第53回 ショウガ科
華麗に進化したショウガ科
ショウガ科の先祖は、今から7,900万年前に出現しました。新生代に入ってまもなくのことです。単子葉植物の中では比較的新しいほうなのです。 単子葉植物も、ここまで来ると、生殖器官としての花の進化に加えて、個性をのばすという進化に変わってきたようです。 ショウガ目のあとに出現する風媒花のイネ目とは対称的な進化といえましょう。 ショウガ科には、 リエデリア属、ショウガ属、ヘディキウム属、グロッバ属、ウコン属などがあります。 |
単子葉植物のおしべは3数性により6本がふつうですが、ショウガ科の花のおしべはゴクラクチョウカと同じ5本です。1本が退化したのでしょう。 しかし、それだけではなく、5本のうち正常なおしべは1本だけです。これを 残りの不稔性のおしべのいくつかは、合生して 写真は、漢方薬でおなじみのウコンです。 |
レッドジンジャー | ||
学名 Alpinia purpurata K.Schum. ツユクサ類 ショウガ目 ショウガ科 ハナミョウガ属 | ||
レッドジンジャーと呼ばれています。 レッドジンジャーはハナミョウガ属です。 ちなみに、ミョウガは、ショウガ属であり、地下茎から花芽を出し、葉のついた茎からは花を咲かせませんから、ハナミョウガ属とは異なります。 |
シマクマタケラン | |
学名 Alpinia boninsimensis Makino ツユクサ類 ショウガ目 ショウガ科 ハナミョウガ属 | |
シマクマタケランは、小笠原諸島だけに生息するハナミョウガ属の植物です。 絶滅危惧種TB に指定されています。 撮影時、花はすでに終わっていましたが、白い花被に赤い筋が2本入っています。 ランの花にどことなく似ていることから、○○ランと呼ばれるようになったのかもしれません。 |
花が終わると子房がふくらみ、緑色からしだいに黄金色になっていきます。 |
トーチジンジャー | ||
学名 Etlingera elatior Horan. ツユクサ類 ショウガ目 ショウガ科 エトリンゲラ属 | ||
Achasma属、Geanthus属、Nicolaia属の3つの属が統合され、Etlingera属になりました。 トーチジンジャーは、まるで松明(たいまつ)のようだということでつけられた名前です。 大きなボタンのような花です。 花弁のように見える赤いヘラ状のものは、包葉です。 葉をつける茎には花をつけず、地下茎から直接花茎を出します。 葉をつける茎は3mほどにもなります。 |
ショウガ | |
学名 Zingiber officinale Rosc. ツユクサ類 ショウガ目 ショウガ科 ショウガ属 | |
ショウガ属は、今からおよそ1,000万年前の出現ですから、植物の中ではかなり新しい属といえます。 ショウガ属のショウガは、世界中でよく使われる香辛料です。豚肉や魚のくさみを取るときなどに使われます。 日本では、カツオの刺身におろしショウガが使われるので、かつては、5月の旬になると、ライバルのワサビの需要が落ちたそうです。 飲み物でも、ショウガ糖とかジンジャーエールなどが有名です。ジンジャーというのは、ショウガの意味なのです。 |
|
ローマ時代、香辛料の王様はコショウでした。インド原産のコショウは非常に高価なもので、黄金と同じ価値があったとされています。 マルコポーロの東洋見聞録でコショウが紹介されて以来、コショウを求めて大航海時代がやってきます。そのとき、ぐうぜんにもショウガやトウガラシも手に入れたのでした。 高価なコショウが貴族に使われたのに対して、ショウガは庶民に広がりました。スペインで栽培が始められ、庶民が買えるほどの値段になったからです。 |
ミョウガ | |
学名 Zingiber mioga (Thunb.) Rosc. ツユクサ類 ショウガ目 ショウガ科 ショウガ属 | |
ショウガ属には、ショウガのほかにミョウガがあります。 食べると物忘れをするというアレです。 子どもにはまずい食べ物のようですね。 ショウガは地下茎を食べますが、ミョウガの食べる部分は、じつは包葉なのです。 花は、包葉の間からつぎつぎと出てきます。 このことは、つぎのウコンとよく似ています。 |
ウコン (秋ウコン) | ||
学名 Curcuma longa L. ツユクサ類 ショウガ目 ショウガ科 ウコン属 | ||
葉に先がけ、花芽だけが地下茎から出てきます。この点は、ミョウガと同じです。 うすいピンク色の所は、まるで花被のように見えますが、ほんとうは包葉なのです。 上のほうはうすいピンク色をしており、最も上の数枚は花をもちません。 下の包葉は白色をしており、その中にはピンク色のつぼみをかかえています。 |
キョウオウ (春ウコン) | |
学名 Curcuma aromatica Salisb. ツユクサ類 ショウガ目 ショウガ科 ウコン属 | |
秋ウコンが白っぽい色をしているのに対して、春ウコンは全体的にピンク色をしています。 下の包葉は、黄色味を帯びています。 包葉の内側に花をかかえていることについては秋ウコンを同様です。 |
花が見えやすいように下の包葉を取りのぞいてみます。 黄色い花は、開花したものです。 黄色い花弁だと思いがちですが、ちがうのです。 黄色い部分の外側にはピンク色の部分が見えます。 花の構造を調べるために、花だけを取りだしてみます。 |
花を1つとって、横から見てみましょう。 子房が花冠より下についているから、子房下位であることがわかります。 子房の近くにあるうすいピンク色の小片は一番外側についているから外花被です。 がくとしてのはたらきはありませんから、やはり外花被でよいでしょう。3枚あります。 その内側には、ピンク色の内花被があります。 これも3枚あります。 |
内花被を少しはがしてみます。3枚の花被片が基部で合生しています。先のほうは 目立つ黄色の部分は花被ではなく、じつはおしべの一部が変化したものなのです。これを唇弁といいます。唇(くちびる)のように出ているからです。 ラン科にも唇弁があります。花弁のうち1枚が唇弁になっていました。ウコンはおしべが唇弁になりました。 |
ウコンの花を上から見た写真です。 上の写真とは、ずいぶん異なった感じがします。 花冠の中は袋のようになっています。 その中には、クワガタのような形をしたものがあります。 いったい何なのでしょう? |
じつは、おしべとめしべが組み合わさったものなのです。 おしべに めしべの アスパラガス目のラン科植物にちょっと似た感じがします。 ランの場合は、おしべとめしべが合生してずい柱になっていましたが、ウコンの場合は合生していません。 |
おしべの上に柱頭がのっかっているというぐあいです。 アップしてみるとわかるのですが、写真ではおしべ左側に毛が生えていることが確認できます。 葯隔の一方は、 真双子葉植物のスミレの葯隔も長くのびて、唇弁の スミレの場合は、その脚で蜜をつくり、距の中にたくわえたのですが、ウコンの場合は、はたしてどうなんでしょう。そこまでは観察していないのでわかりませんが、非常に変わったしくみです。 |
ウコンは単子葉植物ですから、3数性によりおしべが6本あるはずです。 しかし、ショウガ目の中には、おしべが1本退化して5本になってしまった科が多いのです。ショウガ科も、おしべは5本です。 ピンク色の花被を取りのぞいて、黄色の部分だけを観察してみます。 黄色の部分を唇弁と呼んでいます。 これは、なんと、 葯をもったおしべの両側に2個のおしべが合生して唇弁に変身しています。 残りのおしべはどこにあるのでしょうか。 |
花被や唇弁を取りのぞいて子房を見やすくしました。 妙なところにおしべがあります。 これが残りのおしべになりますが、不稔性ですから仮おしべとしておきます。 ショウガ科の花は、一部のおしべが弁化して唇弁になっていることが大きな特徴になっています。 ショウガ科の植物は、地下茎でふえます。 それでも花を咲かせるのは、新しい遺伝子の組み合わせをつくるためなのでしょう。 |
子房は茶色の長毛でおおわれています。 子房をたてに割ってみましょう。 たくさんの胚珠が中央の軸に鈴なりについています。 単子葉植物の特徴である中軸胎座です。 胚珠は成長すると種子になります。 |
子房を輪切りにしました。 中の胚珠は取りのぞかれてしまいましたが、3つのしきりがあることから、子房の中は3室であることがわかります。 これは、3個のめしべが合生したことを表し、3数性であることを示しています。 |
ウコンの葉は、単子葉植物ですから、平行脈です。 ヤシ目と同じように太い中央脈があり、そこから羽状に平行脈が出ています。 |
大きな葉の場合、このような形が平行脈として最も機能的なのでしょう。 バショウの葉を小型にしたような感じです。 |