものです。
 中には護穎(ごえい)内穎(ないえい)につつまれた扁平(へんぺい)な果実が入っています。

   
 キシュウスズメノヒエ
 学名 Paspalum distichum L.  イネ科 キビ亜科 キビ連 スズメノヒエ属
 (そう)の数がほとんど2個で、Vの字形についているのがキシュウスズメノヒエです。
 スズメノヒエが在来種であるのに対し、シマスズメノヒエ、キシュウスズメノヒエ、チクゴスズメノヒエは、外来種です。
 外来種は、外国から入ってきて野生化したもので、帰化植物ともいいます。
 
 キシュウスズメノヒエは、湿地帯や水田の(あぜ)に分布しています。
 ちなみに、スズメノヒエやシマスズメノヒエは、荒れ地などふつうのところに分布しています。

  
 チクゴスズメノヒエ
 学名 P. distichum L. var. indutum Shinners  イネ科 キビ亜科 キビ連 スズメノヒエ属
 よく似た種類にキシュウスズメノヒエの変種にあたるチクゴスズメノヒエがあります。
 6倍体のキシュウスズメノヒエに対して、こちらは4倍体で、総の数が3〜4個になることがあります。
 キシュウスズメノヒエよりも水深の深いところを好むようです。
 
 シマスズメノヒエの茎や葉には毛が生えていません。
 スズメノヒエは、葉身(ようしん)葉鞘(ようしょう)に長めの毛が生えていますから、これも見わける目印になります。
 右の写真は、葉身から葉鞘へかわるところです。長い毛が生えています。
 シマスズメノヒエで毛が生えているところは、小穂(しょうすい)とここの2カ所だけです。
  葉鞘の鞘は訓読みでさやと読みます。刀のさやのことです。葉が茎のさやになっているから葉鞘というのです。
 
 スズメノヒエの葉舌(ようぜつ)は1mmくらいですが、シマスズメノヒエのほうは2〜4mmくらいあります。
 スズメノヒエは、葉身にも葉鞘にも毛が生えています。
 シマスズメノヒエは、葉鞘の口部にまばらに生えている程度で、ほかはほとんど無毛です。
 
 キシュウスズメノヒエの葉鞘(ようしょう)のへりに長毛がはえているのに対して、チクゴスズメノヒエのほうはきわめて短毛です。
 
 一番のちがいは、キシュウスズメノヒエで退化して消失した第1包穎(ほうえい)が、チクゴにはわずかに残っているのです。
 小穂(しょうすい)のへりにへばりつくように存在しています。

   

チカラシバ属 Pennisetum

 チカラシバ
 学名  Pennisetum alopecuroides (L.) Spreng.  イネ科 キビ亜科 キビ連 チカラシバ属
 この試験管ブラシみたいなのがチカラシバです。シバというとゴルフ場などの芝を連想しますが、これは、どう見たってエノコログサの親戚(しんせき)としか思えません。
 
 初めに細長い葉に注目してみましょう。この葉をひと目見ただけでイネ科の植物であることがわかります。
 単子葉植物で、このような形をしている葉は、()いて捨てるほどあります。だから、葉だけを見て、「これは何という植物かな?」と考えるのは、ちょっと無理ですね。
 だけど、せっかくだから、葉と茎を少し観察してみましょう。
 このような生育型を草むら型といいます。
 
 左の写真を見てみましょう。
 葉は一枚一枚交互についているから、葉のつき方は互生(ごせい)です。
 イネ科の互生は、葉と葉の間が()まっていて、同じところからたくさんの葉が出ているように見えるものが多いのですが、チカラシバの場合は、葉と葉の間がだいぶ離れています。
 
 葉の表面を観察します。
 白色や緑色の細胞がたくさん並んでいます。
 
 葉のヘリを観察します。
 白い部分です。
 ギザギザがあります。鋸歯(きょし)といいます。
 ススキほどではありませんが、手を切ってしまうことがあるから気をつけましょう。
 葉の形から、葉先から基部に向かって動かすと切れやすいです。
 ススキについては第44回で詳しく解説します。
 
 葉のつき方は、双子葉植物とはだいぶ変わっています。葉のつけ根の方が(かたな)(さや)のように茎をとりまいています。この部分を葉鞘(ようしょう)といいます。
 
 葉鞘の先は、ふつうの葉のように開いています。
 その境目にイネ科の特徴があります。
 
 境目のあたりです。
 中の茎をぬいて見やすくしました。
 
 拡大してみます。
 毛が生えているのが確認できます。
 
 内側を観察してみます。
 ここにも毛が生えています。
 この部分を葉舌(ようぜつ)といいます。
 葉舌は(した)(べろ)のような形をしたものが多いので、こんな名前がつけられました。
 チカラシバの葉舌は、舌の形ではなく、毛の形に変化しています。
 
 これは、チカラシバの花序です。
 エノコログサの花序とそっくりです。
 エノコログサよりは、大きくがんじょうそうな感じがします。
 試験官ブラシみたいですね。
 
 この1粒1粒が小穂(しょうすい)になります。
 たくさんの小穂が集まってブラシのような穂((そう))をつくっています。
 小穂の中には小花(しょうか)が2個あります。しかし、そのうちの1個は、実にはならない不完全な小花です。
 実になる小花は両性花で、これが粒に見えるものです。
 小穂をとり出してみましょう。
 
 これが、チカラシバの小穂(しょうすい)です。
 小穂の根元からは総包毛(そうほうもう)と呼ばれる剛毛(ごうもう)(かたい毛)が生えています。
 籾殻(もみがら)にあたる皮を(えい)といい、最も外側にある穎を包穎(ほうえい)といいます。ます。
 
 
 剛毛を拡大します。
 これは、イチゴツナギ科(イネ科)によく見られる(のぎ)とは(こと)なります。
 芒は、小穂の先端(護穎(ごえい)など)から出るもので、チカラシバの剛毛は、小穂の基部から出ています。
 剛毛は、先のほうへ向かってトゲがついています。これでは害虫はよりつけませんね。
 
 (えい)については、次の2つの例を参考にしてください。
 一つひとつの小花(しょうか)を包む穎を護穎(ごえい)といい、いくつかの小花を包む穎を包穎(ほうえい)といいます。
 包穎と護衛の関係はわかりましたか?
 
 チカラシバの小穂(しょうすい)は、2つの小花で成り立っています。
 しかし、1つはほとんど退化して、護穎と内穎しか残っていません。実がつかないということです。
 最も外側の穎を第一包穎といいます。
 チカラシバの第一包穎は、非常に小さく、ルーペで観察しても、よく見えないかもしれません。
 カモジグサやカラスムギとは大違(おおちが)いですね。
 
 わかりやすいように穎を少し開いてみます。
 第一小花には子房がないから、護穎と内穎がぺったんこになっています。おしべだけをつくることもあるそうです。
 それに対して、第二小花は、完全な花になるから厚みがあり、子房も見られます。
 おしべ・めしべは、護穎と内穎に包まれています。
 
 さらに、無理やりに広げてみました。
 どれがどれだかわかりますか?
 上の写真を参考に、当ててみてください。
 
 おしべを出すころは、このように見えます。おしべの(やく)の色が目立つからです。
 チカラシバは、エノコログサよりも、ずっと力強く、根も土にしっかりと張って、そうかんたんには抜けないというところから、この名前がつきました。
 エノコログサよりもずっとかたい毛が生えています。この毛を見れば、チカラシバだとわかるほどです。
 花穂を拡大してみましょう。
 
 赤く見えるところがおしべの葯です。
 葯が出ていないときと比べると、まるでちがう植物のようです。
 
 小花の先からひげのようなめしべが出ています。2本のように見えますが、本当は1本で、先の方が2つに分かれているのです。
 1本の部分を花柱(かちゅう)、分かれている部分を柱頭(ちゅうとう)といいます。細かい毛のようなものが生えていますね。
 おしべは3本です。先っぽに葯がついています。この中に花粉が入っているのです。
 ノギはありません。とにかく、剛毛(ごうもう)がすごい!みなさんもこれを目印に道ばたをさがしてみてください。
 
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